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カナタノショコ  作者: まきなる
8/14

機械仕掛けのキタキツネ

 人はキタキツネとの過干渉を避けてきた。古くでは神の使いとして神聖視され、多くの人々はむやみに関わることのないように生活を行ってきた。現代では神聖視はもちろんのこと、エキノコックスを媒介することから人は避けてきた。しかし、ここ数年間で狐の可愛さに気がつく人が多くなった。雪の上を飛び跳ね、人懐っこい様子は瞬く間に人々の心を虜にすることになった。


 機械仕掛けのキタキツネ、通称キキの開発に障害になったのは鳴き声だ。キツネの鳴き声というものは「コン!」が浸透しているが、実際には「ワン!」と犬のような鳴き声をするのだ。開発者たちは議論を重ねた結果「クァン!」という間を狙った鳴き声にする。


 キキは飛ぶように売れ、多くの資金も集まったことで開発も進む。そして時が経ち、キキもはや本物のような風貌を持っていた。体は人造肉で血液はナノマシンになり、怪我をしても治ってしまう。そして、瞳から太陽光を吸収して動力源とする。爆弾で消し飛ばされることでもしない限り、朽ちることは無い体となった。



 キツネは何処!キツネは何処!彼らは本来の狐と同じような習性にプログラミングされた。つまり、森へと戻る個体も出現し始め、一匹のキキが逃走するたびに捜索が行われた。しかし、本物にあまりに似せすぎていたために外見では判別をすることができない。GPSが取り付けられて基本的にはすぐに捕まる。しかしどうだろう。もし、GPSが故障してしまったキキが居たのなら。


 そんなキキが現れてしまった。キキは自らを狐だと信じている。無尽蔵に動くことができるため、仲間が住みやすい環境に赴いてしまう。あぁ!ついに見つけてしまった!キキの視線の先にキタキツネがいた。互いに近づき、じゃれ合う。昔から仲が良かったように、野原を駆け回る。そして、キキは「クァン!」と鳴いた。


 野生のキタキツネはキキの声を聞くと、彼を静かに見つめた。本来であれば対象を対等に扱うキツネは、機械仕掛けのキキですら対等に扱うだろう。しかし、なんてことだ!不気味な雰囲気を感じ取ってしまい、野生のキタキツネはその場から立ち去ってしまった。一回だけなら良かったのだ。キキは行く先々で同じ体験をした。決して彼らは情報を共有していたわけではない。本能的な身を守る行動を取っていただけなのだ。


 朽ちることは無い体だとしても、キキの体は傷ついていく。治って、傷ついて、治って、傷ついて、何度も同じ苦しみを味わい続ける。雨が降ってきた。キキは洞窟の入り口付近で体を休めていた。怪我の治りが少しだけ早くなるのではないのだ。連日の曇り空のせいで太陽光が遮られて、エネルギー量が減っていた。今は少しでもエネルギー温存を図る。


 雨は止まない。彼の体にはスリープ機能が搭載されていた。エネルギーが得られない時に、ボディの機能を停止させるプログラム。音も聞こえない。感触もない。濡れたままの体はそのままに。次に日の光が当たれば、彼は再起動する。だが洞窟であるため、他の動物たちも集まってきた。キタキツネたちも含まれていた。キタキツネ達はキキの体に触れて、もはや彼は仲間ではないと錯覚した。


 空が晴れた。雨上がりの山の空気は澄んで、視界も自ずと開ける。キタキツネ達はキキを引きずり、日の下に運んだ。日の光を浴び、視界にあったセンサーが起動するとエネルギーが充填される。体をキタキツネは寄せ合う。冷たくなった体はエネルギーが溜まっていくにつれて温まり始める。そして、キキは目覚めた!キキは周りのキタキツネ達を見て、彼らのおかげだと気がついた。


 キキはわかっていた。鳴けば彼らは立ち去ってしまう。しかし、鳴かずにいられなかった


「クァン!クァ、クァン!」


 一匹のキタキツネがキキに体をこすり合わせた。彼らはキキを仲間だと思った。鳴き声が違っても、嬉しさの共有でどうでもよくなった。キキはこれからどうするのだろう。彼らの寿命を看取るだろうか。人里に戻るのだろうか。キキの目線はじっと彼らを見つめていた。















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プロジェクト40定期報告

被検体:01983号

・民家から脱走、GPS故障のために未発見

・視覚共有システムにより山中にいることが判明

・自然調査のために観察を続けることが決定

・一時スリープモードにより観察困難となる

・全国各地を駆け回り、自然調査の重要サンプルとして観察が続けられている

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