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カナタノショコ  作者: まきなる
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オカリナ

 私の人生もあまり長くない。だが遺書とかではなく、ただ思い出を書きたいがためにこれを書いている。ここに記すのは旅の途中、潮風漂う街で出会った少年と少女のお話だ。


 旅人であった私はその街に辿り着いた時、白い岩で塗装されて街全体が明るく輝く姿を見た。このような街が存在するとは思ってもみなかった。できれば長期間滞在したかったのだが、用事もあるために滞在期間をあまり長くせず、二泊三日と決めて留まることにした。ま、宿の名前は流石に忘れてしまったがね。


 宿屋の主人は優しく、彼の子供は私に良く懐いた。つい嬉しくなり、旅でどんな経験をしてきたのか、何を見たのかを話したのをまだ覚えている。彼はまだ町の外に出たことが無かったがために、外の世界を輝かんばかりに話す私の話はとても新鮮だったのだろう。


 次の日にも、彼は私に旅のお話をしてほしいと迫ってきた。しかし、どうにも歯切れが悪い。どうしたのかと聞くと、この話を別の子にも聞かせたいというのだ。別に話してはいけないことなど無かった。私は笑顔のまま了承の返事をした。


 しかし、彼の表情はまだ曇っていた。できることなら、私がその子にも話してもらいたかったようなのだ。宿屋の主人は息子に対して、私を困らせないようにと注意をしたが、条件として街の案内を頼むことにした。必要な物品も買いそろえなければならなかったので、街に詳しい人物が一人でもいると楽なのだ。


 彼と共に買い物をしながら、話にあった人物の下へと向かった。そして、もうすぐ着くと彼が言った時にある音が聞こえた。オカリナだった。とても澄んだ音色は耳の奥まで優しく撫でていき、私たちはその場で立ち止まってしまった。ただ、そのオカリナを吹いている少女こそが、彼が言っていた話したい人だった。妙に彼に目を向けると妙にもじもじしていたので、どんな関係なのかも理解した。年頃でよい反応だ。


 挨拶を済ませて、私は二人に旅の話をした。塩水ではなく砂でできた海、人の声を覚えて話す鳥、真っすぐにしか生えない草、私があまりに楽しそうに話すものだから二人もつられて笑顔になった。純粋に目を輝かせて話を聞く様子は、幼き頃の私にそっくりだったものだ。


 しかし、私がこの街に滞在できる時間はあまりなかった。街の滞在も最終日、私は準備を整えて朝早くに宿を出ようとした。次の街へ行くには一つ山を越えねばならない。日が昇れば山賊が現れ、夜になると獣たちが動き出す。できるかぎり早く出立したかったのだ。街の出口に向かう。すると、門の前にあの少年と少女が立っていた。


 少年は私にオカリナをくれた。どうやら、あのオカリナは少年が作っていたらしい。演奏に関してはあまり得意ではなく、少女に教えてもらっていたようなのだ。一方、少女は私に何枚かの紙をくれた。オカリナの吹き方や楽譜が書かれており、子供ながらに一生懸命作ってくれてたことが嬉しかった。


 別れの言葉を言い、私は街を去った。よくある旅の光景だったが、それでも私の心の中に強く残っている。潮風の匂いが私の鼻腔をくすぐる時、この思い出が頭の中によぎる。こうして思い出に浸れるのがどんなに幸せなことか。


 さて、次はどんな旅の思い出を記そうか。隣を見ると、古びたオカリナと切れそうにない紙の山が私を見つめていた。


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