海だー!
海だ!海だ!海だ!
ふんどしが一張羅、きらりと光る頭がトレードマークの男が波打ち際に立っていた。やめて!まだ12月でとても海に入るには無謀すぎる。だがしかし、この坊主の男は真っすぐ海に足を進めて飛び込んだ。
「うおぉぉぉ!!!」
男は泳いでいく。沖へ向かってひたすら泳いでいく。誰から見ても寒い。やがて浜に戻ってきた男は、満面の笑みで浜に突き刺さるように立っている。これが彼の日課で、朝早く海に泳ぐというものだった。
1時間後、彼は電車に揺られて会社に向かっていた。さっきとは変わってキッチリとネクタイを締めて、いかにもビジネスマンだ。
「おはようございます!!!!!」
オフィス内に気持ちの良い声が響いた。途端に社内の空気が明るくなる。そして、呼び出されていた部長の下へ向かった。
「えっと、今日から君は6階の部署に異動だったはずだよ…」
「はっ!すみませんでした!」
彼は鍛えられた足で、次の戦いの場に備える。何も恐れることは無い。毎朝、大海を相手にしている彼にとって、会社はクールダウンの場でしかない。些細なミスを気にすることは無かった。仕事終わりに飲む酒も旨いのだ。それも楽しみで生きている。
「今日からこちらでお世話になります!よろしくお願いいたします!」
きらりと光る頭を下げる。彼の頭の中は海で一杯だった。