第七章[雪ちゃん]
母によると、写真の少女は母のいとこらしい。
でもそのいとこが何故俺の夢に現れるのか、何故“ママ“と名乗っているのか、ますますわからなくなってしまった。
「母さん、この子なんだよ、電話で話した、高校生くらいの女の子って。」
「電話って、あの、夢の話の?」
「そう!驚いた。この人って、今どこにいるの?」
ついに色んなことがわかるかもしれない!
俺は期待を込めて母を見た。
でも母は眉間にシワを寄せていて…。
「母さん?」
「あ、ごめんね。雪ちゃんは…。」
言いにくそうに唇を噛む。
「そうね、本当は父さんが帰ってきてからと思ってたけど。」
そう言いつつも、母は迷っているようだ。
なんだ?そんなに深刻な話なのか?
「あのね、雪ちゃんは、もう亡くなってるの。」
「えっ?いつ?」
「20年前よ。」
それから母は心を決めたように俺をまっすぐ見つめる。
「郁人、落ち着いて聞いてね。」
「な、何?」
急に変わる空気に、なんとなく怖くなる。
「雪ちゃんはね…。」
母は一度目を伏せて、それからまた顔を上げた。
「雪ちゃんは、あなたの本当のお母さんなの。」
「え…?」
予想外過ぎる言葉に頭が回らない。
「え?いや、だって、俺は父さんと母さんの、え?あれ?」
「本当なの。」
動揺する俺を落ち着かせるように母が手に触れる。
そして彼女のことを話して聞かせてくれた。
20年前の12月25日、昼過ぎから降り出した雪のために夫を迎えに行った彼女は、その帰りに車に突っ込まれたのだという。
夫はほぼ即死、彼女も病院へ搬送されたものの、残念ながら息を引き取ったそうだ。
「その日って…。」
言葉に詰まる俺を見て、母が頷く。
「雪ちゃん、結婚して1年くらいで妊娠してね。史人さんと2人、とても幸せそうだった。」
母は涙を拭いて俺に視線を戻す。
「その事故の時にお腹にいた赤ちゃんが郁人、あなたよ。」
母の言葉は聞こえている。
でも何も理解できない。
俺が、彼女の子ども?
「いや、でも彼女、まだ高校生くらいで…。」
俺はもう一度写真を確かめる。
「本当に雪ちゃんらしい。」
母が目を潤ませながらクスッと笑う。
「雪ちゃん、よく言ってたのよ。幽霊ってなんで怪我してたり血だらけだったりするんだろうねーって。」
母の声が震えてくるのがわかる。
「私が…出てくる時は、自分が一番可愛かった時の姿にするのにって…。
永遠の17歳っていい響きよねって…凄く、楽しそうに…。」
堪えきれずに泣き出した母を見て、俺はそっと背中を撫でた。
想像を超える彼女の正体に、俺はもう、何も考えられなかった。