第五章[実家へ]
“ママ“という少女が現れてから10日ほど経ち、少しずつ色んなことがわかってきた。
彼女は雪だるまを作ると現れ、それが溶けるまでは一緒にいられるようだ。
雪だるまの数や大きさに関係なく、とにかく溶けるまで。
ただ、消えてしまっても次の雪の日に雪だるまを作ればまた現れる。
そしてどうやら、俺以外の人には姿が見えない。
陽太朗と棗の、いかにも気の毒といった俺への眼差しは忘れられない。
それでも何故彼女が“ママ“なのか、そして俺が忘れているらしい約束については全く思い出せず、また、彼女も教えてはくれなかった。
気にはなったが俺も深く追求することはせず、穏やかに彼女との時間は流れた。
「あー、やっと冬休みか!」
年内最後の講義が終わり、陽太朗が席を立ちながら背伸びをする。
「ユキは実家に帰るんだろ?」
棗が道具をまとめながら尋ねると、
「そうそう、“彼女“も一緒に?」
笑いをこらえるように陽太朗が続ける。
「はー、もういいよ、その話は…」
彼女の姿が見えない彼らにとっては、やっぱり俺がふざけているように見えるのだろう。
今更、講義中も隣に座ってたなんて言う気もない。
途中で消えてしまったところを見ると、雪だるまが溶けてしまったようだ。
俺が実家に戻ってる間はどうなるのか聞いてみたら、どこにいても雪だるまを作れば会える!とのことだった。
「なぁ、棗、俺の実家の方って、天気どうなってる?」
「ちょっと待ってー…んー、冬休み中は晴れが多いみたいだねー。初詣も大丈夫そう。」
「雪は?降りそう?」
「雪は…23日か24日あたりかなー。」
「そっか、ありがとう。」
どうやら冬休み中も彼女には会えそうだ。
「よし、じゃ、最後にどっか寄っていこうぜ!プチ忘年会!」
「そうだな。ユキも行ける?」
「うん。まだ俺だけジュースだけど。」
「あ、そっか!でも年明けたらお前も飲めるし、プチ新年会もやろうなー♪」
「だな。」
ポンっと背中を叩かれて歩き出す。
夢に出てくるのは実家だし、帰ればまた何か思い出すかもしれない。
年が明けて2人に会う時は新しい報告が出来たらいいなぁなんて思いながら、夜は過ぎていった。
そして数日後、俺は予定通り実家に帰った。
これから予想もしない出来事が待っているのも知らずに。