第二章[母との電話]
友人2人に夢の相談をしてからも、俺は彼女の夢を見続けた。
初めての出会いだろうか、俺が元気に挨拶をする夢。
嬉しそうに「ママ!」と呼びかけているものもあるし、彼女が優しく頭を撫でてくれる時もある。
しかしその全てが、彼女が何か呟いた途端に終わってしまうのだ。
起きても、相変わらず嫌な気持ちにはならない。
しかし、日に日に強くなる「思い出さなければ」という気持ちが俺を焦らせるのも確かだった。
「やっぱりこれしかないか…」
俺はのろのろとスマホを手に取り、履歴から母の名前に触れた。
「もしもし、どうした?」
聞き慣れた母の声。
なんとなくホッとしてしまう。
「うん。元気?」
「うん。」
「あ、父さんも?」
「うん。」
「…。」
「…。」
…さて、なんと切り出していいかわからない。
勢いで掛けてみたけど夢の話なんだよな。
俺の夢に出てきた女の子知ってるー?っておかしくないか?
考えてみたらそんな質問、ありか?
いざとなって迷い出した俺の空気を察してか、母が沈黙を破る。
「どうしたの?何か聞きたいこと?」
「あ、うん。あの…。」
えーい、もう言ってしまえ!
「昔さ、俺が幼稚園くらいの頃?
高校生の女の子と遊んでたよね?
白いコートの、ボブカットの。」
「えー…?女の子?高校生?」
「うん。白いコートをよく着てた!最近、その子がよく夢に出てくるから気になってさ。」
「んー。」
母の考える時間がとても長く感じる。
「いや、そんな子いなかったと思うよー。
遊ぶのはだいたい同じくらいの子たちばっかりだったもの。
よく公園に行ってさ。
あ!冬にはみんなで雪だるまも作ったわよねー!
郁人もテンションが上がるのか、雪だるまを作った時だけは私のこと“ママ!ママ!”って呼んで。」
「あー…。」
「そういえば小学校に上がる時にそっちに引っ越した子いたわよね?
ええっと…。」
(そうか…。母さんも覚えてないのか。)
全ての手掛かりを失った気がして、母の話はそれ以上入ってこなかった。
言われてみれば確かにあの頃は幼稚園か、大きくても小学校の子どもたちしか周りにいなかった気がする。
そんな中に高校生の、しかも女の子なんかいたら珍しくて母も覚えてるだろう。
そしてもちろん、母がウソをつく理由もない。
「…おーい、郁人ー!聞いてる?」
「え?あ、ごめん、何?」
考え込んでしまった俺は、母の声で我に返る。
「もう、どうしたの?」
フフッと笑って母は続ける。
「冬休み、帰ってこられるんでしょ?」
「うん、そのつもり。」
「よかった。記念すべき二十歳の誕生日ね。」
感慨深そうな母の声。
「大事な話もあるし、気を付けて帰ってらっしゃいね。」
「大事な話?何?」
「帰ってきてからのお楽しみ!」
「なんだよ、それ。」
「いいからいいから!電話ありがとね。
風邪ひかないようにするのよー。」
「うん。ありがと。父さんにもよろしく。」
「はーい。」
結局、なんの謎も解けないまま、母との通話は終わってしまった。