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魂護荘  作者: 三四四暮
2/2

初めの一週間

 9/27、魂護荘にやってきた私はまず唯一の住民である大学生「乾 真(いぬい まこと)」さんに挨拶に行くことにした。


 幸い今日は学校は休みだったようで彼はすぐに出てきてくれた。黒いロングの髪に細い目、そして和服と正直ちょっと浮世離れしているように感じる。


「こんにちは。見かけないお顔ですが……新しい管理人でしょうか?」


「はい。初めまして、前任の戸倉さんに代わりまして魂護荘の管理をいたします岡崎鎮江と申します」


「ご丁寧にありがとうございます。乾真と申します。立ち話もなんですしどうぞ、上がって行ってください」


「ありがとうございます。お邪魔します」


 部屋に入ってまず目に入ったのが二つ並んだ大きな本棚だ。どちらも天井近くまであり、そこには民話やオカルト、いわゆる怪談、異教に関連した本が隙間なく並んでいる。


「私はこのような恰好をしていますが大学で民俗学の研究をしているんですよ。読書が好きなのも確かですが」


 私の視線に気づいたのかお茶を淹れていた乾さんが疑問に答えてくれた。


「この部屋に入ってまず本棚に目を向けるということはもしかして岡崎さんも読書がお好きなんですか?」


「はい。あまりこういったオカルトものは読みませんが。私は恋愛ものや生き物に関する書籍を好んで読んでいましたので」


「そうでしたか。でしたら……」


 こうしてすっかり話し込んでしまい、気づけばすでに日が傾きアパートを赤く染めていた。


「おや、もうすぐ日が暮れてしまいますね」


「え!? もうそんな時間!? すみません、これから少し予定があるので後日またご挨拶にお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ。このアパートに住んでいるとあまり話し相手がいないもので、いつでも歓迎いたします」


「ありがとうございます! ではお邪魔しました!」


 このあと私は乾さんと話していた時間の分を含めた今日の業務を大急ぎでこなして乾さんの部屋の様子を思い返してみた。


 乾さんは大きな本棚に様々な調理器具を入れる棚、冷蔵庫、テーブル以外に大きな家具がないという質素な生活を送っているようだった。


 ただ気になったことが一つだけある。それはテーブルに置いてあった長方形のお札だ。


 お札といえば神道の神符が日本では一般的だろう。海外だと黒魔術やルーン魔術に使われているが今日見たものは昔のミミズのような字で書かれているものだった。


 民俗学を研究しているなら不思議ではないかもしれないが資料だとしても数が多すぎる。軽く百枚はあるのではないかというくらいのお札がテーブルの上に置かれていた。


 おかしいと思った私は乾さんをしばらく調べてみることにした。





―――――――――――――――

 それから一週間。乾さんを調べてみてわかったことは以下の三つ。


 一つ。あのお札は資料に過ぎなかったこと。


 彼を部屋を再び訪れたときにそれとなく聞いてみたところ同じサークルのみんなといろいろ調べるために一定数必要だったそうで、実験をしている様子が映った画像を何枚も見せてくれた。


 二つ。仏教を信仰しているというのは正しいとは言えないということ。


 彼は信仰している宗教はないらしく、仏教徒だと思われたのは以前私のように訪ねてきた人がいた時にちょうど仏教を研究していて経典や数珠を持っていたこと、和服を着ていたことが原因ではないかとのことだった。


 実際にこの一週間で何人かのサークル仲間に話を聞けたがどんな宗教でも気にせず研究しているようで、そんな異色の研究者の集まりが彼らのサークルだそうだ。


 三つ。彼はこのアパートで何人も管理人が辞めている理由を知っていそうだということ。


 彼との会話の中で私の会社の話になり、このアパートの管理人が辞める前の様子について聞いた時に彼は自分の知っていることを話した後でポツリと「やはりここは〇〇〇〇なのでしょうね……」とつぶやいていた。


 思わず「え?」と聞き返すと「私、何かつぶやいてましたか? すみません、考えていることを口に出してしまう癖があるようです」と言っていたのでこの地に何か秘密があるのだと気づいた。


 そしてアパートについてもわかった。


 それはとある期間のみ怪現象が起き、それ以外は平和で怪現象どころかネズミや蚊といった厄介者もいない住み心地の良いアパートだということだ。


 こんなに住み心地のいいアパートを寂れさせておくのは勿体ないと私は怪現象を調べることへの決意を新たに土地について調べ始めた。

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