学園のマドンナに追いかけられ逃げたけど捕まった話。
小説書くのってエネルギー使いますね。皆さんすごいです。勉強になりました。
今日はツイてない。小さく呟き、身体の向きを変え、全力で走り出す。
オリンピック選手さながらの走り出しで屋上から逃げ出した私、天草 夏目は「いける。撒ける!」と少し自惚れたが、世の中そんなに甘くなかった。
私は知らなかった。自分を鬼の形相で追いかける少女が陸上部エースで県大会準優勝者だったなんて。
ちらりと後ろを見ると奴との距離はどんどん縮まっていた。グイグイと伸びるように走る女のフォームは洗礼されていたと思う。チラ見しかしてないから、あくまで印象だ。
このままではジリ貧。純粋なスピードで勝てないなら、曲がり角や階段などの障害物を使って撒こう。そう決めると早速、目の前の角を曲がる。
「っごめん!」
曲がった先に赤色のネクタイをした小柄な少女がいた。一年生だろう制服に着られている感が初々しい。少女はいきなり現れた私にその大きな瞳をさらに大きくさせ驚いている。
咄嗟に謝りながらぶつかりそうになった身体を器用に反らし避けた。そしてそのまま再び全力疾走。
次は階段、12段あるそれを一気に飛び入る。着地と同時に膝を曲げ、両手をついてジャンプの衝撃を逃す。階段の踊り場で向きを変えて再度、先ほどと同じように飛んだ。
「ま、ちなさいっ!…ころすっ」
後ろから聴こえてくる声、奴も階段を飛んでいるのが視界の端に映った。
「ごめんっ!それは、待てない!!」
まじかよ。心の中で驚きながらも、足は止めない。
再び角を曲がると玄関が見える。靴を履き替えてそのまま帰りたい。でも履き替えている最中に絶対捕まる。
玄関を通り抜け、今度は1段飛ばしで階段を駆け上がる。かなり消耗するが、この先にある理科準備室前で少し奴との距離を稼ぐ。
階段を登った先を右折。理科準備室と書かれた室名札が見えた。部屋の前の廊下には、大量の段ボールと良くわからない道具が乱雑に置かれていた。減速して段ボールと道具の山を崩さないように避ける。
先に見える階段をまた飛び降り、1階へ。再度玄関を通過し、先にある部屋の扉を勢い良く開け、中に身体を滑る混ませてから今度は丁寧に扉を閉める。
目論見通り理科準備室前で時間を稼げたようだ。部屋に入る際に振り返った時、奴の姿は見えなかった。
「ふぅ」
ひとまずは安心かなと胸を撫で下ろす。
それにしても、なんで私を追いかけていたのか…。屋上で何をしていたのか、見られたくない場面だったのだろうとは思う。あの様子だと捕まったら口封じか、消される…。
「いらっしゃい、夏目ちゃん」
ブルッと震えていると背後から優しげに声をかけられた。私が逃げ込んだ先は保健室。声をかけてきた人は保健室の先生だった。
後ろを振り向き、息を整えながら保健医へ軽く挨拶をする。
「あら、どうしたの?顔真っ赤よ」
「あはは…。ちょっと鬼ごっこをしてまして」
誤魔化すように笑いながらいうと保健医は少し怒ったような顔した。
「もう、校舎内は走っちゃダメよ」
保健医は最後に「めっ」と言うと、薬品だなへ向かって探し物を始めた。
頬にかかる髪を人差し指で耳にかけながら、何かを探している彼女は大学卒業してすぐこの高校に赴任された保健医である。
年齢はまだ若いが、良い大人が「めっ」は如何なものか…。年齢について思考していたら保健医から鋭い視線を飛ばされた。
「ご、めんなさい。そうだ由季ちゃん。少しだけ、ここで休ませてください」
未だに跳ねる心臓を落ち着かせるように呼吸しながら、保健医の由季ちゃんもとい、四季森 由季にお願いする。
「もう、ちょっとだけよ…それと先生って呼びなさいっていつも言ってるでしょ」
由季ちゃんは眉をハの字にして笑いながら言うと、私の目の前まで近寄り、額に冷えピタをベタと貼り付けてきた。
「冷たっ!もうちょっと優しくしてくださいよ」
「先生って呼ばない罰よ。あと少ししたら帰ってね」
私は突然の冷たさに由季ちゃんへ抗議する。そんな私をあしらう様にそう言うと由季ちゃんは自身デスクへ向かった。
「…ベッドかりまーす」
「10分だけね。授業に間に合わなくなっちゃから」
間延びした声を上げるとデスクの方からそっけない返事が来た。私は少し頬を膨らませ「ケチ」と呟く。
「そうだ…。ねぇ由季ちゃん。姉さんが研究に行き詰まってるみたいで、最近煩いんだよね」
私と姉とは頻繁にチャットしている。休日には姉が一人暮らしをしている部屋に遊びに行くこともある。
今は大学院生で性格は、少々鈍感なところがあるが気が回るし身内にも他人にも優しい。その姉が最近、ちょっと煩わしいのだ。
「青葉が?めずらしいね。分かった、チャット送ってみるね」
由季ちゃんはデスクから視線を上げ、そう言って近くに置いてあった鞄からスマホを取り出し操作を始めた。
「姉さん多分、甘えた期に入るよ」
ボソリ。と告げると由季ちゃんはカチンと固まり、動かなくなった。気にせず続けて言う。
「この間、遊びに行って見て来た。あの様子だとそろそろ限界だよ」
我が家の姉は限界まで追い詰められると、突然人に甘えだす。ぐーたら弱音を吐いていた状態から一点、またたびを与えられた猫のようになるのだ。
庇護良くを刺激されるその様は、身内の私でさえ全ての我儘を聞いてしまいたくなる程。
「今度の休み、姉さんの息抜きで、一緒に買い物する予定なんだけど…」
勿体ぶるもうにゆっくりと言った。
由季ちゃんは姉が甘えた期に入ると、姉と2人きりでどちらかの過ごす。姉は、由季ちゃんと2人で過ごすと2、3日ほど続く甘えた期が一日で終わるのだ。
ちなみに一日を過ごした後の2人はお肌艶々だ。私はそれを知らないフリをしている。本当一体ナニをしているんだろうね。そんな私の言葉から由季ちゃんは悟った様にそして、諦めたようにため息をついた。
「この後の授業だけだからね…。ベルが鳴ったら起こすから」
はい!先生!元気に返事をしてベッドへダイブした。
「今度の休みは姉さん家で大人しくお留守番してます!」
交渉成立。次の休み、姉さんは由季ちゃんの家で過ごすことが決定した。
由季ちゃんは私の姉、青葉と交際している。同性同士だが、最近は珍しくもない。二人は四季女学院、この学院の卒業生である。中等部で出会い、高等部で恋人同士として付き合いはじめたその関係は現在も続いている。
四季女学院は男性を徹底的に排除している中高大一貫の学院。良家の御息女方が通う歴史ある全寮制の女学院だ。
娘に悪い虫をつけたくない親達が学院に多額の寄付をしているため、あらゆる設備が整っている。おまけに閉鎖的なこの学院はミッション系スクール。清廉潔白を重要視している。他にも学院の意向で文武両道を教育理念として掲げており、部活動への所属は必須。
毎週日曜日に礼拝があるし、欠席なんてしようものならいくら成績が良くても補習を受けさせられる。しかし、厳しそうに見える環境に反して、風紀や校則は緩い。
男性が排除された環境かつ、教育理念や思想は高潔で生徒にもそれを強いるが、風紀には寛大。つまり、何が言いたいかと言うと、この学院は女学生同士の恋愛事には事欠かない。姉さんと由季ちゃんも、それは例外じゃなかったということだ。
そんな二人の当時の話は今もなお学院生の中でひっそり伝わっており憧れの的だ。
将来の義姉の“好意”で心おきなく眠った私は優しく身体を揺すられ起きた。ぼんやり目を開けると呆れた顔の由季ちゃん。
「そういう顔、青葉そっくりね。熟睡してたけど次の授業出れる?」
由季ちゃんの優しげで心地よい声を聞きながら、コクンと頷く。
「はい、お水」
由季ちゃんは保健室に常備してあるウォーターサーバーから水を紙コップに注ぐと私に手渡してくれた。ごくごくと喉をならしながら飲む。
「あと、なんふんある?」
寝起きでうまく声が出ず、呂律が回らない。由季ちゃんはそんな私の様子を「本当、そっくり」と微笑ましそうに見つめる。。
「15分よ。教室に戻って、寝ぼけた頭を覚醒させるにはちょうど良い時間でしょ」
私の質問の意図を理解してそう答えると、茶色の瞳を細めながらお茶目に笑う由季ちゃんは、私の持っていた空の紙コップをスッと抜き取り、ゴミ箱へ捨て仕事に戻った。
私も教室に戻るためベッドをおりる。上履きを履き由季ちゃんにお礼を言って保健室を後にした。
まだぼんやりしている頭で歩きながら、追いかけられていた時のことを思い出す。彼女は自分と同学年だろう。セーラー服の襟のラインの色からしてそれは確かだ。そして私が知らないということは他クラスの生徒。
本当に一瞬しか見えなかったけどかなり綺麗な子だったと思う。清純という言葉が似合うだろう。そう、外見だけなら。鬼の形相、足の速さ。それに、ころすって言われたと思う。すっごいこわかった。思い出すだけでも震える。
階段を上り、2年のクラスがある階に着いた。そのまま自分のクラスへ向かって歩く。
「…っ!」
背後から殺気を感じ、とっさに後ろを振り向くが、廊下には教室から出て談笑している生徒が数人居るだけだった。
今感じた殺気は綺麗さっぱりなくなっている。気のせいかと、前を向いて教室に入ると今度は一斉にクラスメイトがこちらを見た。
「なっちゃん!おかえり!」
なんだなんだと、いつもと違うクラスの雰囲気に戸惑っていると、小柄な少女が私の名前を呼びながら抱きついて顔を見上げてくる。
「ただいま。鈴」
私は抱きついて来た少女、逢澤 鈴の頭を慣れた手つきでポンポンと撫でた。
自然と頬が緩み、目尻が下がる。癒される。この子は天使だ…。ジーンとしながら今日の朝からの行動を思い返す。
今日は朝からツイていなかった。星座占いは最下位、お気に入りのスニーカーの紐は一歩踏み出した瞬間切れたし、仕方なしに慣れないローファーを履いたら靴擦れができた。
途中、天気雨にも襲われた。下ろし立てのシャツはビシャビシャに濡れた為、寮に戻って着替えてから登校したら遅刻で担任に怒られた。
授業では苦手な数学で当てられ、その次の授業は、教科書を忘れた。もう午前は散々だった。私のヒットポイントは朝からじりじりと削られ残り1だ。
そんな心身を癒すため、立ち入り禁止で人気の少ない屋上でお昼を過ごそうと思ったのだが…。と、それ以上思い出すのは億劫でため息をついた。
「なっちゃん!あのね、さっきなっちゃんに用があるって冬華ちゃんが来たの!」
元気いっぱい大きな声で鈴は言った。
「あぁ、だからか…」
クラスメイトの視線が私に集中したのは学院の有名人が私を訪ねてきたからか。
周囲を見渡すと目があったクラスメイトたちはすぐに視線を逸らした。私が視線を外すと再びこちらを見ているのが気配でわかった。あんまり良い気分ではないな。
篝火 冬華。私も名前だけは聞いたことある。眉目秀麗で文武両道を体現したような人だと。成績は常に学年一位、部活動は陸上部でエース。県大会準優勝者だと聞いた。
主に目の前の少女、鈴から。
話を聞いた当初、そんな完璧超人いるものかと思ったこともあったが、毎回張り出されるテスト順位表の1位の欄には、篝火 冬華の名前が常にあったのをみて、実在する人物だったのかと思った。
完璧超人の篝火さんが私みたいな愚民に一体何のようなのだろう。と首を傾げる。
「お昼の時のことで用事があるって言えばわかるからって言ってたよ!」
はて、本当になんのことだろう。
*****
四季女学院には、冬はブレザー、夏はセーラー服、それ以外の季節は自由という服装規定がある。
富裕層のご令嬢が通うこの学院は、親御さんからの寄附金がたんまりだ。設備だけでなく、制服のデザインにも惜しみなく金銭を欠けている。
ちなみに、今は春なのでどちらを着ても良い。制服は見た目で学年がわかるようになっており、ブレザーの場合はネクタイ、セーラー服の場合は襟のラインの色で学年毎に違う。1年生は赤、2年生は青、3年生は黄色だ。
私は基本ブレザーを着用しており、2年生のためネクタイの色は青。そして、目の前で私を睨みつける超絶美少女はセーラー服を着用、襟のラインは青、同学年だ。
私はホームルームが終わり放課後のベルが鳴るや否や早々に帰路に着こうとしていた。鈴の言っていた篝火さんのことは全く心あたりがないので、無かったことにしたのだ。
ちなみに部活動だが、部室のメンテナンスがあるとかで、お休みだ。
他にもメンテナンス等で休部になるところがいくつかあるとかで「いっその事、全部活、お休みにしよう」と楽長の一声で本日全部活が休部となった。
そして、本日は花の金曜日!寮母さんに外出届けをだしてその足で姉さんが借りているマンションへ泊まる予定である。姉さんが私のために新作ゲームを買ってくれたとかで非常に楽しみ。
今の私は気分最高潮。ルンルンとスキップしてもい良いぐらいだ!
上機嫌に鼻歌を歌いながら、外出届けを書き上げるとスクールバックに仕舞い、そのままリュックのようにスクールバッグを背負う。
「さて、すず〜。…鈴?」
私の帰り支度を待っていた鈴に声をかける。鈴はいつのまにか教室入り口で誰かと話し込んでいた。
「あ、なっちゃん!来てきて、お客さんだよ!」
私に呼ばれ嬉しそうにこちらを振り向く鈴が私を呼ぶ。
「お客さん、ってどちらさ…っ!?」
「ご機嫌よう、天草さん。先程ぶりですね」
教室入り口で鈴の相手をしていた人物に視線をやるとそこには、お昼に鬼の形相で私を追いかけていた少女が立っていた。
「ごめん、鈴。先に帰るね!!!」
私はそう告げると一目散に走り出す。
「ちょっとっ!まちなさい‼︎」
後方で声を上げる少女に「むりっ!」と告げ加速する。
なんで、どうして。頭の中は混乱していた。何故彼女は私の名を知っていたのか。どうやって私のクラスを呼び止めていたのか。というより、あの完璧超人の篝火 冬華は彼女だったのか!衝撃的事実だ。
たしかに綺麗だし眉目秀麗という言葉を体現したような少女だったが、私にとっては鬼そのものだ。学園全生徒の憧れであろうと、私には関係ない。
お昼に追いかけられた時の印象が強く、私は彼女に強い恐怖を覚えていた。恐怖に陥った私の身体が持ち前の運動能力を生かして、咄嗟に逃げ出したのは必然だった。
どうするどうする。相手は完璧超人お昼の時と同じ手は使えないだろう。それに陸上部のエースだと聞いた。策無しにこのまま逃げ果せるとは思えない。
屋上に逃げるのは無しだ。追い込まれておしまいだ。
お昼の時と同様に保健室に逃げ込もうにも、放課後は空いてない。それにホームルームで職員会議があると言っていた。由季ちゃんも会議出席のため早めに保健室を閉めているはず。
そうだ部室棟だ。あそこなら各部の道具やらで障害物が多い。理科準備室の時のように一定量の障害物で撒く手が使えないなら、いっそ全部障害物にしてしまえば良い。
早速、部室棟へ向かって方向転換をする。階段を飛び降り、角を曲がる。
「きゃ!」
「わっと…!ご、ごめんっ‼︎」
曲がった角の先で誰かとぶつかりそうになる。どこかで見たことある子だと思ったら、お昼に見た1年生だった。2回目だからもう少し丁寧に謝りたかったが、今はそれどころではない。
なので、申し訳ないが一言謝罪してまた走る。
「い、いがけんっとまりなさいっ!」
篝火さんの声が聞こえてくるが、そう素直に止まれない。止まった先に待つみらいは死あるのみ。私は、まだ命が惜しい。もうすぐ、もうすぐで部室棟に続く廊下へ出れる!
「…っ!なんっ⁉︎」
期待感に包まれながら角を曲がると無数の段ボールとメンテナンス業者のものとわかる荷物が壁を作るようにして廊下に置かれ、立ち入り禁止の看板が立てかけられていた。
引き返して別の道へ逃げるには距離が足りない。頭の中は逃げることで思考がぐるぐると回っている。その間に篝火さんに距離は詰められ、とうとう逃げられなくなった。
行き止まりの廊下に追い詰められた私は、ギギギと後ろを振り向く。
神は死んだ。
そこには悪鬼の様な邪悪な笑みを浮かべる篝火 冬華。
私は観念したように片手を上げ、引きつる顔で無理やり笑みを浮かべる。
「や、やぁ篝火さん。ご、きげんよう」
彼女は大股でズカズカ近づいてくると、私のネクタイをひったくるように掴み自分の方へ引き寄せる。締まるネクタイにぐえと声をもらしながら、まっすぐこちらを見てくる篝火さんを見た。
バクバクと激しく跳ねる心臓は全力疾走の所為か、はたまた目の前の悪鬼に対する恐怖の所為か。
ぞっとするその美貌にドキドキ…の可能性もあるが、それは限りなく低い。なんせ私の心臓はドキドキっなんて可愛らしい鼓動ではなく、バクバクと暴れ馬の様に跳ねているのだ。
全身から吹き出した汗が止まらない。ツーと頬を伝う汗が落ちる。静かに篝火さんの言葉を待つ。
「はい、ごきげんよう。早速で悪いけど、今すぐそのキモい笑顔をやめなさい。そしてこれから私について来ること。返事は“イエス”か“はい”か“わん”だけよ」
全然悪いって思ってないよね。あと大事な拒否権がないよ?最後のわんってなんだ。犬じゃん。人ですらないじゃないか。
「返事」
凍えるような冷たい声に、私の背中は大量の汗を流した。
「わ、わん」
上げていた片手をがくりと落とす。
ーーーーーーーーああ、本当に、今日はとことんツイてない。
追いかける側と追いかけられる側という関係から始まる物語。
彼女たちの百合物語は、この時から紡がれ始める。
なんちゃって…。気が向いたら連載にして続き書きます。




