5話 勇者達2
「こいつらは我がエーナー王国が誇る最強戦力、勇者様達だ。昨日、俺達の報告を聞いてこのダンジョンに興味を抱いたらしく、連れてきたんだ」
(おうふ)
オレは思わずマスタールームにいながら、胸中で驚きの声を漏らしてしまう。
ダンジョン運営2日目にして、天敵ともいえる勇者ご一行が来るとは予想外だった。
「ど、どうするんですか!? 勇者が来ちゃったじゃないですか! だから私はあれほどエーナー王国の側に作るべきじゃないって言ったじゃないですか!?」
「落ち着けネア。大丈夫だ。昨日、大量にポイントが入ったお陰でダンジョンを拡張&強化することができた。たとえ勇者でも簡単に攻略なんてされないって」
「ほ、本当ですか? 『今日でダンジョンが終わり』なんてことになりませんか?」
「大丈夫。絶対にそれはないから」
オレの言葉に気を持ち直したのか、動揺していたネアが落ち着く。
彼女が十分に冷静さを取り戻したのを確認して、オレは勇者達の対応に意識を戻した。
☆ ☆ ☆
「――これはこれは。改めましてようこそ! ドリーム・ダンジョンへ。勇者様に来て頂けるなんてダンジョン冥利に尽きます」
「普通は僕達が来たら嫌がると思うんですが……」
女顔の黒髪少年が微苦笑しながら指摘してくる。
背後に居る女性陣、長い黒髪の美少女、眠そうな表情の美少女が同意するように頷いていた。
彼、彼女達が異世界の勇者らしい。
見た目から自分と同じ世界、日本から来たようだ。
珍しそうに、懐かしむような目でダンジョン内部にあるゲーム筐体を眺めている。
「なんか昨日よりあからさまに遊具が増えてないか?」
「皆様がまた来てくださると仰ったので、張り切って追加しました」
冒険者リーダーの言葉に答える。
『彼らが来たお陰で大量のDPを得たから』なんて素直に答えるつもりはない。
ちなみに追加した遊具――ゲーム筐体は以下の通りである。
まず『掴みキャッチャー』
本体は中古で3万5千DP。
ヌイグルミ1個で、100DP。100個準備したので1万DPかかっている。
合計で4万5千DP。
格闘ゲーム筐体×2。
本体価格は3万DP(スト○ートファ○ター2)。
本体価格は3万DP(ギ○ティー・ギ○X)。
ダンス・ダンス・ダンス・ダンス(D4)。
本体価格は5万DP。
太鼓で遊べ!
本体価格10万DP
『プリントシールで遊ぼう(プリシル)』本体。
本体価格は10万DP。
消耗品代として、さらに3万DP。
合計が38万5千DPという大判振る舞い。
他にも筐体を置いたことで手狭になったのでダンジョンの部屋を拡張。
さらに地下を作り新しいゲームを置いた。
「新しいゲーム筐体……遊具が増えたのでまずは一つずつ説明しますね」
「あの、その前に自分達が質問していいですか?」
新しく追加したゲームが多いので、説明しようとリーダーに話を振るが、勇者少年に遮られる。
彼と背後に居る彼女達の真剣な空気に冒険者リーダーが譲った。
「魔王さん、先にこいつらの相手をしてやってくれ。俺達は適当に見て回るから終わったら声でもかけてくれ」
「分かりました。一応、遊具には『どうやって遊ぶのか』の図と説明が書かれているので、こちらは気にせず遊んでください。全部、銀貨1枚で遊べますので」
各ゲーム筐体の遊び方は、元々簡単な図が筐体に記されている。
細かい文字の説明は、昨晩、サポーターのネアが頑張って書いてくれた。
なのでオレの説明がなくても1、2度ためしに遊べば感覚を掴むだろう。
昨日も来たBクラス冒険者達はそれぞれゲーム筐体へと散る。
残された勇者達を出入口でいつまでも立たせて居るわけにもいかず、端にある休憩スペースの長椅子&机に案内した。
長テーブルを挟んで勇者3人と向き合う。
「それでお聞きしたいこととは?」
「はい、えっと……」
「ああ、自分は……そうですね。ウッドマンの魔王なんで、『ウッド魔王』とお呼び下さい」
「分かりました、ウッド魔王さん。僕は片山悠人です」
「私は本条奈々美です」
「……相川唯」
「僕達は三人とも日本人です。ウッド魔王さんも日本人なんですか?」
「ふむ……」
勇者3人は予想通り日本人らしい。
少し考え素直に答える。
「いえ、違います。自分はウッドマンですね」
「…………」
悠人と名乗った少年が左側に座る少女、奈々美を見る。
彼女は頷いた。
どうやら真偽を判断する魔術を使ったらしい。
結果は真。
嘘はついていないと判定する。
実際、記憶は殆ど無いが自分は元日本人だ。
しかし今はウッドマンという魔物に魂が篭もっているに過ぎない。
そのため『日本人ではない』と答えても嘘にはならないのだ。
「ではなぜこのような……僕達の世界にあるモノがこんなに山ほどあるんですか?」
「申し訳ございません。さすがにこれらの遊具については回答しかねます」
「それって!? ……いえ、こちらこそすみません。手の内を明かすなんて駆け出し冒険者でもしませんよね」
勇者少年は声を荒げかけたが、途中で自身の不作法に気付き黙り込む。
彼の代わりに、黒髪美少女の奈々美が問う。
「あ、あの魔王さん、一つだけお答えください」
「なんでしょうか?」
「魔王さんは日本に還る方法を知っていらっしゃいますか? もしかしたら日本に戻ってこれらのゲーム機を買って来たりしているんですか?」
彼らは日本に戻りたいらしい。
残念ながら日本に戻る方法など本当に知らない。
言葉にするのはしんどいが、否定せず希望を持たせる訳にもいかないだろう。
「そういった方法では手に入れていません。自分は『日本』という場所に戻る方法は本当に知らないのです。お力になれず申し訳ありません」
「そう、なんですか……」
前のめりに問いかけてきた奈々美が、意気消沈した表情で座り直す。
魔術を使用し、嘘を付かれていないことも知ったようだ。
場の空気が暗くなる。
誰も話さず沈黙が続く。
最初に沈黙を破ったのは、勇者側だった。
唯と名乗った少女が小さく手をあげる。
「……質問。ここにあるゲームをクリアしたらダンジョンコアまで行けるって本当?」
「ええ、本当です。それは確実にお約束します」
「……分かった。ならクリアする」
「唯ちゃん! せっかく優しくしてくれた魔王さんに失礼だよ!」
奈々美は唯の『クリア』発言に釘を刺す。
唯は気にせず、どこか眠たげな表情で返答した。
「……ここのダンジョンコアを壊しても、日本に還る可能性は殆ど無いけど、特定の品物を取り寄せるスキルが手に入るかも。だから、ここのダンジョンコアの破壊はわたし達の手でやりたい」
「!? た、確かにその可能性は高いですよね……でも」
唯の提案に奈々美が激しく反応する。
日本に戻れなくても、日本の物が手に入るスキルを得られるかも知れない。
『喉から手が出るほど欲しい』と勇者達の顔には書いてあった。
というかダンジョンコアを壊したらスキルが手にはいるのか?
神側にも色々ルールがあるようだ。
なるべく明るい声音でうながす。
「自分のことは気にせず、どうぞゲームをクリアしてください。皆様に楽しんでもらうためにこの『ドリーム・ダンジョン』は存在しているのです。楽しんで頂いた末に、ダンジョンコアが破壊されるのなら本望ですから」
オレの言葉を聞くと、勇者達の表情が緩む。
自ら『ゲームクリアしたらダンジョンコアを破壊しても未練はない』と言っているのだ。
免罪符を手に入れた顔をする。
「で、では遠慮無く、唯、頼む」
「唯ちゃん頑張って!」
「……任せて」
悠人と奈々美に応援されて、唯が席を立つと銀貨を手にゲーム筐体へと向かう。