4話 勇者達1
少年の名は、片山悠人。
16歳。
彼は高校入学後すぐ友人2名と一緒に帰宅途中で強い光に呑み込まれる。
気付くと悠人達は魔法と剣、ダンジョンと魔王達が蠢く異世界へと召喚されてしまった。
悠人と一緒に召喚された友人の1人は、幼馴染みの本条奈々美。
黒髪でスタイルがよく、美人で特技は料理や家事全般という理想を絵に描いたような少女だ。
そのため中学時代から男性に多数の告白を受けていた。
彼女は悠人一筋のため、全ての告白を断っている。ただ勇気がなく未だに悠人へ告白はしていない。
一緒に召喚されたもう1人の友人は、奈々美の中学時代からの親友、相川唯だ。
茶色い髪は短く、背や胸も小さい。そのため一見すると小学生女子に見えてしまう。
いつも眠たげな表情をしているのが特徴といえば特徴だ。
彼女は奈々美とは違った方向性の美少女で、小動物的可愛さ、護ってあげたいという保護欲をかき立てる。
故に彼女のようなタイプが好みな男性達から、アプローチされていたが、菜々美同様全てを断っていた。
そんな彼、彼女達は異世界から召喚されてすぐ、この世界最大国家のエーナー王国に保護された。
国から詳しい話を聞く――。
この異世界には複数のダンジョンと各魔王が存在する。
神は魔王を倒し、ダンジョンの数を減らすため時々(大凡100~150年周期で)異界から勇者を喚び出す。
その勇者召喚に悠人達が選ばれ、喚び出されたらしい。
彼、彼女達は最初、困惑した。
なぜ自分達なのかと。
元の世界に戻る方法も今のところ分からない。
より高レベルのダンジョンを統治する魔王を倒せば、神の報酬として元の世界に戻れるかもしれないらしい。
勝手に連れてきて、戻りたかったらダンジョン攻略、命を賭けて戦えなんてあまりにも非人道的である。
しかし相手は異界とはいえ神。
人の気持ちなど考慮するはずがない。
悠人達は最初こそ、現状に絶望し落ち込んだりもした。
その間の生活はエーナー王国が補償してくれる。
王宮の客間に住まわせてもらい食事や衣服、街での買い物もできるように金銭も与えてくれた。
まさに至れり尽くせりである。
エーナー王国側の親切な対応のお陰もあり、いつまでも立ち止まっている訳にもいかないと、彼らは微かな希望を胸にダンジョン攻略へと挑んだ。
訓練やこの異世界の常識もエーナー王国側が場所や教師の準備等を買って出てくれる。
悠人達は元の世界ではただの一般人だったが、神から召喚されたせいで破格の能力を手に入れていた。
悠人の場合は、称号:剣聖
特殊剣スキル『キレヌモノナシ』
遠距離、堅い物体、非生物(幽霊等)、次元など関係なく斬ることができるスキル。
『称号:剣聖』のお陰で、素人の悠人はまるで何十年も剣を握ったかのように体を動かすことができた。
奈々美の場合は、称号:賢者
特殊魔術スキル『女神の使者』
回復・補助特化の魔術に特化したスキルだ。
奈々美のスキル強化された回復魔術ならばどんな重傷者や毒化状態、異常状態だろうが1発で回復する。
このスキルのお陰で、奈々美はこの異世界でもトップの回復者となった。
唯の場合は、称号:大魔導師
特殊魔術スキル『破壊の使者』
攻撃魔術特化のスキルだ。
唯のスキル強化された攻撃魔術は、初期攻撃魔術にもかかわらず、場合によっては最大攻撃魔術に匹敵する。
神から与えられたスキルはどれもチートレベルだった。
お陰で短時間で悠人達は、エーナー王国側が用意してくれた教師陣をごぼう抜きしてしまう。
他にも野営方法やダンジョン内部で移動の際に気を付けること、冒険者ギルドについて、他国の情勢、金銭の使い方、馬の乗り方、飼う方法、馬車操作、毒草や薬草についてなど――様々なことを学んだ。
一通り学んだ悠人達は恩返しと、自分達の身分を補償し安全を確保する意味も込めて『エーナー王国勇者』としてダンジョンへと向かったのだった。
あれから約1年。
悠人達はこの異世界に慣れてしまった。
中規模レベルのダンジョンはチートスキルのお陰ですぐに踏破する。
しかし高レベルダンジョンは、やはり早々簡単にはいかない。
どこまでも続く階層。
凶悪なモンスター。
意地の悪い罠、etc――。
何度も何度も挑戦し、少しずつ前へと進んでいく。
そんな彼らの耳にある情報が入る。
とある朝。
エーナー王国にある拠点。
高級宿屋で目を覚まし、朝食後、冒険者ギルドへ情報収集に向かう。
その冒険者ギルドで、エーナー王国の目と鼻の先に新しいダンジョンが出来たことを知る。
興味を抱いた彼らは情報収集をおこなった。
ダンジョン探査に戻った冒険者の報告では危険度が低いため機密扱いになっておらず、さらに『勇者』という肩書きのお陰で特別に情報を聞くことができた。
ギルド職員から話を聞くと、悠人達の息が止まる。
自分達が元居た世界の品々――ゲーム、蛍光灯、アイスパンなどの存在を知った。
もしかしたら、地球へ戻る手がかりがあるかもしれない。
早速、3人はダンジョンへ向かおうとしたが、ギルド職員曰くすでに閉まって入れないらしい。
ダンジョン探査をおこなった冒険者の報告では、今日はもうダンジョン営業を止めると言っていたとか。
開店は明日の10時頃になる。
ダンジョンなのにまるで一般店舗のような対応に、悠人達の気が抜けてしまう。
とりあえず、彼らも明日のダンジョン探査に参加できるよう『勇者』の名を使い珍しく強硬にねじ込んだ。
無事、明日のダンジョン探査に行けるようになる。
翌日、10時頃。
最初のダンジョン探査をおこなった冒険者の後に続き、内部へと入る。
「ねぇ悠人君、あれってプリクラだよね?」と奈々美が指さす。
「……掴みキャッチャーもある」と唯も指摘した。
「あははは……これじゃまるで日本にあるゲームセンターそのものじゃないか」
悠人は危険極まりないダンジョン内部に入ったはずなのに、目の前に広がる遊技の数々に思わず気の抜けた笑い声が漏れる。
そんな彼らの態度に気付かず、明るい声が聞こえてきた。
「ようこそ『ドリーム・ダンジョン』へ! 皆様どうぞ一時の楽しい夢を存分にお楽しみください!」
赤いマントを羽織ったウッドマンが、両手を広げて歓迎してくる。
彼らも駆け出しの時はウッドマンと何度も戦った。
喋らず、動きも糸で上から操られているようにぎこちなかったはずだ。攻撃力も低く、石材で作られたゴーレムより脆い。
悠人の剣の一振りで倒せる雑魚である。
しかし目の前のウッドマンは滑らかに動き、口も無いのに声を発する。
こんな特殊なウッドマンは見たことがない。
冒険者達の報告にあった『ドリーム・ダンジョン』のマスター、魔王で間違いないだろう。
冒険者リーダーから紹介を受けて、悠人達は初めて赤いマントのウッドマンと対峙したのだった。