34話 勧誘
次に大魔王を案内したのは、聖神教会だ。
オレや大魔王達を創り出した存在である邪神と敵対している聖神を奉る教会である。
「ふむ……噂には聞いていたが本当にダンジョン内部に聖神教の教会が建てられているなんてね。さすがの僕も驚きだよ」
「新人魔王は邪神様に対して申し訳ないと思わんのか! 罰当たりが過ぎるだろうが!」
「…………」
大魔王ヨーゼフは、興味深そうに教会を見つめつつ、普通に驚いていた。
自称右腕のデカトスは、頭の固い信者のごとく怒り出す。
吸血鬼で未だに口を開かないカンツァーは、やはり黙って大きな瞳をさらに広げる。
やはり邪神側のダンジョンマスターとして、ダンジョン内部に聖神教会があることは異様なことのようだ。
彼等に一泡拭かせたことを内心で喜んでいると、聖神教会から神官スタスが顔を出す。
少々、教会前で騒ぎすぎたようだ。
彼はオレ達の姿に気付くと、眼鏡を上げる。
「おや、何か騒がしいと思ったらウッド魔王殿でしたか」
「五月蠅くしてすみません。すぐにお暇しますので」
「いえいえお気になさらず、ウッド魔王殿ならいつでも歓迎いたしますよ。聖神教の私が言うのもなんですが」
神官スタスは微苦笑を漏らし、肩をすくめる。
オレも彼に習い笑って、友好的な態度を取る。
一通り挨拶を終えると、彼の視線が大魔王達に移動する。
いかにも『モンスターです』という姿をした彼らは、『ドリーム・ダンジョン』内部ではそう珍しい存在ではない。
しかし、オレが以前の聖教国家の代表視察団を相手にしているような姿が気になったようだ。
スタスの瞳が鋭くなる。
「そちらの方々は?」
「どうも神官殿、大魔王城トップを務める大魔王ヨーゼフです」
『大魔王城』とは、世界最古ダンジョンの一つだ。
街――というより国そのモノの規模はある土地、森、山があり、そこを攻略して辿り着ける場所に巨大な城と城下町を構えたダンジョンが存在する。
この世界で最も有名なダンジョンを5つ上げろと言われたら必ず名前があがるほど有名である。
オレとの付き合いで色々非常識な目に遭ってきた神官スタスだが、これにはさすがに目を丸くする。
彼はヨーゼフ本人ではなくオレに聞き返してきた。
「う、ウッド魔王殿、このお方が大魔王城トップを務める大魔王殿とは事実なのですか?」
「まぁ、ええ。本当に本人なのかどうかは分かりませんが」
オレだってダンジョンコアルームから、アバターウッドマンを操作しているのだ。
自身のダンジョンからダミーを遠隔操作できる技術があっても可笑しくはない。
このやりとりにデカトスが盛大に鼻で笑う。
「どこぞの魔王とは違って我が主は逃げも隠れもせぬわ。臆病者とは違うんだよ。臆病者とは!」
あからさまな当て擦りだが、オレは適当に流す。
むしろ推理に材料を提供してくれてありがたいぐらいだ。
(もし彼の言葉が本当なら目の前のいる人物は生身ヨーゼフなのか? だとしたらこちらから致死の攻撃を受けても、多数の敵に包囲されても切り抜ける自信があるということか。単純に実力が高いのか、自分のダンジョンにすぐさま帰還できるマジックアイテム、魔法があるということか?)
オレが彼の手の内を考察していると、ヨーゼフが申し訳なさそうにデカトスを嗜める。
「こら失礼な口を利くんじゃない。部下が失礼をしました」
「いえいえ、お気になさらず」
オレは適当に受け流す。
神官スタスをこれ以上、巻き込むのも面倒なため切り上げる。
「という訳でした。私はヨーゼフ殿ご案内で忙しく、もし何か用事がある際は配下の魔物達に言付けしてください」
「分かりました。そのようにいたしましょう」
挨拶を終えた後、互いに朗らかに分かれる。
めぼしい施設は見て回ったため、次は無難にレストランへと足を向けた。
レストランの席は聖神教視察団の時とは違い半個室ではなく、完全な個室へと案内する。
内容が内容だけに、人の耳に入れてよいものではない。
料理が運ばれてくる。
テーブルに並ぶのはハンバーガーや唐揚げ、ピザ、ポテトなど店の人気メニューを持ってこさせた。
食事後、紅茶を飲みつつ大魔王ヨーゼフが『ドリーム・ダンジョン』の感想を告げてくる。
「最初『ドリーム・ダンジョン』の噂を耳にした時、『娯楽で人を手懐けてDPを稼ぐ』という意味が分かりませんでしたが、今回案内して頂きようやく合点がいきました。まさか本当に人を殺さず、ただ楽しませるだけとは。ダンジョンと人が共存するまったく新しい姿ですね」
「大先輩であるヨーゼフ殿にそこまで手放しで褒められるとは。今まで努力してきた甲斐があります」
「……ただその分、マイナス部分、問題点がより強調して見えてしまうのも事実ですね」
「『ドリーム・ダンジョン』の問題点ですか?」
ヨーゼフは勿体ぶるように紅茶を飲む。
すぐに答えを告げず、かなり間を開けてから問題点を指摘する。
「『ドリーム・ダンジョン』は娯楽に傾倒し過ぎているせいで、どうしてもダンジョンの防衛が疎かになっているかと。これではいつ攻められても可笑しくない」
ヨーゼフが人好きする笑顔で申し出る。
「よければ我々が力を貸しましょうか?」
「力を貸すとは?」
「有り大抵に言えば……ウッド魔王殿、僕の傘下、派閥に入らないかい?」
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
また今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。




