31話 結婚式パレード
結婚式当日。
事前にこの日は『祝! アリア、エゾン結婚記念。ドリーム・ダンジョン無料開放』と銘打って宣伝しておいた。
無料と言っても商品は流石にタダには出来ないが、乗り物やゲーム、屋台、レストランの飲食なども全て無料開放している。
問題が起きないようにスタッフを増員するのも忘れていない。
『これだけの大盤振る舞いで動けないほど人が集まるのでは』と懸念するかもしれないが、問題無しだ。
今回の結婚式記念無料開放で金銭的な理由で入場を躊躇っていた人々も一斉に訪れることは予想していた。
なのでそちらへのアピールすると共に、入場制限をかけさせてもらった。
入場者と退場者をチェックしながら順次入れていく予定である。
結婚式の映像は各国入場口で大々的に放映されるため、必ずしも多数の人数を中に入れる必要はないのだ。
また警備側も今回の結婚式のため大量に増員。
医務室もこの日のために拡張され、回復系魔術が使用できる魔物達も増員しバックアップ体制を整えている。
すぐに必要な信頼できる人材が用意できるのは、ダンジョンマスター――魔王の利点だ。
魔物だけではなく人間側の警備員、スタッフ、回復系魔術師、調理人などもこの日のために募集し、マニュアル研修も終えている。
人を大量に雇ったのは魔物ばかりがスタッフではお客様達に不安感を与えてしまうからだ。
また大量に人を雇うことで少しでも金銭を外部に流すのが狙いである。
『ドリーム・ダンジョン』施設に関しては、お客様側が大量にいらっしゃるが逆に言えばそれだけだ。
スタッフもあわせて大量に用意し、準備、マニュアルも徹底しているため混乱は最小限に抑えられるだろう。
問題があるとすれば――教会である。
聖神教会での準備は、冗談抜きで本日早朝まで慌ただしくおこなっていた。
普段の『ドリーム・ダンジョン』運営とは違う仕事のため、マニュアルも無く、トライ&エラーを繰り返し四苦八苦しながら準備したのだ。
お陰でなんとか間に合わせることが出来た。
聖神教会は厳かな雰囲気が壊れないように通路ひとつにも気を配っている。
毎日、周辺の掃除はもちろん。
周囲100mの施設にも気を配り、教会前で大声を出したり、揉め事や諍い、ゴミを捨てるなどたとえお客様といえどもお断りしていた。
それほど気を遣っている聖神教会の玄関出入口に、一段高くなっている壇が作られ、儀式用の机、燭台、色とりどりの花のアーチ、赤い絨毯などがきっちりと準備してある。
まるで教会内部の儀式用品一式を出入口前に用意しているようだった。
この壇上で神官スタスに結婚式の誓いを執りおこなってもらう予定だ。そのため彼に意見をもらい必要な物全てを準備させた。
そんな壇上から見て左側に関係者席が用意されている。
既に4ヶ国の代表者が集まっていた。
以前来たトップ陣――金ぴか皇帝、禿頭の冒険者長、髭爺などではない。あくまで各国のそれなりの上位者でトップではなかった。
今回の派手なイベントにトップが出ると、政治的に面倒な口実を与えてしまう可能性があったため口裏を合わせて控えたようだ。
関係者席の正面、壇上から見て左側には楽器を持ち式の開始を待つ魔物達が待機している。
お揃いのマーチングバンド服に身を包み、サックス、トランペット、大きな太鼓、ホルン、シンバルなどを微動だにせず保持していた。
合図があれば事前に練習した通り音を奏でる。
さらにいつもと違って、聖神教会にはヒモが張られていた。
ヒモを境に『人と魔物の結婚式を一目見よう』とお客様が大量に集まっている。
結婚式が始まらないかと、今か今かと待って話しながら待っていた。
ヒモの外側には等間隔で警備員の人、魔物が並び、乗り越えようとするお客様が居た場合は注意して止める。
それでも止まらず乗り越えようとした場合、拘束しても良いと通達済みだ。
結婚式を台無しにして欲しくないし、四ヶ国の代表者が傷つけられたら堪らない。
他普段との差として、カメラを担いだ魔物達が現在の様子を放送していた。
彼らが撮る映像は、『ドリーム・ダンジョン』内部だけではなく、各国の出入口に設置した大型スクリーンにも映し出されている。
『キーン、コーン、カーン』
聖神教会の鐘が鳴る。
鐘を合図に聖神教会の玄関口を開く。
開いたのは天使、悪魔姿の魔物達だ。
扉が開くと神官スタスが厳かな雰囲気を纏い壇上へと上がる。
あくまで彼は今日気まぐれで壇上に上がり、偶然目の前に立つ新郎新婦に声を掛けることになっていた。
神官スタスが壇上に上がり、準備を終えるのを確認して魔物楽団が演奏を開始する。
音楽に合わせて新郎新婦が赤い絨毯の上を歩き移動してくる。
花嫁衣装はこの日のために気合を入れて創り出された最新型のウェディングドレスだ。
新郎の衣装は、花嫁衣装のアリアと並んで見窄らしくない程度にそれなりのタキシードを用意した。
エゾンの両親は彼自身が縁を切ったのと、『魔物と結婚するなんて』と未だに反対しているため出席していない。
親族席にはアリアの親としてオレだけが座っている形となる。
2人が神官スタスの前に立つ。
スタスは偶然にも目の前に立つ2人に声をかける。
「聖神様曰く『生きるとは苦難の連続。喜びとは苦難の中にこそある』。夫婦となり、互いに苦難を歩き、喜びを共に見つける誓いをしますか?」
「は、ははい、誓います」
「誓います」
エゾンが緊張からカミカミで誓い。
アリアが女性でも惚れてしまいそうな柔らかな笑みでしっかりと誓う。
2人の誓いを聞き届けたスタスが、両腕を広げる。
「今! 新たな夫婦が誕生しました。聖神様の祝福があらんことを!」
マイクを使わなくても『ドリーム・ダンジョン』全体に響くほどの声が広がる。
スタスの誓いの儀式が終わった後、彼から視線を向けられた。
打ち合わせ通り、親族席からオレは立ち上がり壇上の側へと移動する。
壇上に上がらず、スタスの下についたのは『あくまで教会側がトップで自分は下です』と周囲にアピールするためだ。
大舞台だからこそ、かっこうの宣伝の場である。
オレは軽く咳払いをしてから2人と向き合う
「私こそがこの『ドリーム・ダンジョン』の主、ウッド魔王である! 私は一つの誓いを立てている。決して自分は人を殺めはしないと!」
第三者が殺すようには仕向けるけどね。
わざと間を作って、声音が重くなるよう心がけて続ける。
「だがもしアリアを泣かせ、不幸にするようなことがあれば私は誓いを捨てて、全力を以って新郎エゾンを天へと帰すだろう。たとえ地の果て、海の果て、他ダンジョンの奥地に隠れようともだ。それでも新婦アリアと結婚すると誓うか?」
「誓います」
今度は噛まずに男の顔でエゾンが断言する。
オレは深く頷くと、2人から視線を外し、この結婚式を見守る人々に向けて両腕を広げ宣言する。
「ならば祝おう! 私、ウッド魔王の名において! 今日、エゾン、アリアを夫婦と認めよう! 皆のモノ! この門出を祝うがいい!」
この宣言と同時に、観客達が爆発したような歓声、拍手をあげる。
聖神教会の鐘、演奏する魔物達も負けずに明るい音楽を鳴らし続けた。
四ヶ国代表、スタスも笑顔で祝福の拍手を送る。
こうして結婚式は無事に終わり、次はいよいよパレードの開始だ!
普段は遊歩道だが、ヒモで観客達を抑えている。
その間を一台の馬車が姿を現す。
これからこの馬車に乗ってアリアとエゾン夫婦がパレードをおこなうのだった。
2人は馬車に乗り込む。
2人が乗る馬車は箱の内部ではなく上に立つ形式だ。
手すりが付いているのと、ゆっくり進むため落ちることはない。
馬車が進み出すと、後から音楽を奏でる魔物達が続く。
上空から空を飛べる魔物達が花びらを散らし、地上のあちこちからは光るだけの花火が打ち上げられ、会場を盛り上げる。
カメラは多数存在し、映像をダンジョン内に送り続ける。
新郎新婦は馬車に乗り、決まったルートを進みながら、観客達に手を振った。
光と音。空から舞う花びら。人々の歓声。可愛らしい姿の魔物が愛想を振りまく。
「…………」
「……?」
「! ……!」
アリア、エゾンが仲睦まじく話をしているが、歓声、音楽、鐘の音などで何を話しているか分からない。
だが、その姿は誰の目から見ても幸せそうだった。
アリア、エゾン、お客様達、スタッフ一同――誰しもがこの日、幸せそうに笑い続けていた。
この結婚式以降、『神と魔王に誓うことで、絶対に別れないし夫婦仲がとても良くなる』と噂されるようになる。
『ドリーム・ダンジョン』の知名度が上がり、印象が非常に良くなったのだ。
アリア、エゾンの結婚式のお陰である。
2人が心底幸せそうだったから、こういった前向きな噂が出てくるようになったのだ。
しかし『禍福はあざなえる縄のごとし』。
この結婚式の評判が良すぎてある問題が持ち上がる。
その問題とは――。
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
また今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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