30話 小さな問題、大きな一歩――決着
「わざわざ1部下のためにこんな派手な結婚式を開くなんて……。魔王様は何を考えているのかしら。折角稼いだDPを湯水の如く使うなんてあぁ~もったない」
「聞こえているぞ」
場所はダンジョンマスタールーム。
その一角で夜も遅いのにオレは書類整理に追われていた。
同じようにアシスタントデーモンであるネアが、隣の机で約半年後におこなわれる結婚式に必要な費用(DP)の計算作業をブツブツと不満を漏らしながらおこなっている。
オレも結婚式で呼ぶ招待客への招待状や並び順、段取り、料理のための材料購入などなど――確認すべき書類に目を通し、許可のサインを書いていく。
隣の机で作業するネアが怨みがましい目で見つめてくる。
別に隠し立てする理由もないため、書類を確認しながら口を開く。
「オレ自身が将来的にも魔王として生存するために必要なことだからやっているんだよ。アリアと下級貴族のエゾンを結婚させるのもその一環だ」
『彼女達に伝えた理由も本音だがな』とオレは付け足す。
意外な返答だったのか、ネアが手を止めてこちらをマジマジと見つめてくる。
「本気ですか? この結婚式が将来の生存に必要って……。だったらなぜ上級貴族に嫁がせなかったんですか? そっちの方が遙かにメリットがあるはずでしょう」
「ならシルバーと結婚するメリットって何だ?」
ネアはアシスタントデーモンらしく、すらすらとメリットを上げていく。
「上級貴族で次期当主のシルバーに嫁げば寵愛を受ける愛妾となり、夫を通して広大な領地に影響力を与えることが出来ます。また上級貴族だけあり、上層部の貴重な情報を集めることも可能かと。あとは上層部との繋がりが出来、より有利な立場を得られるかと思いいます。ざっと考えただけでこれだけのメリットはあるかと」
「確かにネアが言う通りそれらはメリットだ。しかしオレ達にとってあまり意味がないメリットでもある」
ネアが『納得いかない』と言いたげに眉根を少し寄せる。
オレは気にせず話を続けた。
「上層部の情報も、繋がりも現在の『ドリーム・ダンジョン』で十分入ってくるし、作れる。貴族の権力や領地も一緒だ。だからシルバーに嫁がせて得られるメリットは正直、あってもなくても困らない程度のメリットしかないんだよ」
「……確かに。ではエゾンに嫁がせるメリットはなんですか? ただの鍛冶師見習いに嫁がせても意味がないのでは? せいぜい、地上の鍛冶技術を得られるぐらいかと」
「メリットはただ一つ。アリアとエゾンの結婚生活を周囲の皆に見せつけることができるんだよ」
「? 結婚生活を見せるのがメリットですか?」
ネアは『心底意味が分からない』と言いたげな表情で首を傾げる。
オレは一度サインを書く手を止めて説明する。
「シルバーに嫁ぐと大きな屋敷に入れられて隠されるのがオチだ。どれだけアリアとシルバーが幸せな結婚生活を送ろうが、せいぜいメイド達が目にするぐらいだろう。だが鍛冶師見習いのエゾンなら、アリアは一般市民に混じって生活をする。『周囲に魔物との結婚生活は幸せだ』とアピールすることが出来るんだ。アピールすることで魔物に対する差別意識が低下し『自分も魔物と結婚したい』と思考を誘導することが出来るようになる」
さて、そうなった場合、世間はどう変化するのか?
「アリアとエゾンの結婚生活を目にした成人男性、少年達の中から『自分も魔物と結婚したい』と思う奴が出てくるだろう。今は娼婦を務める女性型魔物達だけだが、男性型魔物が出てくれば女性も似た願い、夢を持つようになる。するとオレの配下の魔物達はどんどん人社会に広がっていく。人間側が喜んで手を貸しながらな。そうなるように魔物女性と肌を重ねられる娼館を作ったんだ。そして1年、10年、100年、1000年後――世界は一体どうなると思う?」
「ッッッッ!?」
ネアはようやくオレの意図を理解したのか、顔色を青くする。
「だからアリアとエゾンの結婚は幸せだと内外に示すため、世界全土に広げるために必要なんだよ。その布石になるなら結婚式パレードだろうが、『ドリーム・ダンジョン』1日無料など端DPだ」
『それに最近、目新しさがなくなってきたから、客足を伸ばす良い起爆剤になるだろう』と締めくくる。
「そういう訳だから分かったら愚痴愚痴と文句を言わず手を動かせ」
「は、はい! わ、分かりました!」
「あと結婚式パレードと誓いのシーンとかを映像配信、録画、編集もするから、そのために必要なDPの計算も頼むぞ」
DPが溜まったお陰で、新しい機能ツールが解放された。
その一つがハリウッド映画のような映像を取って、ダンジョン内部に放映出来るというものだ。
この技術を応用して、アリア&エゾンの結婚式パレードなどはリアルタイム放送する予定だ。
後日、その録画した映像を編集し、将来的に販売や『ドリーム・ダンジョン』の軌跡として映像資料として残す予定である。
ネアは新しい仕事を依頼されて、将来についての青写真を聞かされた以上に顔色を悪くする。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 現在の計算だってまだ終わっていないのに、他の仕事を入れるとかあ、悪魔ですか!?」
「いや、オレは魔王だが?」
「知ってますよ! 知ってますけど! そういう意味じゃありません! 魔王様の馬鹿ぁぁぁ!」
ネアが涙目で叫び声をあげる。
オレ達とは距離がある位置で、他作業をしていた魔物達の視線がネアの叫び声で集まった。
オレは気にせず笑顔(顔パーツは無いが)で、励ましの言葉を贈る。
「安心しろネア。こっちの異世界には現代日本の栄養ドリンクなんて目じゃない体に良く効いて、不思議と元気が出るポーションがあるから。ネアが必要なら瓶1本なんてケチなことは言わず樽で用意してやるからな、樽で! だから、ネア、がんばれ☆ がんばれ☆」
「うわぁぁぁぁぁッん! 魔王様の鬼、悪魔、魔王!」
ネアが泣きながら計算作業に戻る。
オレも隣で肩をすくめてから自身の作業へと戻った。
オレ達はこうして『ドリーム・ダンジョン』の将来を左右する結婚式パレードの準備を続けたのだった。
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
また今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタンがあります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




