27話 小さな問題、大きな一歩2
サキュバスで『男性専用街』の責任者を務めるアリアが、2人の若者から告白された。
1人は上級貴族の若者で、次期領主の座に就くことが決定している。
1人は下級貴族の三男坊で、一般人に毛が生えたレベルだ。
アリアとしては2人共に好感を抱いているが、『どちらかと結婚する』となると決定打が無く迷ってしまう。
そこで産みの親である魔王に相談をしてきたのだ。
オレは話を聞きアリアから相談された後、『どちらがアリアに相応しい男性か三者面談する』と宣告。
今日はその三者面談当日だ。
この三者面談のため『ドリーム・ダンジョン』に新たな面談スペースを作った。
防音完備、対魔術&対物理の対防諜システムも備えたマスタールーム以外で、最も警戒レベルの高い一室をDPで作り上げた。
部屋の広さは教室ほどで、長テーブルに椅子が3つ並ぶ。
その前にパイプ椅子が一つだけ置かれていた。
よくドラマやアニメ、マンガに出てくる就職面談室のようなイメージである。
長テーブルにはオレと当事者のアリア、そして今回同席してもらった『ドリーム・ダンジョン』聖神教会トップの神官スタスが同席していた。
ちなみに神官スタスは、聖教国家視察団の1人だ。
『女性専用スペース』前で『女性しか入れない施設と仰っておられましたが、なぜ女性しか入場できないのでしょうか? なかで一体どのようなことがおこなわれているのですか? 建物を出る女性が紙袋を持っていることから何か商品を売り買いしていると予想はつくのですが』などと騒いで、並ぶ女性達から白い目で見られた眼鏡くんだ。
彼は『ドリーム・ダンジョン』聖神教会トップとして赴任してきた。
基本もちまわりで、数年後に彼が異動し、また別の神官が来ることになっているが。
そんな彼はオレの左隣に座り頭が痛そうにこめかみを押さえる。
「どうして私が魔物の婚姻面談に参加せねばならぬのか……」
「自分は魔王ですし、細かい貴族の領地や立場など分かりませんから……できれば、側で意見を頂ければと」
『それに――』とオレは付け加える。
「我が子のようなアリアを良からぬ相手に嫁がせるのはしのびなく、恥を忍んでお願いさせて頂きました。また結婚するとなれば『ドリーム・ダンジョン』聖神教会で大々的にあげるつもりなので、ならば最初からご協力をお願いしておいた方がと思った次第です」
「魔王様、私のことをそこまで考えてくださっているなんて……ッ」
右隣に座るアリアは瞳を潤ませ感激する。
一方、神官スタスは厳しい視線で眼鏡を神経質そうに持ち上げた。
「魔王殿、結婚は見せ物はなく聖なる行いなのですよ。なのに見せ物にしようなどと。……しかし、子を持つ親と考えれば魔王殿のお気持ちも理解できます」
「ご結婚は?」
「いえ、未婚です。ですが妹が既に結婚しておりまして……。その時の事を思い出すと――くッゥ! 妹を泣かせるようなことがあったら、たとえ聖神様の教えに反してでも奴めを八つ裂きにしてやりますよ!」
「……その時は直接的に手を下すことはできませんが全力でご協力します。『ドリーム・ダンジョン』の総力を挙げて。魔王の名に誓いお約束します」
「魔王殿!」
「神官殿!」
オレと左隣に座る神官スタスが向き合い熱い握手を交わす。
そんなやりとりをしていると、待合室に通じる扉が『コンコン』とノックされた。
返事をすると1人目の面接者、上級貴族の好青年シルバーが顔を出す。
本来、長い家名などが付くのだが、紳士の社交場である『男性専用街』を出入りするため名前のみが資料に書かれていた。
シルバーが席に座ると早速、三者面談――全員で4人いるため四者面談が開始する。
彼は白いシャツに上着、ズボンを履き、品良くアクセサリーも身に付けている。
シルバーと名ばかりの金髪で、青い瞳が印象的だ。
身長も高く、まるで絵本に登場する王子様その者の美青年である。
「初めまして魔王様、お会いできて光栄です」
「……こちらこそ、シルバー殿」
相手はダンジョンの魔王だが、アリアの親的立場ということで敬語で話しかけてくる。
声も透明感があり、初対面にもかかわらず好印象を与えてくる。
オレは横目(目は無いが)で、神官スタスを窺う。
彼は手元にある資料をざっと目を通していた。
シルバーが将来継ぐ領地をネアが情報を集め大凡の税収、近隣や民衆の評判、犯罪行為をおこなっていないかなどの調査をしてもらった。
その内容が手元の資料に書かれてあるのだ。
「…………」
神官スタスが資料に目を通し終えると、軽く頷く。
どうやら資料に不備はないらしい。
つまり、シルバーは資料に書かれてある通り近隣や民衆からの評判もよく、次期領主としての才覚もあり、後ろ暗い部分も『貴族』という立場上そこまでのレベルだとか。
(これだけ高スペックならわざわざアリアと結婚せずとも、良縁が舞い込んでくるだろうに……)
内心で『イケンメン爆発しろ』と恨み言を漏らしつつ、質問する。
「早速で申し訳ないですが、シルバー殿は非常に優秀なお方だとか。容姿も整い、性格も良く、近隣貴族や民衆からの評判も高い。貴方が望めば良縁などいくらでも結べるでしょうに。どうしてわざわざアリアとの結婚を望むのです?」
「まずは高名なウッド魔王にお褒め頂きありがとうございます。魔王殿のご指摘通り、僕自身の評価は悪くありません。部下にも恵まれ、将来問題なく領地を継ぐことができるでしょう」
シルバーはここで一旦区切る。
「ですが僕も人間です。間違った政策や道に舵を切ることがあります。しかし、長年仕えてきた部下達や周囲が気を遣いその点を指摘しない可能性があるのです。ですがアリアさんは違う。彼女は真面目で、小さな問題にも真摯に取り組んでいる姿を何度も目にしました。たとえ相手が客で、地位が高くても、間違ったことは間違いと示した。決して引かず。
その姿に感動したのです。もし僕の妻になってくれたら、『間違ったことは間違っている』と叱ってくれる。お互いに支え合える夫婦になれると」
「シルバー様……」
ガチイケメンが、本気で『貴女が必要です』と口説かれたアリアが、とろけたような微笑みを浮かべる。
シルバーもそんな彼女と目と目で通じ合い始めた。
まだ質問は途中のため、2人の空間を作っている所悪いが早々に壊させてもらう。
軽く咳払いをして意識をオレへと再び向けてもらう。
「なるほど……アリアを求める理由は分かりました。では彼女を嫁がせたら、我々にどのような利益がありますか? 具体的な優遇措置などはありますかね」
「……親族としてある程度は。しかし、露骨な横暴的な優遇はできません。次期領主として、護るべき民達を蔑ろにはできませんので」
シルバーはたとえオレに対して印象が悪くなっても、『護るべき民達を優先する』とハッキリと明言した。
彼の真っ直ぐな言葉に左隣に座る神官スタスが感心した溜息を漏らす。
「失礼。試すような質問をして」
「いえ、こちらこそ生意気な口を利いてしまい申し訳ありません」
互いに謝罪を口にする。
さらに質問は続いた。
「アリアと結婚した場合、他の女性も娶るのですか?」
「……アリアさんには申し訳ありませんが、彼女との間に子供が出来ても後を継がせるのは難しいです。僕には親が決めた婚約者がいます。別に彼女を愛している訳ではありません。魔王殿と聖神様に誓って、心から愛しているのはアリアさんだけです。ですが好き嫌いではなく政治的に断るのは難しいのです」
「アリアを愛しているが正妻には出来ず、政治的な相手がその地位に就く、と。その場合、領地でアリアが過ごすことになりますが正妻殿からの手出しや差別などがあるのでは?」
「僕の名誉に懸けて、アリアさんには手出しをさせません。もし差別されるというなら、2人揃って誤解をといていければと考えています。絶対にアリアさんを幸せにしてみせます!」
「シルバー様……」
右隣に座るアリアが再びとろけた微笑みを浮かべる。
シルバーも彼女と向かい再度2人だけの空間を作り出した。
本当に彼らはすぐに2人だけの空間を作り出すな……。
とりあえず聞きたいことは聞けた。
シルバーにお礼を言って、退出してもらう。
彼が出て行った後、すぐにアリアと神官スタスに意見を交換する。
「アリアは話を聞いてどう思った?」
「シルバーさまはとても誠実で、良い人です。ちゃんと私のことを想ってくれているのが伝わりました」
「スタス殿は?」
「真っ直ぐな人柄、真面目、優秀さは今回の受け答えで十分確認できました。嫁ぎ先としては申し分なしかと。ただやはり領地が領地だけあり、アリア殿が嫁いだら偏見による差別はあるでしょうね。それは夫婦で乗り越える問題ですが」
「やっぱり差別はありますか?」
「あるに決まっています! むしろ、こうして魔王と机を並べて嫁ぎ先を議論しているのがおかしいわけで!」
神官スタスが思わず鋭いツッコミを入れてくる。
まぁ確かに普通は魔王と机を並べて嫁ぎ先を議論なんてしないわな。
目や鼻、口などが無いが、思わずオレは微苦笑してしまう。
軽く意見交換を終えた所で、次は2人目――下級貴族の三男坊との四者面談を迎える。
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
また今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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