22話 視察団の案内1
聖教国家から来た視察団を連れて貴賓室を出る。
一応、後に続く司教に要望を尋ねる。
「優先的に確認したい施設や場所などはありませんか? もしあるのでしたそちらを優先的にご案内致しますが」
「……正直、どこから見ればよいか分からないので魔王殿、お任せいたします」
司教は若干考え込んだ後、案内をこちらに丸投げする。
ある意味、『お任せ』が一番面倒なのだが……立場上、お断りする訳にもいかず素速く案内順を思案した。
(入り口から順番に施設を見てもらうのが一番無難だな……)と胸中で結論を出す。
下手に奇をてらって変な誤解、印象を与えるよりいいだろう。
『考えるのが面倒だった』訳ではない。
貴賓室から転位陣に乗る。
一瞬で目的地のダンジョン正規入り口へと到着。
ダンジョン正規入り口だけあり、最も混んでいる場所だが移動するだけなら難しくない。
まず最初に視察してもらったのは、お土産店、『ドリーム・ダンジョン』のグッズなどが販売されているお店、ショップだ。
店内は広々とスペースが取られてはいるが、商品が並び、お客様――とくに親子連れが多く子供が泣いたり、笑ったり、おねだりしたり、騒々しく混雑していた。
最初こそ、子供達の元気な様子に微笑ましい笑みを浮かべていた視察団だったが……子供達のある姿に目玉が飛び出るほど驚きの表情を作り出す。
「ま、魔王殿! 人の、人間の子供の頭から獣耳が生えていますぞ! まさかあれは魔王殿達による邪教的儀式、または魔術なのですか!?」
「いいえ、魔術でも、邪教的儀式でもありませんよ。ただのグッズです」
オレの説明に未だ理解が追いつかない視察団をショップの奥へと案内する。
ショップ奥には子供達が付けていたネコ耳、キツネ耳、ネズミ耳、犬耳が並べられてていた。
オレはそのうちのひとつを手に取り、説明しながら装着する。
「これは帽子を被るように付けて、偽物耳を生やすお土産グッズです」
ネズミ耳を選択し、視察団に向き直り声を出す。
「やぁ、僕、ウッド魔王だよ(甲高い声)」
「こ、声まで変える機能があるとは、見た目と違って技術力が高いアイテムなのですね」
「……いえ、そのような機能はありません。ただ耳を付けたらやらないといけない義務、儀式のようなモノです」
「はぁ、そうなのですか?」
「皆様もよかったら付けてみませんか? 折角なのでお土産としてプレゼント致しますよ?」
この申し出に視察団全員から微妙な表情でお断りされる。
まぁ確かにいい歳したおっさん、男性、女性が付け耳をしながらダンジョンの視察をするとか絵面的にも、職務的にもあまりよろしくないか。
オレは1人納得し、ネズミ耳を棚に戻した。
(ショップの次に近い施設は……ゲームセンターか)
気持ちを切り替えて、すぐに次に案内する場所を思案する。
ショップを出て、一番近いゲームセンターへと視察団を案内した。
……案内したのだが、お土産ショップより視察団の反応が芳しくなかった。
司教が眉根を寄せ、五月蠅そうに両耳を押さえながらオレへと声をかけてくる。
「魔王殿、この騒音はなんとかならないのですか? こんな騒音の中に長時間居続けたら耳が可笑しくなってしまいますよ!」
「いやー難しいですね。ゲームセンターは音が出て当然の場所ですから!」
ゲームの音声、音楽などに負けないようオレと司教はそれぞれ大声あげる。
他にもゲームセンターには冒険者、若者達で溢れかえり、いかにも『聖職者』と言った恰好をした聖教国家視察団員達に対する視線が厳しい。
まるで前世日本時代、ゲームセンターに屯する若者達の聖地に、PTA団体、生活指導の教師達が顔を出したような雰囲気だ。
この先に運動場やマンガ喫茶、レトロゲーム(リバーシ、将棋、麻雀、囲碁)があるのだが……。
長時間居て、冒険者達と問題が起きても面白くない。
ゲームセンターは早々に離脱することに視察団も納得する。
次はもっと静かな場所へと案内した。
次に近いのが浴場施設だが……さすがにぞろぞろと連れ立って案内する場所ではない。
なので次に向かった場所は、『ドリーム・ダンジョン』でも大人気の一角。
『ドリーム・ダンジョン』に来たら、女性は絶対に外せないスポットへと訪れる。
「こちらの建物は女性のみが入ることが出来る『ドリーム・ダンジョン』屈指の人気スポットです。なのでこちらの建物内部を視察する際、私は同行できません。代わりにこちらのシルキーをお連れ下さい」
「(ぺこり)」
女性オンリー入場の建物へ移動する際、案内役のシルキーを先回りさせていた。
印象が良いように、幼く、見た目が可愛らしい種族のシルキーを選択する。間違ってもここはサキュバスのようなお色気系魔物を選択する場面ではないだろう。
建物自体はそれほど大きくない。
せいぜいちょっと広めのコンビニ程度だろう。
なので内部に入れる人数は制限されているが、建物前に並んでいる女性達は誰1人不満を漏らさず、綺麗に列を乱さず並んでいた。
オレは視察団に振り返り、条件を告げる。
「入場される際は女性のみ、彼女達のように列に並んでお入り下さい。本来であれば魔王権限で視察団の皆様を優先的にご案内すべきなのでしょうが……。ダンジョンのイメージを下げる可能性があるため、どうぞご容赦くださいませ」
「魔王殿、質問よろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
代表者の司教ではなく、護衛らしい若い神官が手を上げる。
彼は身長が2m近くあり、肩幅、横の厚みもがっちりとある鍛え抜かれた肉体を持つ偉丈夫だが、筋肉馬鹿ではない知的な雰囲気も持っていた。
彼は眼鏡を指で押し上げ、こちらの胸中を見透かすような鋭い視線で問いかけてくる。
「女性しか入れない施設と仰っておられましたが、なぜ女性しか入場できないのでしょうか? なかで一体どのようなことがおこなわれているのですか? 建物を出る女性が紙袋を持っていることから何か商品を売り買いしていると予想はつくのですが」
「あー、それはですね……」
まさかこんな質問が飛び出すとは考えていなかった。
どう伝えればいいか分からず、言葉に窮していると、若い神官が『魔王の弱点を発見』とばかりに眼鏡を光らせ喜々として切り込んでくる。
「言い淀むということは何か悪しき物を売り買いしているのですか?」
「女性はその、あれです、毎月、色々大変でして……」
「毎月が大変とはどういう意味ですか!? 何かの暗号? やましい事が無いのなら、はっきりと言うべきではないのですか!」
「ちょ、ちょっとここでは!」
流石にオレは他視察団に顔を向けて助けを求める。
代表である司教も、若い神官に対してどう説明するべきか迷っていたせいで止めるのが遅くなってしまう。
隣に立つ、男性同僚が慌てて耳打ちする。
お陰でようやく彼もあの建物でどういう商品を販売しているかに気付くことが出来た。
「ッゥ!? し、失礼しました魔王殿。もう結構です」
「は、はい。こちらこそ、質問の返答が遅くなり申し訳ありません」
若い神官は顔を赤くしながら、素直に謝罪してくる。
悪い子ではなく、職務に真面目なのだろうが……ちょっと色々物事を知らなすぎるのと、頭が良いが腹芸は苦手なタイプなのだろうな。
彼の騒ぎのせいで、建物に並ぶ女性陣から冷たい視線が視察団に突き刺さる。
『…………』
オレは咳払いしてから、接待役として場の流を変える努力をした。
「と、とりあえずこちらの視察は女性陣にお任せしましょう。建物内部を確認するまで時間がかかるでしょうから、我々男性陣はその間に他施設の視察へいきませんか? 後ほど合流できるよう調整しますので」
「魔王殿のご配慮、ありがたく。ではそのように」
司教が神官達に視線を向けると、女性が1人列へと向かう。
オレもシルキーへ視線を送り、彼女の元へと向かわせた。
「では、我々は次の施設へ向かいましょう」
これ以上、針のむしろに居続ける理由はない。
オレ達はそそくさと次の施設へ向かったのだった。
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
また今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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