17話 娼館
本日16話もアップしているので、そちらもお見逃し無く!(本日2話更新)
帝国、冒国(ギルドが運営する冒険者国家)、連合国のトップを接待後、各国へと見送った翌朝。
『ドリーム・ダンジョン』開園前、マスタールームにて幹部達と朝礼をおこなう。
魔王であるオレの前には幹部達が背筋を伸ばし、整列していた。
幹部達は大きく分けて3つのグループに分かれている。
一つは知能の高いアンデッドモンスターのリッチ達。
彼らにはマスタールームで、『ドリーム・ダンジョン』に散らばっているモブウッドマンを操作したり、問題が起きた場合、対処したり、指示を出す者達だ。
次がサキュバス達。
彼女達は女性しか入れない部屋の管理や接客をしてもらっている。
また女性間で問題が起きた際、彼女達が対処する決まりになっている。
最後はシルキー達だ。
彼女達は『ドリーム・ダンジョン』の清掃を担当してもらっている。
宿泊施設、レストラン、カジノ、ゲームコーナー、他施設全ての掃除を彼女達が担当するのだ。
ネアは幹部側ではなくオレの側に立っている。
彼女はダンジョン運営等で、問題が起きたときの相談、サポートを邪神に任されている。
立場上、直接ダンジョンに手を出すことはできない。
代わりに魔王であるオレの秘書、相談役的な立場に収まっていた。
以上がこのマスタールームに居る幹部達である。
いつも通り朝の挨拶から始まり、お客様から訴えられた注意点や自分達で気付いた改善点などの話をする。
また今日、何があるのかなどの確認を含めてミーティングをおこなった。
一通り話が終わったところで、オレは昨日、3ヶ国接待で冒国から出された『娼館作り』について話を切り出す。
「昨日の終わり、軽く触れたため皆、分かっていると思うがこれから『ドリーム・ダンジョン』で娼館作りに取り掛かる。娼館作りは『ドリーム・ダンジョン』の将来を左右する一大プロジェクトになるだろう。娼館の成功いかんに、我々がこの世界を支配できるかどうかが懸かっている。暫く自分はそちらにかかりっきりになる。オレにしか解決できない問題が起きた場合、そっちに居るから呼ぶように」
この話にネアを含んだ幹部達が驚きの表情で、ざわざわと話をする。
まさか娼館作りが世界征服を左右するなんて、想像もできないのだろう。
オレは木製の指で机を軽く『コンコン』と叩く。
途端にマスタールームに響いていたざわめきがピタリと止んだ。
「……娼館の成功がなぜ世界征服に繋がるのか? あまりに突飛なことで皆、困惑するだろう。しかし、嘘や冗談ではなく、オレは本気で娼館の成功がこの世界を征服する鍵だと考えている。詳しく説明してもいいが、秘密は知る者が少なければ少ないほど漏れにくいものだ。だから詳しい説明はしない。ただそれだけ重要な案件だという意識を皆に持って欲しくて口にした。なので意味が分からないからと言って、軽視するようなマネはしないように」
『了解しました、魔王様!』
部下モンスター達が一斉に返事をする。
気合いが入ったいい返事だ。
オレは満足そうに頷くと、次の指示を出す。
「オレ直属で、娼館を任せる現場責任者として、サキュバスグループから1人人材を出して欲しい。後ほど人材は補充する」
「畏まりましたわ、魔王様」
サキュバスグループを纏めるリーダー格が妖艶な笑みで頷く。
娼館が重要案件とはいえ、オレ自身がずっと張り付くわけにはいかない。
代わりに現場を任せられる人材は必要不可欠だった。
その中で男性ではなく、サキュバスを選んだのも、女性で性に理解のある種族だからだ。
一通り話し合いが終わったところで、今日も元気に1日ダンジョンを運営するための掛け声を口にする。
『ようこそ「ドリーム・ダンジョン」へ! 皆様どうぞ一時の楽しい夢を存分にお楽しみください!』
オレを含む部下達が全員が腹から声を出す。
大声がマスタールームに響き渡った。
☆ ☆ ☆
オレはマスタールームから赤いマントを羽織ったダミーウッドマンを操作して、闘技場と競馬場の工事現場を眺める。
なぜこの2つをDPで一気に建築しないのか?
理由はいくつかある。
ひとつ、あまりに性急に新規物を出すとお客様にすぐ飽きられるためだ。
人は刺激に慣れる生き物である。
次々新規娯楽を出し続けると、途中でその刺激にすらなれてしまう。
だから刺激も小出しにするため、DPで早急に作り出すことはしないのだ。
ひとつ、3ヶ国へ資金を落とすためだ。
3ヶ国に建材や人員等を募り資金を出して建設することで、エーナー王国のように一方的な資金等の流出を防いでいるのだ。
これも対策の一つである。
ひとつ、宣伝のためだ。
『ドリーム・ダンジョン』に来てくださっているお客様は、すでに闘技場と競馬場が建設されていることを知っている。
遠目から見える場所もあり、活気が現場にまで届く。その活気に刺激され、否応なく気分を盛り上げる狙いもあった。
こうして完成するまでの間も、宣伝し気分を高めているのだ。
他にもあるが大まかにはこんな理由である。
オレは赤いマントを羽織り、頭に『安全第一』と書かれた黄色いヘルメット被りながら、腕組みをして建設現場を眺めていた。
当然、邪魔にならない位置でだ。
(こういう建設現場ってなんか知らないけど見入っちゃうよな……)
別に自分は建設現場マニアではない。
なのについ見入ってしまう。
建設現場には人を魅了する何かがあるらしい。
「魔王様、お待たせいたしました」
建設現場をぼんやり眺めていると、女性に声をかけられる。
彼女はSM女王のような黒革衣服を身につけ、腰から生えている小さな羽根をパタパタ動かし飛んで来た。
彼女はオレの代わりに娼館の現場責任者となるサキュバスのアリアである。
現場の引き継ぎがあったため、終わるまでオレは建設現場の視察をしていたのだ。
アリアは金髪のふわふわとした癖毛をセミロングに切りそろえており、髪の間からは角がくるりと出ている。
幼い顔立ちの割に胸は大きく、腰はくびれてお尻も安産型だ。
可愛い顔立ちなのに体が成熟しているため非常にギャップがある娘だ。
まさに男の精を搾り取るモンスターである。
ウッドマンとなって性欲が激減したが、彼女を前に微かに疼くのを感じた。
「……たいして待っていないから、気にするな」
部下に対して邪な感情を抱いたことを反省し、すぐに小さなうずきを押さえる。
「それじゃ早速、娼館建設スペースに行くか」
「はい、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
アリアは気合いを入れるかのように両手を握り締めた。
オレは彼女の態度に微苦笑を漏らしながら、アリアの肩に手を置きマスタールームから操作する。
ダミーウッドマンとアリアの足下に魔法陣が浮かぶと、2人の姿と一緒にすぐ消えた。
一瞬、視界がぶれたがすぐに正常化する。
先程まで忙しそうに動いていた建設現場の人々や騒音も消えてしまった。
目の前には体育館ほどあるスペースに、規則的に並んだ白い建物群が広がっている。
全体に雰囲気が暗く、ピンクのネオンが部屋全体を照らしていた。
オレがイメージする娼館をDPですでに建設しておいたのだ。
娼館の場合、闘技場や競馬場のように老若男女が利用する施設ではない。
成人以上の男性のみ使用可能な施設のため、期待感を煽る必要もなく、決して客足が途絶える場所でもないためさっさとDPで建物を造り出した。
「アリア、勝手なイメージで娼館――というか娼館スペースを造ってみたんだが、問題が無いかチェックしてくれ。魔王だからって遠慮するな。びしばし言ってくれ」
「了解致しました」
アリアを連れて、オレは娼館スペースを歩き回る。
基本は2階建てで、1階が玄関、奥に待合いスペースがあり、女の子を選ぶ。
2階に上がって各部屋でことを致すようになっている。
シャワー、トイレ、ベッドなど必要な物は全て部屋に完備されている。
他には軽食が食べられるカフェを造った。
酒を飲むスペースは無い。
酒が入ったら問題が起きるのが目に見えているからだ。
一通り確認して、アリアは感想を告げる。
「部屋は清潔で必要な物もそろっていますが、お酒を飲むスペースが無いのはやはりマズいですね。1階が酒場でウェイトレスや専属娼婦と一緒にお酒を飲み、互いに盛り上がったら2階の個室でするのが一般的ですから。このままだと戸惑いの方が大きいと思います」
またこれはあくまで一般庶民向け。
貴族や上流階級の場合、豪華な一室で女性が接客。
高級料理や酒が運ばれ、気が向いたらそのままベッドインするらしい。
つまり現状、庶民向け&上流階級向けでもない中途半端なできらしい。
これが普通の建築なら大問題だが、DPで作り出したモノのため修正は容易である。
DPもそこまでかからない。
「しかし、やはり酒は必須か……。酒は問題が起きるから嫌なんだが、どうしても駄目か?」
「はい、絶対に必要です」
「分かった、追加しよう」
渋々という声でオレは同意した。
アリアはフォローを入れるように声を重ねる。
「魔王様のご心配も分かります。なので護衛として女性ではなく男性の、しかも見た目に威圧感のある魔物を配置してはどうでしょうか? 殺傷能力ではなく、無力化に特化したモンスターだとなおいいのですが」
「なるほど……それなら酒が入っても自重するか」
「当然、問題を起こした方は肩書き関係なく出入り禁止にすればいいかと」
「それは他3ヶ国に通知しておく必要があるな」
アリアの案に納得していると、他にも彼女は追加で提案してくる。
1階で酒を飲み、2階でいたす店だけではなく、純粋に飲むだけの店や買い物店、ただ宿泊する宿、衣服の匂いを消す店や酒によった相手の意識を冷やす魔術道具の購入など多岐にわたった。
優秀な人材をと頼んでいたが、ここまで優秀とは驚きである。
アリアとの有意義な意見交換をしていると、最後に彼女が指摘してくる。
「建物は人型を基準にしているので、大型モンスターが相手をする場合、狭すぎるので専用の大型施設を造るか、一部大型スペースを建物に造るかした方がよろしいかと思います」
「大型モンスター?」
思わず素で聞き返してしまう。
アリアがいくつか例をあげた。
「オーガやケンタウロス、ラミアなどは全体的に大きなモンスターになりますよね。一部悪魔系にも大型の女性型モンスターがいます」
「いやいや、オーガは大柄な筋肉質な女性だから分からなくないけど、ケンタウロスやラミアって……」
二次元なら分かる。
実際、日本の二次元ではありふれた題材だ。
しかし三次元はリアルできつくないか?
正直、相手として選ぶ者が居るかどうかで悩んでしまう。
別に召喚するのは構わないが、誰からも相手にされず放置される姿を想像すると可哀相過ぎて辛いのだが。
オレの純粋な疑問に、アリアは首を振った。
彼女は力強く断言する。
「大丈夫です。男性の性ですから。絶対に需要はあります」
「嫌な性だな……」
他に娼館で働いてもらう女性型モンスターのリストアップを頼む。
今回はあくまで一部上流階級者に開放し、感触を確かめるだけだ。
本格稼働はまだ先。
仮開放で、ノウハウの蓄積、人材の教育をする予定である。
もちろん責任者はアリアに担当してもらう。
彼女は誇らしそうに『畏まりました』と一礼した。
ちょうど話が終わった所で、秘書を務めているアシスタントデーモンのネアが慌てて連絡をしてきた。
彼女は通信越しに慌てていたため、意味が分からずマスタールームで落ち合う約束をする。
アリアに断りを入れて、オレはダミーウッドマンごと一度マスタールームへと戻った。
暫くすると、ネアが青い顔で入ってくる。
「ま、魔王様、重大なご報告があります!」
そして、彼女は震える唇で重大情報とやらを告げたのだった。
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
折角なのでもう1話アップさせて頂ければと思います!
また今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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今後も他作品を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




