16話 3ヶ国
16話から短編の続きになっております。
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「ようこそ『ドリーム・ダンジョン』へ! 皆様どうぞ一時の楽しい夢を存分にお楽しみください!」
『ドリーム・ダンジョン』貴賓室兼待合い室。
マスタールームではなく、ダンジョン内部で関係者と話をするために作った本部建物内にある部屋の一つである。
貴賓室に置かれている家具や美術品は、帝国、冒国(ギルドが運営する冒険者国家)、連合国から取り寄せていた。
その貴賓室に3ヶ国トップが勢揃いしていた。
どうも3ヶ国が示し合わせて、『ドリーム・ダンジョン』を見学したいと申し出てきたようだ。
『ドリーム・ダンジョン』を含めて4ヶ国で見学後、今後のことについて色々と話をしたいらしい。
オレはダミーウッドマンを操作し、深々と一礼をする。
動作に応じて赤いマントが動く。
「申し訳ございません。どうもお客様をダンジョンにお招きした場合、一度は今の台詞を言わないと体がむずむずして。放って置くと体から芽が出てきそうになるんですよ。ウッドマンだけに!」
『…………』
場の空気を和ませようと渾身のウッドマンギャグを披露したが、この場に居る誰も笑わない。
むしろ、こちらを探るような視線を向けてくる。
彼らにとって、ギャグでさえ、オレの内心を知るための1パーツでしかないようだ。
(……正直、今のギャグには自信があったのだが。少々ハイセンス過ぎたか?)
内心で首を傾げつつ気持ちを切り替える。
オレ自身、改めて彼らを観察する。
帝国のトップは、金髪で鍛えられた細マッチョ。顔立ちも整っているせいで、30代前半に見えるが、実際は40代らしい。金細工を首、指、耳に付けたキンキラ金な人物である。だが一番印象に残るのは、鋭い目だ。
まるで相手の心情全てを見透かすような鋭い瞳がとても印象的だった。
心の弱い人物なら一睨みで腰を抜かすかもしれない。
冒国のトップはとても分かりやすい。
縦にも横にもでかい筋骨隆々の男性だ。
顎から禿頭まで古傷が走り、筋肉も合わさって強面を演出している。
トップとしてこの場に居るのに、なぜか上半身はベスト一枚で、筋肉をこれ見よがしに強調している。
国のトップというより、山賊の頭のような人物だ。
最後は連合国。
複数の国が集まって出来た国だが、今回は全トップが来る訳にもいかず帝国、冒国とバランスを取るため、代表者が1人だけ顔を出す。
連合国トップは、一番歳を取ったお爺ちゃんだ。
白髪と髭をどちらも床に着きそうな勢いで長く伸ばしている。
ローブに袖を通し、見た目は穏和な魔法使いだ。
しかし、細い瞳の奥には鋭い光が宿っていることを見逃さない。一番内心が分からない人物である。
彼らには2人だけ護衛を連れてくる許可を与えている。
各自の後ろには2名、腕が立つのが遠目からでも分かる者達を連れていた。
だが、『ドリーム・ダンジョン』は娯楽施設のため、彼らの存在は気にしなくてもいいだろう。
オレは静かになった場の空気を変えるように咳払いする。
「こほん。ではあらためまして、『ドリーム・ダンジョン』にお越し頂きありがとうございます。今回は私、ウッド魔王が代表として皆様の案内を勤めさせて頂きます」
「こちらこそ我々のわがままをよくぞ聞いて頂いた、魔王殿」と金ぴか皇帝が告げる。
「ああ、まさかこれほどすんなり要求が通るとは思っていなかったぜ。むしろ個別に呼びだして洗脳か、魔法をかけるのかと思っていたんだがな」と禿頭の長が怒らせて、こちらの内面を窺おうと挑発してくる。
「せっかく魔王陛下が儂達の要望に応えてくださったのじゃ。その態度は不敬ではないかの?」と髭爺の連合国代表が窘めつつ、こちらの様子を油断なく見つめる。まるで禿頭と事前に打ち合わせしたような態度だ。
どいつもこいつもめんどくさそうな奴らだな……。
しかし、やることは変わらない。
オレはいつも通りのテンプレ台詞を告げる。
「まさか! うちは皆様に一時の夢を視て頂くダンジョンですよ? 害を加えることなんてありませんから、ご安心してくださいませ! さぁ、折角、お忙しい中、お集まり頂いたのですから時間を有効的に使いましょう。早速、皆様に当ダンジョンをご案内させて頂きます。こちらがゲスト様カードになるので無くさずに首から提げてくださいませ」
頭から爪先まで白い童女のシルキーが、透明なプラスチックの首から提げるヒモが付いたカードを配る。
彼女達の首に同じ物がぶら下がっているため、すぐに使い方は理解するだろう。
各国トップに直接配るのではなく、お付きの護衛達に配った。
護衛達は躊躇いもせず、魔術で罠の有無を調べる。
ちなみにシルキーに配らせたのは、女性で見た目が童女のため威圧感がないからだ。
サキュバスにしてもよかったのだが、色気が強すぎるのと、悪魔的なので却下した。
罠の有無を確認した所で、首から各自さげる。
「では早速、当ダンジョンをご案内させて頂きますね」
オレはツアーコンダクターのごとく、片手に旗を持ちながら貴賓待合い室を出る。
帝国、冒国、連合国、最後にシルキーの順番で部屋を出た。
☆ ☆ ☆
各国トップをゲームセンター、テーブルゲームコーナー、スポーツ施設、温水プール施設、レストランの順番に見せていく。
基本、中に入ってさらっと見てもらうだけだ。
実際にプレイすると、いくら時間があっても足りないし、他のお客様の迷惑になる。
唯一、女性しか入れない部屋だけは、男子禁制ということで見せるのを断った。
今回来た見学者の中に誰1人女性がいなかったためだ。
次に向かったのは『ドリーム・ダンジョン』で最も新しく作られたカジノ施設だ。
「……話に聞いていたより、随分と広いな」
金ぴか皇帝が代表して呟く。
彼の指摘通り、カジノは今まで見てきた施設に比べても圧倒的に広い。
軽くサッカーの試合ができる規模だ。
彼らはVIPルームからカジノを見下ろしてもらっている。
実際の下に行くのは遠慮してもらっていた。
カジノで遊んでいるのは一般人が当然多いが、貴族や大店、富豪層だって居る。
そんな中に、この世界のトップがぞろぞろとカジノに姿を現したら、遊びどころではない。
コネを得ようと躍起になる姿がありありと目に浮かぶ。
まぁ、ウッドマンだから目は無いんだが。
オレはすぐに皇帝の指摘に返答する。
「実はこちらの想定した以上にお客様がいらっしゃいまして……初期計画の約3倍の広さになったんですよ」
「ははははは! 初期計画の3倍とはこれまた景気がいいな!」
禿頭が豪快に笑う。
その目はギラギラと眼下のカジノに向けられていた。
やはり冒険者トップだけあり賭け事が好きなのだろうか?
「お陰様で――と言いたい所ですが、景気が良いだけではなくやはり問題も起きてまして。自身の器量を考えず無理をするお客様が後を絶たず……。なかには借金に借金を重ねた方もいらっしゃいます。こちらとしてはあくまで『一時の夢』を提供したいだけなのです。悪夢を視せる場所ではないのですが……。そういうお客様に関しては入店のお断りをしています。ですが、無理に押し通る方が多くて、その際、こちらで捕らえて各国で裁いて頂けるとありがたいのですが」
「ふむ、確かに魔王陛下のダンジョンは遊技で楽しむ場所。そのような輩を裁いた場合、ダンジョンの名に傷が付きかねませんの。儂としては問題はありませんぞ」
連合国の言葉に、他2国も同意の声をあげる。
ダンジョン内で犯罪を犯した場合は、こちらの警備員が捕らえて拘留。
後日、引き渡し、各国の法に基づいて裁いてもらうことになった。
詳細はまた後日詰めることに。
カジノを出ると、現在建設中の施設へと向かう。
施設は2つあり、『闘技場』と『競馬場』だ。
「魔王殿、『闘技場』は我が国にもあるが、『競馬場』とは一体どんな施設なのだ?」
「『闘技場』は皆様もご存じの通り『人vs人』、『人vs魔物』、『魔物vs魔物』で戦う場所です。ちなみに『ドリーム・ダンジョン』では、死者が出ないように調節するつもりなので、血は出ますが死者はでない安全な闘技場になる予定です」
オレは次に質問にあった『競馬場』を説明する。
「『競馬場』は馬を競走させて、どれが1着、2着になるかを当てる施設です。当ダンジョンでは馬だけではなく、魔物も走らせる予定ですが」
「それは面白そうだな! 魔王さん、俺様がそれに出場することはできるのか!?」
「騎手として出場するのですか? 事前にご相談して頂ければ、配慮致しますが」
「違う、違う! 俺様が走るんだ!」
「は?」
何言ってるんだこの筋肉は……。
話を聞くと冒国トップは、見た目に反して速度特化の元冒険者で、生身で馬より速く走れるらしい。
マジかよ……凄いなファンタジー。
正直ちょっと見てみたいので、競馬場が完成した暁には出場を許可した。
髭爺が溜息混じりにツッコミを入れてくる。
「魔王殿、止めておいた方がいいぞ。速すぎて賭けにならんからの……」
えっ!? どんだけ速いんだよ、この筋肉は!?
近隣諸国のトップが呆れるほど速いらしい。
なんだか逆に見てみたいんだけど!
とりあえず無事に、『ドリーム・ダンジョン』の案内を終えることができた。
☆ ☆ ☆
ダンジョン内部を見学してもらった後は、夕食&懇親会も兼ねて立食形式の食事会が開かれた。
各国で作法が異なるのと、オレのダミーウッドマンでは食事が摂れない。
1人だけ食事が摂れず、他3ヶ国で食べているのを眺めているのはあちらも気まずいだろう。
結果、立食形式の食事会を採用したのだ。
給仕は多種多様な女の子亜人達だ。
メイド服を着せて、各国代表や護衛者達に飲み物、食べ物だけではなく愛想も振りまかせる。
ご機嫌取りの為――というのもあるが、他にも理由はある。
その理由を切り出すのはなかなか難しいため、タイミングを計らないといけないが。
「――というわけで遊技施設だけではなく、このダンジョンに3ヶ国共同の倉庫を造り物資のやりとりをするのはどうだろうか?」
「うちとしてはモンスターの素材の安定供給が望みだ。研究のためにモンスターを生きたまま渡してくれ。魔王の言うことならモンスターは大人しくなるんだろう?」
「ほっほっほっ。どれも素晴らしい案ですな」
順番に金髪帝国、禿頭冒国、髭爺連合国の順番で語る。
他にも各国のメリットが得られる案ばかりを提示されていた。
だがオレはその全てを拒否している。
「あくまでうちのダンジョンは、皆様に一時の夢を楽しんでもらう場所。あまり色々手を出すと、お客様達に後ろ指を指されてしまいます。私は『ドリーム・ダンジョン』の魔王ですから、お客様のご期待は裏切れませんよ」
それにと、声量を落とす。
「娯楽というある種、新規分野メインだからこそ他の皆様の邪魔にはなっていません。ですがあまり調子に乗って飛び跳ねた場合、叩き落とされる可能性が非常に高いのです。私はあくまで新人の魔王ですから」
『あまりに派手に動くと、他国からだけではなく、他ダンジョンからの横やりも入るだろう』と暗に告げた。
各国トップ達だけあり、こちらの言わんとすることを理解してくれたようだ。
「魔王殿の言う通り、あまり性急に事を進めても仕損じるだけ。今は互いの足下を固めるのが肝要だろうな」
「ほっほっほっ。さすが帝国の長は言うことが違う。儂も同意しますぞ」
帝国、連合国はあっさりと同意する。
現在でも多額の利益を各国は得ているのだ。
無理をして、今得ている利益を失うのはもったいないと算段を付けたのだろう。
一方、冒国といえば――。
「話は分かった。なら周りに居る見目麗しい女性達を抱くことは可能か?」
「はっ? えっと……」
あまりにストレートな言い草に、一瞬返答に詰まった。
冒国は冒険者達が集まった国だけあり、男性が発散する場所が特に多いのだろう。そのトップなら気になってもしかない――と思うしかないか。
咳払いをして、気持ちを建て直してから口を開く。
「『ドリーム・ダンジョン』は一時の楽しい夢を視て頂く場所です。成人男性限定ですが、そういう場所を作るのは吝かではありません。またこちらの事情なのですが、一部女性達を特別扱いしている場所があるので以前から男性の方から批判がありまして……」
その施設以外は全て男女関係なく利用できる。
だから、どうしても女性しか入れない場所は目立ってしまう。
大抵の男性陣は納得するのだが、一部はその不平等を逆手に取りこちらに要求を呑ませようとする輩も居るのだ。
基本、その手の輩は二度と入れないようにしているが。
だがいちいち相手にするのも面倒なため、男性しか入れない施設を作りバランスを取る方が早い。
「ただし、今までは娯楽と言っても未知の部分を商ってきたのでお目こぼしを頂いておりましたが、さすがに成人男性限定の娼館を作り出そうとした場合、既得権益に触れる可能性があり躊躇している次第です。また人ではなく、相手をするのは女性型のモンスターですから、需要があるのかどうなのかも悩んでいる点なのです」
「くッははははは! 魔王のくせに随分細かいことまで考えているんだな! 気にしすぎだ。モンスターを嫌がる奴は放って置けばいいし、既得権益に触れないよう差別化を図れば問題はあるまい。こっちのダンジョンでは女性型モンスターが抱ける。人を抱きたければ外へ行けとな。場合によって、人の娼婦をこちらで雇用すればいい。もし望むなら仲介してもいいぞ?」
冒国のトップは豪快に笑うと、次々に案を出してくる。
外の娼婦を雇うという案は考えていなかった。
面白い案だと思う。
流石にすぐには採用できないが。
他にも帝国、連合国トップから次々に案が出る。
オレはその案を聞きつつ、今度試験的に娼館を開くことを決定した。
その際、優先的にこの3ヶ国トップは招待すると約束をする。
約束を終えると、トップ同士でカンパイの音頭を取り、何度も杯をぶつけ合う。
オレはウッドマンのため相手から表情を読まれる事は無い。
そんな究極の無表情の下、こちらから切り出すつもりだった案を向こうから出してもらったことについ笑みを零してしまう。
これで他国に疑問を抱かれず計画を進めることができる。
――この異世界を支配する計画をだ。
『【連載版】ようこそ! 『ドリーム・ダンジョン』へ! ~娯楽ダンジョンで日本製エンターテーメント無双~』を読んで頂き誠にありがとうございます!
本来なら短編バージョンを残したかったのですが……元々短編に収まらず長編として書かせて頂いておりまして。
さすがに長編版があるのに、さらに連載版を書く訳にはいかず、以前アップした作品から続きを書くという形を取らせて頂きました。
明鏡が最初からもっとコンパクトに話を纏められていれば良かったのですが……申し訳ありません。
さて、今回本作ドリームダンジョンの他にも、『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』を連載版としてアップさせて頂きました。
ドリームダンジョンだけではなく、スキルマスターの方も是非是非チェックして頂ければと思います。
一応作者名をクリックすれば移動できますが、他にも移動しやすいようにアドレスを下に張らせて頂きます。
『【連載版】廃嫡貴族のスキルマスター ~廃嫡されましたが、『スキル創造』スキルで世界最強のスキルマスターになりました!?~』
https://ncode.syosetu.com/n9129ga/
です。
他にも新作として『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』をアップしております。
こちらは現在毎日更新中で、1章が終わって現在2章に入っております。
2章では『軍オタらしい盛り上がり』が多々あるので、是非チェックして頂けると幸いです。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も他作品を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




