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12話 ハッピー○ーンは合法

 エーナー王国国王による、『ドリーム・ダンジョン』潰す宣言から、1日が経つ。


『ドリーム・ダンジョン』出入口、半径10mをぐるりと、杭と縄で作られた簡易バリケードで囲まれていた。

 兵士の人数も多く、常時30人以上が完全武装で警戒していた。


 兵士だけではなく、麻薬犬のように犬型の魔物を使役する魔物使い、ローブを頭から被ったいかにも魔術師風の冒険者も雇われ見張りに参加している。


 側のエーナー王国正門に続く街道からは、『ドリーム・ダンジョン』の常連客だった商人、一般人、冒険者が恨めしそうに兵士達を遠目に睨んでいた。


 見張りをする兵士達は、ダンジョンから魔物が溢れて襲いかかってくるのを警戒すると同時に、隙を付いて入ろうとする者達まで注意しているようだ。


 でなければ兵士だけではなく、魔術道具等で姿を隠し近付こうとする者をいち早く察する犬型の魔物、魔術に対抗する魔術師を雇ったりはしないだろう。


 どうやらエーナー王国国王は本気で『ドリーム・ダンジョン』を潰しにかかってきているらしい。


 それぐらいしっかりと敵愾心を抱いて挑んでくれた方が、オレとしても心を痛めなくて済むからありがたいのだが。


 ネズミ型ゴーレムで外の様子をマスタールームから眺め、足を組み替える。


「さて、早速今夜からしかけさせてもらおうか。まず準備する物は――」


 オレはメニューのアイテム一覧から目的の物があるか探す。

 無事に見つけ、不測の事態も想定し、保険の準備もしておく。


 準備が整うと、後はのんびり夜になるのを待つだけだった。




 ☆ ☆ ☆




 深夜、1時。


 日本とは違い街灯が無いため、本来は夜になると自身の手すら見えなくなるほど暗くなる。

 現在は周囲で監視を続ける兵士達により、篝火がダンジョンを囲うように焚かれていた。


 お陰で、周囲は昼間のように――とはいかないまでも、監視に困らない程度には明るくなっている。


「ダンジョンの魔王か! 何をしに来た!?」


 ダンジョンの入り口から顔を出すと、すぐに兵士が気付き手にした槍を向けてくる。


 彼の声によって、周囲を囲んでいる20人ほどが、警戒態勢を取った。

 昼間、見た兵士達はいない。

 どうやら昼、夜の交代制らしい。


 暗がりに視線を向けると、奥で数名が仮眠を取っている。兵士の声に反応し、慌てて起き出す。

 夜はさらに内部でローテーションを組んでいるようだ。


「魔王! ついに痺れを切らし魔物達を連れて、エーナー王国に刃を向けに来たのだな!」


 最初に声をかけてきた兵士が、篝火に負けない燃えるような瞳でとんでもないことを言い出す。

 側に居る相方兵士が、口に笛をくわえるのが見えた。

 さらに奥では伝令のためか、馬を引き寄せ乗ろうとする兵士まで居る。


 どうやら状況次第で笛を鳴らし騒ぎ、危機を知らせるため馬で走るつもりらしい。


 まだ封鎖されて2日も経っていないのに、オレが魔物達を引き連れて破れかぶれの突撃をしに来たと思っているようだ。


「魔物を引き連れてとか、刃を向けてとか、そんな物騒なことを我々がするはずないじゃないですか。うちは『ドリーム・ダンジョン』。お客様に一時の楽しい夢を視て頂くことは望みますが、争いなんて野蛮なことはしてしませんよ」


 オレは肩をすくませ、呆れた声音で返答する。

 兵士達はそれでも『信じない』といった表情で警戒していた。

 皆、エーナー王国に忠誠を誓っている真面目な兵士ばかりらしい。


 そちらの方がつけ込みやすい。

 ありがたすぎて、ウッドマンに目や鼻などのパーツがあったら、今頃獲物を見つけた詐欺師のような笑みを浮かべてしまうところだった。

 顔の無いウッドマンで交渉を始めたのは、相手に表情を読まれずに済み色々はかどっている気がする。


 オレは警戒する兵士達を尻目に、ダンジョン出入口からウェイトレス達に大鍋と食料を運ばせる。


「改めまして深夜までお勤めご苦労様です。遅くまでのお仕事、大変かと思い僭越ながら簡単な食事を準備させて頂きました。よろしければお納めください」

「はっ! 誰が敵から施しを受けるか。だいたい何が入っているかも分からない物を食べるはずないだろう」


 毒物、または自分達を操る魔術等を込めた危険性のある物を食べるつもりはないと即答されてしまう。

 オレはウッドマンを操作して、顔の前で片手を振らせる。


「食べ物に細工なんてしてませんよ。私は残念ながら飲食できませんが、控えている部下に食べさせてもいいですよ。それにそちらには優秀な魔物使いや魔術師がいらっしゃいますよね? 納得できるまで確認してください」

『…………』


 兵士達が固まる。

 後ろ暗い様子もなく、率先して『納得がいくまでチェックしてくれ』と言ってきたため、戸惑っているのだ。


 さらにオレは言葉を並べた。


「いえね、実は突然、ダンジョンが閉鎖されてしまって、お客様にお出しする料理や材料が大量に余ってしまっているんですよ。スタッフは多数居ますが、全員で腹一杯食べても余るほどで……。このままだと腐らせて捨てるしかないんですよ。ですが、食べ物を粗末にするのはいけないことじゃないですか? そうは思いませんか?」


 先程から会話をしていた兵士ではなく、周囲を囲っている全員に聞こえるように問いかけ、顔を向ける。

 内容もまるで子供に言い聞かせるような分かりやすい言い方だ。


 この話し方と内容の正しさから、数人の兵士が無意識に頷く。

『食べ物を粗末にしてはいけないよな』と。


「なので食料の消費を手伝ってもらえませんか? 自慢ではありませんが、うちのダンジョンの料理はエーナー王国の皆様に評判がいいんですよ」

「し、しかし敵である魔王から食事を受け取るのは賄賂になるのではないのか?」


 ずっと言葉を交わしていた兵士が、初めて迷う様子を見せる。

 深夜1時。兵士達は若く、夕食も粗末な物で量も多いとはいえない。

 肌寒い中、いつダンジョンから魔物が飛び出すか分からない緊張感の中、変化しない状況をじっと見守り続ける。

 きつい任務だ。


 そこに降って湧いたような好条件。

 つい最近まで、エーナー王国の住人達が大金を支払い食べていた料理を無料で振る舞われるというのだ。


 オレ自身の態度から、毒物や魔術がかけられている心配はほとんど無い。

 当然、受け取る際、チェックはするだろうが。


 さらに『食べ物を粗末にしてはいけない』という一般常識を言われたら、つい心が揺れてしまうのも当然である。


 オレは最後に、食事をする『言い訳』を提示する。


「賄賂なんかじゃありませんよ。第一、敵の食料を消費させるのは立派な軍事行動ではないですか? 戦争中、敵国の兵糧を奪うようなものですよ」

「軍事行動か……」

「そうです、軍事行動です。第一、仕事中にお酒を飲む訳じゃないですから。栄養をつけてより一層仕事にも励める。こちらは食料を無駄にせずに済む。ほら、誰も損をしていないじゃないですか」


 手をあげ、背後に居るウェイトレス達が寸胴の蓋を取る。

 湯気が昇るコーンスープの甘い香りが漂う。


「まずは毒物や魔術の有無を確認してください。コップや皿に少量分けてお渡しすればいいですかね?」

「あ、ああ、それで問題ない」


 言い訳を与え、『話は決まった』とばかりに問答無用で進める。

 兵士達も最初は抵抗があったが、言い訳と強引に話を進めたことであっさりと流される。

 ちゃんと本人達に進んでチェックもさせるため、『食べてもいい』空気感がより一層強固になる。


 犬型魔物の嗅覚や魔術師のチェックも問題なし。

 当然だ。

 違法成分は何も入れていないのだから。


 さらに魔物使いの魔物に食事を一通り食べさせる。

 特に死亡したり、操られている様子はない。


「では、お食事をお渡ししますね。そちらまで持って行きますか?」

「……いや、自分達が受け取りに行こう。鍋や食料をそこに置いて下がってくれ」

「了解しました。食べ終わったら、同じ場所に置いておいてください。適当な時間に鍋等を引き取りに参りますので」


 証拠隠滅もこちらですると宣言。

 鍋やサンドイッチ、お菓子を置いてオレ達はダンジョンへと下がる。

 特にお菓子は山盛りで渡した。


 ウェイトレス達を完全に下がらせ、オレは1人で食事の説明をする。


「鍋に入っているのはコーンスープです。熱いのでお気を付けてください。サンドイッチは複数種類があるので、そちらで適当に分けてください。最後に、食後のおやつとしてお菓子を置いておきますね」


 食後のお菓子。

 ひらべったく、細長い粉がまぶされていた。


 オレはマスタールームで悪魔のように笑いお菓子の名前を告げる。


「お菓子の名前は、ハッピー○ーンです」




 ☆ ☆ ☆




 収支報告。


 ダンジョン入場者:0人


 1day消費DP:マイナス119万DP(施設維持費等)


 1day獲得DP:0DP


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― 新着の感想 ―
最近ハッピーターン急激に味落ちたからなあ。
[良い点] ハニートラップならぬヤミートラップですな。
[一言] ハッピーターンとかまたえっぐいモノをw
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