10話 宣戦布告
「いらっしゃいませ、何名様でしょうかワン?」
「3名だ」
「それではお席へご案内しますワン」
ワーウルフの女の子が、ミニスカウェイトレス服姿で、『ドリーム・ダンジョン』を訪れたなんの力もない一般人男性客達を店内へ案内する。
『ドリーム・ダンジョン』は、下級冒険者を受け入れたが死者は無し。
一部、運動場で怪我をした者や喧嘩をし出禁を喰らった粗忽者も居たが、冒険者ギルドから『安全なダンジョン』と信頼を得ることができた。
お陰で無事に、一般客の受け入れも始まったのだ。
一般人客もこれまで冒険者達が、楽しそうに遊んだり、美味い物を飲み食いしているのを知っていた。
当時はまだ『ドリーム・ダンジョン』の安全性が確認されていなかったため、一般人の入場は許可されておらず、物品の持ち出しや転売も禁止されていた。
特に女性冒険者だけが買える品物は、一般女性の憧れの的だった。
危険を顧みない一部商人が、ダンジョンの支配者である新人魔王のオレに、冒険者を通じて接触。
外部への販売を頼んできた。
しかし許可をしなかった。
品物を外部に持ち出したら、『ドリーム・ダンジョン』へ訪れる冒険者が減る。
冒険者が減ると必然的にDP収入も減る。
DPだけに、見過ごせないポイントである。
冒険者ギルドから、一般人への開放が宣言されるタイミングに合わせて、ゲームコーナーではメダルゲームを追加。
各種フロアーも2、3倍に広げ、従業員のモンスターを大量に召喚し接客へとあたらせた。
もっとも変わったのはリニューアルされた休憩所だ。
今では大幅に拡張され、内部はまるで日本にあるファミリーレストラン状態である。
知性ある女性型モンスターを大量に召喚し、ウェイトレスとして働かせていた。
飲食は全てDPから出しているので、調理の手間はゼロ。
DPから呼び出すのは、オレ自身がやっているのではなく知性あるモンスターに権限を与え代行をさせている。
お陰様で、今の『ドリーム・ダンジョン』で一番の人気がここレストランスペースである。
酒の販売を一部開始したのも大きいが何より最安値1大銅貨(1000円)で美味しい食事ができて、ウェイトレス達が可愛い女性型モンスターという点だ。
狼耳のワーウルフ。
巨乳のミノタウルス。
キツネ耳のワーフォックス。
ネコ耳のワーキャットなどなどだ。
また着ている衣服もミニスカウェイトレス服で、ぱっと見でも質が下手な貴族のメイド衣服より良くて可愛い。
さらに日によって、ウェイトレス服を色々変えていた。
チャイナドレスやメイド服、ゴスロリ、甘ロリ、学校制服、etc。
一度、スクール水着&ニーソックスをやったら、女勇者奈々美や唯、女性陣から反発を受けた。
男性からは大絶賛されたのにだ。
解せぬ。
ちなみに『ドリーム・ダンジョン』で2番目に人気が高いのは、『女性専用スペース』である。
常に女性が列を成している状態だ。
あまりに人数が多すぎて『女性専用スペース』に入れる人数を限定したため、長蛇の列を作る結果になってしまった。
まるでエーナー王国に住む女性が全て集まっていると錯覚するほどの行列である。
正直、ここまで人気になるとは思っておらず、驚いている。
行列を減らすため店舗スペースも拡大したのだが、行列は未だに解消されていない。
これ以上の拡大と販売員モンスターの投入はさすがに躊躇われた。
他にも問題はいくつか出ているが、概ね『ドリーム・ダンジョン』はエーナー王国住人や冒険者に受け入れられ、順調に毎日を送っていた。
しかし、事態は一晩で急変する。
☆ ☆ ☆
「どういうことだ……いったい何が起きている……」
『ドリーム・ダンジョン』開園。
いつもなら朝から並んでいるお客様――ゲストが雪崩のように店内へと入ってくる。
しかし、なぜか今日に限って人っ子一人姿を現さないのだ。
「魔王様……いったい何があったんでしょうか?」
ネアが不安そうに尋ねてくる。
オレはマスタールームで席に座り顎を撫でる。
すぐに判断を下した。
「マントウッドマンを外に出して様子を見させる。スタッフ――キャスト達は現場で待機。いつゲストがいらっしゃっても対応できるようにしておけ」
『かしこまりました、魔王様』
部下のモンスター達が一斉に忠義厚い声音で返事をする。
オレは身代わりのマントを羽織ったマントウッドマンを1体ダンジョン外へと出す。
外に出ると、予想外の光景が広がっていた。
ダンジョンを囲むように武装した兵士達が立っていたのだ。
『ドリーム・ダンジョン』は未だに死者を出していない。
一般人も安全に楽しめると、約1ヶ月間で証明された。
なのにどうして、これほど厳重に囲まれているんだ?
少々、考え込む。
答えに辿り着き、マスタールームで指を鳴らす。
(あっ、なるほど。そういうことか。ダンジョン運営が楽しくて、すっかり忘れていた。確かにそろそろ時間的に文句を言われるだろうな)
「魔王様?」
1人原因に納得するオレに、ネアが疑問の声をかけてくる。
返答するより早く、兵士達に動きがあった。
ダンジョン入り口正面。
厳重に武装した騎士達に守られながら、1人の初老男性がこちらへ向かって歩いてくる。
分厚いマントを肩にかけ、手には指輪が複数嵌められている。恐らく身を守るためのマジックアイテムだろう。
メニューのアイテム欄にいくつかそれらしい物があった。
手には錫杖を持ち、衣服も豪華だが宝石のような物が縫い込まれている。あれも身を守るアイテムらしい。
だが最も注目するべき点は、男性の頭に乗っている黄金の冠だ。
マントウッドマンと話をするには遠すぎる距離で立ち止まる。
後ろ、左右に近衛兵士らしき騎士達が固め、正面にもすぐ盾として割って入れるよう気配を滾らせている。
そんな彼らを気にせず、初老男性が名乗った。
「余がエーナー王国国王である」
『エーナー王国国王』と初老男性が名乗る。
彼は続けて爆弾を投下した。
「エーナー王国国王の名において『ドリーム・ダンジョン』は今日を持って、閉鎖させてもらう」
エーナー王国国王直々に、『ドリーム・ダンジョン』終了のお知らせを告げられた。




