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1話 人を殺すのに刃物はいらない

「……ここはどこだ?」


 オレは目を覚ますと真っ白な空間に仰向けに横たわっていた。

 布団やベッドではなく、床に直接寝かされている。

 背中や腕、足などに硬い感触を味わう。


 未だぼんやりとした頭で周囲を観察する。

 今居る場所は天井や壁、床に繋ぎ目が無い。

 真っ白な空間のため分かり辛いが、自分はほぼ中央に居てなぜかバスケットボールサイズのボールがふよふよと浮かんでいた。


 ボールは仄かに発光していて、『部屋を暗くしたら綺麗だろうな』という感想が漏れる。


「これがダンジョンコアか……ん? ちょっと待て、どうしてオレはこれが『ダンジョンコア』だって分かるんだ?」


 他にも覚えていないか考え込む。

 覚えていることはあまりなかった。


 自分の名は山崎陽太(やまざき ようた)、男。年齢は30歳半ばを過ぎていたはずだ。

 日本の首都東京都内でサラリーマンとして働いていた。

 それ以外のことは何一つ思い出せない。


 自分の家族や恋人、友人、サラリーマンだがどんな仕事内容だったのか、好物や嫌いな食べ物、趣味、最後にやっていたこと――全て思い出せない。


「――こんにちは、ようやく目覚めたようね。魔王候補様」

「!?」


 突然、声を掛けられて視線を向ける。

 自分とダンジョンコア以外、何も無かったはずなのに、いつのまにか1人の女性が悪戯っぽい表情を浮かべオレを見下ろしていた。


 彼女にはコウモリの羽根、黒く長い尻尾、頭には角が生えている。胸も大きく、SM女王様のような革製品衣装を着ていた。

 見た目は美少女なのに年齢とは不釣り合いな妖艶な雰囲気を発している。


 彼女はコウモリの羽根を動かしてもいないのに、ダンジョンコアのようにふよふよと浮いていた。


 突然現れたり、見た目や浮かんでいる姿を前に、彼女がただ者ではないことをすぐに理解する。

 見た目通り、自身の命を狙う悪魔やモンスターなら、今頃奇襲を受け傷を負ったり、殺されていただろう。


 声をかけてきたということは、今のところ攻撃する意思はないらしい。

 自身の置かれている状況を把握するためにも、彼女との対話は必要だ。


 色々質問はあるが、まずは彼女が先程告げた台詞に対して尋ねる。


「魔王候補?」

「ええ、そうよ。我らが邪神様により、貴方はこの世界に魂を召喚されたの」

「じゃしん? しょうかん?」

「私は魔王候補の貴方を補助するため使わされたサポーターのネアよ。長い付き合いになれるよう一緒に頑張っていきましょう」


 ネアと名乗った悪魔っ娘は屈託のない笑顔を向けてくる。


「とりあえず、色々疑問はあるでしょうけど、話をするからまずは黙って聞いてね。質問は話が終わった後にちゃんと聞くから」

「……分かった。説明を頼む」

「了解~♪」


 ネアはまるでノリの良い女子高生のような返事をする。

 彼女の態度に一抹の不安を抱いたが、すぐに払拭された。

 ネアの説明は堂に入り、とても理解しやすかった。


 彼女の話を纏めると――自分は前世で既に死亡している。


 その死んだ魂をオレが居た地球、日本とは異なる世界の邪神が偶然ゲット。

 これ幸いに魔王候補の1人として、素体に魂を込めた。


「言葉より見た方が早いかな。はい、鏡」


 ネアはどこからともなく手鏡を取り出し、手渡してくる。

 鏡に映っていたのは――目、鼻、口、髪の毛、耳が何も無いつるりとした卵のような木面の顔だった。


「!? な、なんで顔が無いんだ!?」


 今、気付いたが顔だけではない。

 腕や足、体全部が木製で出来ていた。

 よく漫画家やイラストレーターがポーズをつけるために木製人形を使っている。

 あんな感じだ。

 関節は球体で、顔はのっぺらぼう。髪の毛一つ無い。

 だが、なぜか物が見えるし、嗅覚もある。体を触った触覚もある。

 手のひらは細かく、指まで作られているため普通の人間のように物を掴むこともできる。

 記憶が曖昧だったせいで気付くのに遅れてしまった。


「なんだこれ? なんだよ、これは……」

「邪神様が死んだ貴方を『ウッドマン』って呼ばれるモンスターに生まれかわらせたの。信じてもらえたかしら? ちなみにすでに貴方は死んでいるから、元の体に戻ることはできないわ。別にこちら側が意図して殺したんじゃないから。むしろ邪神様が異界の魂を手に入れること自体初めてなんだから」

「…………」

「……とりあえず、話を続けるわね」


 手鏡を持ったまま反応を示さないオレへと、ネアは再び説明を開始した。


 オレが今居る世界は神と邪神が争いをしている。

 邪神が『魔王候補』を産みだし、神の使徒達がダンジョンを潰して回っているらしい。

 つまり陣取りゲームをしているようなものだ。


『魔王候補』の使命はダンジョンを拡大していくこと。


 ある意味シンプルなルールである。


 他にも決められたルールがある。


●ダンジョンコアを破壊されたら死亡

●魔王本人が殺害されても死亡

●総合計DPがマイナスになった場合も死亡

●初期ポイントは10万DP

●獲得したDPでダンジョンを拡張したり、モンスターを喚び出したり、罠や宝箱などと交換することができる

●ダンジョンに魔王自身やその配下、関係者以外が入ったり、殺したり、閉じこめたりなどするとDPが発生する

●金銭、魔術道具、武器や防具、希少品などもDPに還元することができる

●魔王としてランキング制度有り。DPの総量で判定される。あくまで目安でしかない

●魔王が死んだ場合、サポート役は姿を消す。死亡ではなく、次に誕生する魔王候補の案内に向かうだけ

●サポート役が魔王候補のため戦ったり、護ったりすることはない。あくまで出来るのはダンジョン運営のための質疑応答、相談などのみ


 他にも細かい事項を伝えられた。


 ネアが冷静に状況やルールを説明してくれたお陰で、オレも落ち着きを取り戻す。

 どうやら冷静さは伝染するらしい。


 手鏡をネアに返し、あぐらをかいて何度か深呼吸をする。

 口、鼻、肺も無いのに呼吸をしているのが気になるがそういうものだと割り切るしかない。

 一通り説明を聞き終えたところで疑問点を尋ねる。


「話は分かった。つまりオレはダンジョンマスターとしてダンジョンを拡張して人々から魔王と恐れられる存在になり、最終的に世界中を覆い尽くすほど拡大すればいいんだな」

「はい、その通りです」

「つまり外の世界には複数の魔王が存在するのか?」

「はいはいです」


 マジかよ。

 外の世界の人達は大変だな……。

 思わずまだ見ない人類に同情してしまう。


「ちなみに何もせずこのまま引きこもっていては駄目なのか?」

「かまいませんよ。それも選択の一つです。ただしあまりお勧めはしません。何もしなければ誰も入っては来ませんが、出て行くこともできません。魔王候補者は知性ある者達が選ばれるのですが……1年、2年、10年ぐらいは耐えられますが、100年、1000年もこの部屋に居続けることになるので精神的にかなりきついですよ」


 ネアの指摘通りだ。

 この部屋に100年も精神的に死ねる。

 何もしなければ初期DP10万も水、食料などで使い切ってしまう。

 ……今のオレが食事を必要とするか分からないが。

 そうなったら再スタートすら切れなくなる。


「私も頑張ってサポートするので新人魔王として頑張っていきましょう! 後、これからは魔王様のことをダンジョンの主として、『マスター』と呼んでもよろしいでしょうか?」

「……分かった。好きに呼んでくれ。ダンジョンを作るしか選択肢が無いようだしな。だが、やるからには絶対に最後まで生き残るぞ!」

「では早速、メニュー画面を開いてください」

「メニュー画面?」

「『メニュー』と意識しながら、軽く指先を振ると出てきますよ」


 言われた通り動く。

『メニュー』と意識しながら、指先を上から下に動かす。

 目の前に半透明な画面が出てくる。

 大きさはファミリーレストランにあるメニュー表ぐらいだ。


 メニューの一番上にオレの名前『ヨウタ・ヤマザキ』と表示され、下にはつらつらと項目が書かれてある。

 一番上は『総DP』。次が『1day獲得DP』、『1day消費DP』、『アイテム』、『モンスター』、『トラップ』、『拡張』、『マップ』、『日時』などがずらずら並んでいる。


「このメニュー表のボタンをタップするとさらに項目が開きます。たとえばアイテムを押してみてください」


 ネアの指示に従い『アイテム』ボタンをタップする。

 しかしタップなんて言葉、オレが居た世界の現代人にしか通用しないだろうに。

 相手によって表現が変わるのかもしれない。


『アイテム』を押すと表示が切り替わり、つらつらと名称が並ぶ。

 名称の隣にDPが表示されている。


「その名称の隣に表示されているDPを消費してアイテムを得ることができるんです。せっかくなのでDPが低いのを選んでみてください」

「……なら、これかな」


 オレは『水:100DP』を選択。

 ボタンを押すと、『はい/いいえ』が表示され、『はい』を選択する。

 名前の下にある『総DP:100000』が『総DP:99900』と減った。

 床に1Lペットボトルに入った水が出てくる。


「これはなんですか? 中身は水のようですがガラス……ではないですね。もっと柔らかいですね」


 ネアは床に出現したペットボトル(水)を興味深そうに触る。


「ペットボトルを知らないのか?」

「知りません。普通は樽とか、桶、壺で出てくるんですけど……あっ! そっか! これは『魂色(こんしょく)』の影響ですね」


 知らない単語が出てきた。

 今度はネアが満足そうに頷く。

 なんだよ『魂色(こんしょく)』って。

 声に出さずともオレの疑問に気付いたネアが説明してくれる。


「多種多様な魔王候補様が存在します。その魂の色の影響により、アイテムや罠、モンスターにも影響を与えて変質するんです。その影響のことを『魂色(こんしょく)』と呼びます」

「つまり水属性や火属性、風属性を持つ魔王ならモンスターや罠、アイテムにも影響を与えるわけか」

「その通りです。他にはダンジョンを作る場所によって用意するアイテムや罠、モンスターのDPに差ができることで一つとして似たものがない多種多様なダンジョンが産み出されるのです」


 オレの場合、『現代日本』の魂色(こんしょく)で水を選択したら、ペットボトルが出てきたわけか。

 つらつらと指でアイテム欄を下にスクロールすると、確かに日本になじみ深いモノがいくつも存在する。


 さらに説明を受ける。

 たとえば『総DP』を押すと、今まで何に使ったのか一覧が表示される。

『1dayDP』の場合は、押すと1日に得たDP数、1週間で得たDP数、1ヶ月で得たDP数、他にも時間や分、秒で得たDP数を表示することが可能だ。


 また『日時』を押すと時刻、曜日、カレンダーなどが表示される。

 ちなみにこの世界は1年で365日。閏年もあり、1週間を7日間が区切られ、曜日は月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、日の日という。


 覚えやすくて助かる。


「一通りの説明を終わります。もしまだ他に質問があれば受け付けますが」

「……とりあえず大丈夫だ。後で気になったことがあれば尋ねてもいいんだよな?」

「もちろんです。そのためのサポーターですから」


 ネアが自身の職務を誇らしげに笑顔で告げた。


「では早速、ダンジョンを作っていきましょう。新人魔王にとって最初、一番肝心なのは『どこにダンジョンを作るのか?』です。この場所選びに失敗すると、死亡率が格段に跳ね上がるので注意してくださいね」


 さらに彼女はアドバイスする。


「山の奥地や海底に作り出しても誰も来ず、DPを無駄に消費して最後は死亡してしまいます。逆に目立つ場所の場合、Aランク、Sランクの冒険者、規格外の力を所持した勇者によって即座に討伐されてしまうので注意してください。また著名なダンジョンや好戦的な魔王の側に作るのも危険です。ダンジョン同士が基本的に争わないのが暗黙のルールですが、あくまで暗黙。邪神様はその点に関して特に罰則、推奨、注意もおこなっていませんので」

「勇者が居るのか?」

「はい、神側だけが異界から喚び出すことができるんです。その際、大抵規格外の力が付くんですよ。狡いですよね!」


 まるで子供のように頬を膨らませてネアが怒る。

 容姿相応に見えて微笑ましかった。


 さて、和むのこのぐらいにしてどこにダンジョンを作るべきか……。

 オレは『アイテム』欄だけではなく、『罠』や『モンスター』など他の項目も押して確認していく。


 ネアはサポーターらしく黙って見守ってくれていた。


 ――どれぐらい時間が経っただろう。

 一通り確認し、ダンジョンの構想を練る。

 メニューの『マップ』を押し、世界地図を開き眺めた。


 赤い点が世界中に無数ある。

 ネア曰く、その赤い点がダンジョンらしい。

 オレの場合、未だ切り離された空間に存在するため、世界地図のどこにも乗っていないとか。


 地図を眺めていただけでは、適した場所が分からずネアに尋ねる。


「この世界で一番、栄えている国はどこだ?」

「エーナー王国ですね。史上最悪の魔王『悪魔の魔王』を討伐した史上最強国家です。今でも人々、魔王問わず恐れられています。ついで帝国、聖教(せいきょう)国、連合国、冒険者が集まって出来た冒国などですね」

「人々は分かるが、なんで魔王まで恐れているんだ? 同じダンジョン魔王同士だろう」

「『悪魔の魔王』は人々や亜人だけではなく、積極的に他魔王すら刈り尽くした狂気の魔王なんです。当時は『悪魔の魔王』のせいで人口は半減、ダンジョンの3分の2が滅んだらしいです。他魔王と勇者・人&亜人連合によって倒されましたが」


 当時、エーナー王国国王が生き残った国々、魔王達を纏め上げ先陣を切り悪魔魔王を倒した。

 その輝かしい歴史のお陰で、この世界で最も栄えた国のひとつになったらしい。


 しかも規格外の力を持った勇者を3人も抱えている。

 今のところこの世界に存在する唯一の勇者達らしい。


 話を聞き終え、オレはダンジョンを作る場所を決める。


「なら、そのエーナー王国の入り口側で」

「……は?」


 今まで係員やコールセンター社員のような卒のない対応をしていたネアが、間の抜けた声を漏らす。

 再度、オレはダンジョンを作る場所を告げる。


「エーナー王国の首都入り口側。なるべく人が集まって邪魔じゃなくて、徒歩30分から1時間、最悪、半日ぐらいの場所にダンジョン入り口を作ろうと思う」

「正気ですか!? 話を聞いてました!? 王道は普通、目立ちつつ、目立たない場所に作るんですよ!?」

「分かってるから大丈夫だって。それから配置するモンスターなんだが、この『ウッドマン』を召喚する」

「あ、あのウッドマンを選ぶなら、それよりDPが少ないスライムやゴブリンなどの方が数を揃えられますよ? もしくはウッドマンより多少高いですがゴーレムの方が石材で出来ているので丈夫です。同族だからと言って選ばなくても……」

「別に同族だから選んでるわけじゃないって。てか、ウッドマンってやっぱり微妙な扱いなんだな……」


『モンスター』のボタンを押すと一覧が表示される。


 一番安いのがスライムで1DP。

 次に安いのがゴブリンで100DP。

 ウッドマンは500DPで、石材製のゴーレムが1000DPだ。


 ゴブリンより微妙に高く、石材製のゴーレムの半値。

 量でも質でも中途半端な存在がウッドマンらしい。

 だったら、そんな微妙な存在のウッドマンに魂を込めるなよ。さすがに気分が落ち込む。


 オレが落ち込んだのに気付いたネアが、わたわたとフォローする。


「あ、安心してくださいマスターの体は邪神様特製ですから通常のウッドマンに比べて強いはずです。だから、そんな落ち込まないでください、ね? それよりダンジョン製作の続きをしましょうよ。ウッドマンは何体召喚しますか? 他モンスターや罠、宝箱、部屋の拡張もしないとですからあんまり数を出すと後々苦しくなるので注意してくださいね」


 拗ねていてもしかたないので、気持ちを立て直す。


「……とりあえず予備を含めて3体かな」

「さ、3体って……少なすぎませんか?」


 オレの言葉にネアが微妙な顔でツッコミを入れてくる。

 構わずメニューを操作して、ウッドマン3体(500×3=1500DP)を召喚する。


 ウッドマン達の見た目はまんまオレだ。

 うり二つ――同じ工業製品のような気分である。


 ウッドマン達とオレの意識がリンクしているのが分かる。

 遠距離から操作可能で、彼らが見た聞いた触ったモノを共有することも可能らしい。


「次はダンジョンの拡張ですかね。最初の部屋はどれぐらいの広さにします?」

「広さは初期でいいや」

「しょ、初期!? 初期って大して広くないですよ。何も拡張しなかったら、次の部屋がすぐダンジョンコアルームなんですが……」


 たいして広くないとはいえ、初期拡張(1000DP)は高校教室ぐらいの広さがある。

 とりあえず今はこれで十分だ。


「大丈夫、分かってる。代わりに転移陣を設置するつもりだ。設置場所はダンジョンの出入口と隅でいいか」


『罠』の中に『転移陣』という罠があった。

 文字通り踏むと指定した場所に飛ばされる罠だ。

 一つ、1万DP。二つ設置するので合計2万DP。

 ネアが微妙な顔をする。


「マスター……ダンジョン入り口に転移陣を設置するのは得策ではありませんよ」


 彼女曰く――転移陣は指定した場所に人や物、モンスターなどを飛ばす罠だ。

 設置後も細かく設定(男女、子供、年齢、ランダム等)を変更可能で、DPを支払えば特殊条件も追加することができる優良な罠の一つだ。


 ただしいくつか条件がある。


 出入口に設置するとダンジョン機能が低下する。

 モンスターの攻撃、防御能力低下、罠の機能不全、ダンジョンの1日の消費DP増加、宝箱に入る品物やモンスターから取れる素材の極端な劣化など。

 理由はクリアできないダンジョンなど存在する意味がないためだ。


 そのため出入口、ダンジョンコアルームに設置して近付くことが絶対にできなくすると矛盾のためか機能不全をおこす。

 最終的に人が寄りつかなくなり、DPが枯渇し自然消滅する。

 こういうダンジョンを冒険者の間では『ハズレダンジョン』と呼ばれているらしい。


 転移陣の項目にも、ネアと同じ説明文が載せられている。

 当然、陽太も把握した上で提案しているのだ。


「別に全員をはじくわけじゃないから大丈夫。こちらの提示したルールにそぐわない人を弾くためのものだから」

「ああ、なるほど。だったら問題ないですよ」


 他ダンジョンでも稀に使われている手法だ。

 勇者や強者などを弾くこともあれば、女子供のみを弾く場合もある。

 勇者や強者など一定以上のレベルの者を弾くと、当然得られるDPが減る。そのため成長が遅くなるデメリットがあるが、安全を優先するなら悪い選択ではない。


「では他の罠や宝箱はどうします?」

「いらない」

「はへ?」

「だからいらない。これから作るダンジョンに宝箱も罠も必要ないし」

「ほ、本気で言っているんですか?」


 オレの返答にサポーターとしての体面が完全に崩壊する。

 ドン引きした表情で繰り返し問う。

 にもかかわらずオレは気にせず笑顔を作る。顔パーツなどないが。オレ的には作っているつもりだ。


「もちのろん。だって実際、宝箱や罠、モンスターとか効率が悪すぎるだろう。高いDP使って、宝箱に入れて人を呼んでDPを得られても、最終的には宝が奪われる。その宝でダンジョン攻略されるとかどんなMプレイだよ」

「あ、頭痛いです……。マスターはいったい、どんなダンジョンを作るつもりですか!? このままじゃ、1日どころか、1時間かからず陥落されますよ!」

「『夢のダンジョン』――『ドリーム・ダンジョン』を作るつもりだ」

「ど、ドリーム・ダンジョン?」


 ネアは返答されたが意味が分からず首を捻るしかなかった。

 オレは両腕を広げて夢を視るように告げた。


「来てくださった方々に、一時の楽しい夢を視て頂く。オレはそんなダンジョンを作るつもりだ」

「ダンジョンで夢を視る? そういう幻術や催眠系のモンスターは居ますがDPが高いので、最初のうちは効率が悪いですよ?」

「違う違う。そういう意味での『夢を視せる』じゃないんだ。なんて説明すればいいのか……オレが居た国にはこんな言葉があるんだ『人を殺すのに刃物はいらない』ってね」


 ネアは言葉を聞くと、一目で血の気が引き、狂人を見るような瞳を向けてくる。




 後に彼女から聞いた話では、この時、ネアは『「悪魔の魔王」と恐れられる以上の狂った魔王になるかもしれない』と怯えていたらしい。




 兎に角、こうしてオレのダンジョン魔王として第一歩を踏み出した。


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