表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

弾道ミサイルと弾道ミサイル防衛システムの構築 ①

今回は弾道ミサイルの性質や、弾道ミサイルを迎撃するためのシステムの構築やその問題点について。

江畑先生の本からのまとめ。


◆ 弾道ミサイルと弾道ミサイル防衛システムの構築 ①



● 弾道ミサイル防衛の難問


世界初の弾道ミサイルは第二次世界大戦末期にドイツが実用化した「V-2号」(V-2ロケット)で、

「V」とはドイツ語の「Vergeltungswaffe」(報復兵器)の略。

なお、設計者のフォン・ブラウン博士は戦後、渡米して研究を継続し、1958年にアメリカ発の人工衛星の打ち上げを成功させ、NASAでサターンV型ロケットの開発を指揮し、人類はこのロケットを使って月へと到着した。


弾道ミサイル防衛システムの研究は、V-2ロケットの弾道ミサイルが実用化された1950年代から、一緒に開始された。

しかし、超高速で飛来する小さな目標(弾頭)に迎撃システムを命中させるのは、極めて難しいことだった。

弾道ミサイルは、ミサイル自身を高い命中精度で打ち込むことも難しければ、それに命中させる迎撃システムを完成させるのはさらに困難なことだった。


1960年代に米ソで開発された迎撃システム「ABM」は、いずれも迎撃ミサイルに核弾頭、それも強力な核弾頭を使用し、空中で爆発させて、

核爆発で発生する強力なX線で落下してくる核弾頭を作動させないようにするか、自爆させてしまおうとする方式だった。


が、それでは当然その下、すなわち自国の領土にも大きな被害が生じてしまう。


ソ連がモスクワの防衛用として配備したABMシステムでは、自分の迎撃ミサイル一発の核弾頭の爆発で、モスクワ市民の15パーセントが死亡すると推測されていた。


しかしそれでは何のための迎撃システムだかわからないと、アメリカではソ連と同様な核弾頭付きABMシステムの運用を止めてしまった。


核弾頭を使わずに弾道ミサイルを迎撃できるようにならないよ意味がないが、それが実現可能になる見込みが得られたのは、やっと1970年代になってからだった。

高速計算や高性能センサーの開発が可能になり、アメリカでは、この技術を生かして核を使わない弾道ミサイル迎撃システムを開発しようとする「SDI(戦略防衛構想)」の研究が、ソ連との軍備競争を通して進められていった。




● 「核弾頭の無力化」という新たな弾道ミサイル防衛の難問の発生


ソ連が崩壊した年、1991年(平成3)の1月に起こった「湾岸戦争」は、弾道ミサイル防衛に新たな難問を突きつける結果となった。


湾岸戦争でイラクは、「アル・フセイン」という「スカッドB」の射程を延長した弾道ミサイル(北朝鮮のスカッドCに相当する)をイスラエルやサウジアラビアに向けて発射した。

「スカッドB」とは旧ソ連の短距離弾道ミサイルで、射程距離3000キロの兵器。



・ 「パトリオットPAC-2」迎撃ミサイルの開発


イラクが発射してきた「アル・フセイン」に対し、米国では、ちょうどその直前に実用段階に入っていた「パトリオットPAC-2」という迎撃ミサイルをサウジアラビアやイスラエルに配備して、アル・フセインの迎撃に当たらせた。

「パトリオットPAC-2」とは、航空機迎撃用として開発されたパトリオット地対空ミサイルのレーダーと迎撃ミサイルに改良を加え、中・短射程弾道ミサイルの迎撃能力を持たせた型の兵器。



・ 「パトリオットミサイル」の迎撃スタイル


パトリオットミサイル発射システムはトレーラー移動式のシステムとなっていて、1つの射撃単位はパトリオット発射中隊によって運用される射撃管制車輌、レーダー車輌、アンテナ車輌、情報調整車輌、無線中継車輌、複数のミサイル発射機トレーラー、電源車輌、再装填装置付運搬車輌、整備車輌といった10台以上の車両により構成される。これらの車両が自走して野外に発射サイトを設営後、射撃体勢が整うというシステム。


アメリカがイラクの「アル・フセイン」迎撃のために開発した「PAC-2型」は確かに実験では、弾道ミサイルを模した標的に「命中」し、「撃墜」に成功した。

また、実戦においても、落下してくるアル・フセインの近くに到達して、その弾頭を炸裂させて、アル・フセインを「撃ち落とした」。

その点では迎撃に成功したのだが、ただPAC-2の迎撃を受けてコースを変えて墜落したアル・フセインの弾頭はまだ「生きていて」、地上に落下して爆発した。


湾岸戦争でイラクが発射したアル・フセインは、幸いにも弾頭が通常型(火薬)であって、たかだか1000ポンド(450キロ)爆弾程度の破壊力しかなかったため、弾頭が爆発してもほとんど実害は生じなかった。

しかし、もしその弾頭が大量破壊兵器(核・生物・破壊兵器)型であったなら、コースがそれて砂漠に落下したところで、何らかの被害は免れないところだった。


さらにそれがもし核弾頭なら、イスラエルのテルアビブに向けて発射された弾道ミサイルがパトリオットPAC-2に撃墜され、テルアビブ郊外の砂漠地帯に落下した場合、それがテルアビブから10キロ以上離れていても、核弾頭が爆発するなら、テルアビブに大きな被害が及ぶのは避けられなかった。

パトリオットPAC-2の有効迎撃半径は20km程度しかない。

また、生物・化学兵器弾頭であったら、風に乗って村や街にまで流れて、住民に被害をもたらす。




● 撃ち込まれた弾道ミサイルの弾頭に直接迎撃ミサイルの弾頭部を命中させる「KEK」型迎撃方式の採用


ここから、弾道ミサイル防衛にあたっては、その弾頭を「無力化」せねばならないという現実が認識されるようになった。

無力化とは、核弾頭なら爆発しないようにすること。

生物・化学兵器弾頭なら、高高度で飛散させて、地上に落ちてくる頃には、ほとんど無害など薄まっているか生物兵器が死滅しているようにさせること。


そしてこの「無力化」の手段として米国が選んだのが、弾道ミサイルの弾頭に直接迎撃ミサイルの「弾頭部」を命中させる方式だった。

超高速で落下してくる弾頭に、高速で上昇接近する迎撃ミサイルの弾頭部を直接命中させると、落下速度が(ICBMやSLBMに比べて)遅い中・短距離弾道ミサイルの場合でも、その相対速度はマッハ10以上にもなり、毎秒3000メートルを越える速度で衝突する場合の運動エネルギーは相当なものになる。

このため迎撃ミサイルの弾頭部には、火薬のような破壊のための物質・機構を内蔵する必要がなく、誘導装置そのものである弾頭部が直接弾道ミサイルの弾頭部に命中するだけで、その弾頭を無力化できる。

弾頭を運動エネルギーで無力化する方法から「運動エネルギー破壊型」(カイネティック・エナージー・キル:KEK)と呼ばれる。




● 米国の「弾道ミサイル防衛」(BMD)システムの開発



・ 「KEK」型迎撃方式を採用した米陸軍のパトリオット「PAC-3」迎撃ミサイル


撃ち込まれた弾道ミサイルの弾頭に直接迎撃ミサイルの弾頭部を命中させるという「KEK」型迎撃方式は、その後の米国の「弾道ミサイル防衛(英語: Ballistic Missile Defense, BMD)」システムの基本となり、

パトリオットにはこの方式の新型迎撃ミサイルが開発されて「PAC-3」と呼ばれるようになった。


2001年秋から米陸軍実戦部隊への配備が開始され、2003年3月~4月の「イラク戦争」第一段階では、イラク軍が発射した射程120キロの弾道ミサイル3発の迎撃に成功した。



・ 「イージス・システム」搭載艦から発射する米海軍の「スタンダードSM-3」艦対空ミサイル


また、米海軍のほうは、「イージス・システム」搭載艦(巡洋艦と駆逐艦)から発射する「スタンダード艦対空ミサイル」を発展させ、

ロケット・モーターを強化し、弾頭に従来の通常型に替えてKEK型を搭載する「スタンダードSM-3」型を開発した。


「スタンダードSM-3」は、弾道ミサイルを模した標的に対する迎撃実験で、2007年中期までに10回実施して8回成功という成績をあげた。


この「KEK型弾頭」は、米本土防衛用の「地上配備中間段階迎撃型(GMD)ミサイル」や、スタンダードSM-3の陸上配備版とも呼べる米陸軍の「中・短距離弾道ミサイル迎撃システム「THAAD(終端高高度防空の略)」の迎撃ミサイルにも使用されている。



・ 「THAADミサイル」の迎撃スタイル


「THAADミサイル」の地上迎撃システムは、「パトリオットミサイル」の迎撃システムと一緒で、自走またはトレーラーによる移動式で、10連装ミサイル発射機、Xバンドのフェーズドアレイレーダー(AN/TPY-2)、C4Iシステムから構成される。Xバンドレーダーは1,000km以上の探知距離を持ち、飛来する弾道ミサイルの追跡・迎撃ミサイルの中間誘導も合わせて行う。




● 「複数弾頭」(MRV型弾頭)撃墜の難しさ


迎撃ミサイルは、弾道ミサイルに対する100パーセントの迎撃保障は不可能。

システムの故障、不具合の発生だけでなく、目標の変化によっても迎撃が失敗する可能性がある。


もし、迎撃システムの対処能力を超える数の弾道ミサイルによる攻撃を受けた場合、攻撃側は多数の弾道ミサイルを発射しなくても、一発の弾道ミサイルに複数の弾頭を搭載する方式(これを「MRV型弾頭」という)でも、迎撃側を容易に飽和させることができる。


複数の弾頭でなくても、同時にオトリを放出する方法でもいい。

しかもそのオトリは風船のようなもので十分で、宇宙空間では重い実弾頭と同じ速度で飛翔する。




● 「複数弾頭」(MRV型弾頭)の撃墜方法


このような複数弾頭やオトリ放出方式を実現するには、弾道ミサイルに搭載した弾頭を、ロケット・モーターの燃焼が終了した後で、ミサイル本体から切り離して目標に向けて放出する技術が必要となるが、北朝鮮は「テポドン1」による人工衛星打ち上げの試みで、一応、弾頭切り離し技術は有していると推測される。


湾岸戦争で米陸軍が用意した「パトリオットPAC-2」が、イラク側のスカッドミサイル「アル・フセイン」を上手く撃墜できなかったケースも、それは、弾頭と弾体の分離に原因があった。

アル・フセインは弾頭・ミサイル本体の一体型だったが、アル・フセインが目標に向けて大気圏内に再突入し、落下して来るときに空気抵抗を受けて分解し、弾頭を含む先端部と本体がバラバラになって落下した。

このため、迎撃側はどれが本当の弾頭か分からず、ロケット・モーターの燃焼が終わった燃え殻に過ぎないミサイル本体に向けてパトリオットを発射する例もあった。


アメリカでは後に、レーダーのソフトウェアに緊急改修を行って、弾頭と本体との識別能力を高めるようにしたが、双方がほぼ同じ大きさだと識別が難しい。

オトリは風船型が多いため、大気圏再突入段階になると空気との摩擦で燃えてしまうか、宇宙空間に弾き飛ばされるかするが、

しかし、その段階ではもう実弾頭は目標の目の前に迫っている状態なので、迎撃側には時間的余裕が極めて少なくなる。


弾頭とミサイル本体の識別を行うのは「Ⅹバンド・レーダー」だが、Ⅹバンド・レーダーは宇宙空間で目標を「形として」捉えて識別しようとするもので、

風船型のオトリでも、形を実弾頭に似せて表面のレーダー反射特性を実弾頭に近いものにすれば、このレーダーによる識別も難しくなってくる。


現状、弾道ミサイルの迎撃は、実用化に関する技術的な問題や、高額の経費負担を要する問題などから、

2007年の時点では、攻撃側(弾道ミサイル)のほうが有利な状況となっている。












パトリオットとTHAADの説明部分はウィキペディアから引用させてもらっています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=639153509&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ