北朝鮮の弾道ミサイル開発
江畑謙介『日本の防衛戦略』(2007年)『日本に足りない軍事力』(2008年)等より、北朝鮮の弾道ミサイル開発についてのまとめ。
データや用語の説明にはウィキペディアやコトバンクなどのサイトを参照したり引用したりして補ってあります。
◆ 北朝鮮の弾道ミサイル開発
● 北朝鮮の核戦略
北朝鮮は先ず、韓国と日本の在日米軍基地の攻撃が可能な射程の弾道ミサイル「ノドン」(有効射程:1300km)を開発し、
次いでグァム島の米軍基地と、朝鮮半島有事において韓国への米軍増派に真っ先に投入されると考えられる米軍部隊が配備されているアラスカを攻撃対象とする「テポドン2」(有効射程:6000km)を開発。
さらにアメリカ「太平洋軍」および「太平洋艦隊」の司令部が置かれているハワイ州のオアフ島まで攻撃可能な弾道ミサイル(有効射程:8000~8500km)を開発し、
そして、2017年(平成29年)9月28日に、北朝鮮が発射実験を行った大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の有効射程は、ついにアメリカ本土西側を攻撃可能な1万キロに達すると推測されている。
ここからさらに射程を延ばせばアメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.のある米本土東岸をも核ミサイル攻撃できるようになる。
※ 北朝鮮の主な弾道ミサイル
「火星」シリーズ、「銀河」シリーズ、「北極星」シリーズとあって、ノドンやムスダン、テポドンといった名前はアメリカ側から付けられた呼び名。
・「火星6号」(スカッドC)- 短距離弾道ミサイル(1段式の常温保存液体燃料ロケットで全長11.25m、直径0.88m、重量6.4t、有効搭載重量/ペイロード/炸薬量0.6t。射程600km、飛行時間約5分~10分、慣性誘導式で命中精度CEP900m。600発程度保有)
・「火星7号」(ノドン)- 準中距離弾道ミサイル(1段式液体燃料ミサイルで全長16m、直径最大1.35m、重量16t、有効搭載重量/ペイロード/炸薬量約0.8t〜1.2t。射程約1,300km。慣性誘導式でCEP190m〜2,000m。300発程度保有。
1993年5月の発射実験で日本海に落下。)
・「火星10号」(ムスダン)- 中距離弾道ミサイル(1段式液体燃料ロケットで全長12.5m、直径1.5m、重量12t、有効搭載重量/ペイロード/炸薬量約650~1,200kg。射程約4,000km、飛行時間約10分~20分、慣性誘導式で命中精度CEP1,300m。
2016年に複数回の発射実験を行い、6月の実験では1発が日本海に落下。)
・「火星12号」(KN-17)- 中距離弾道ミサイル(1段式液体燃料ミサイルで全長16m、重量28t、有効搭載重量/ペイロード/炸薬量500~650kg。射程5,000km~13,000km、最大高度2,111.5 km(ロフテッド軌道)、787km(通常の軌道)、飛行時間約40分間。
2017年5月14日の最初の発射実験で平安北道亀城 から、高度2111km、水平距離787kmを飛行して日本海に着水。
2017年8月29日の二度目の発射実験では、首都平壌市郊外の順安にある平壌国際空港から東北東に向けて発射し、ミサイルは高度550km、水平距離2,700kmを弾道飛行して北海道襟裳岬上空を通過して、襟裳岬の東約1,180km付近の太平洋上に着水した。
2017年9月15日には3回目の発射実験を行い、平壌市郊外の順安から、ミサイルは高度800km、水平距離3,700kmを弾道飛行して再び日本列島上空を飛び越え襟裳岬の東2,200kmの太平洋上に着水した。 )
・「火星14号」(KN-20)- 大陸間弾道ミサイル(2段式液体燃料ミサイルで全長19.5m、直径1.7m。射程距離9,000km~10,000km、最大高度3,720km、飛行時間約45分間。炸薬量不明。
2017年7月4日の最初の発射実験で、平安北道の亀城付近から発射し、ミサイルは40分間飛行した後に日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
北朝鮮は、ミサイルが意図的に高い軌道をとり敵に撃墜されにくい「ロフテッド軌道」で打ち上げられ、高度2,802km、水平距離933kmを39分間飛行して実験が成功したことと、同国が世界中のあらゆる場所を打撃できる大陸間弾道ミサイルと核兵器を保有したこと、そして堂々たる核強国としてアメリカ合衆国の核の威嚇を終息させるといったことを発表し、アメリカも米政府として「火星14」がICBMだったことを認めた。
2017年7月28日には、2回目の発射実験が行われ、慈江道舞坪里から、弾頭が日本海の日本の排他的経済水域内に落下した。
射程距離は9,000kmから10,000kmでアメリカ西部のロサンゼルスやデンバー、中西部のシカゴを射程範囲に収め、命中精度を表すCEPは約10km程度と見られている。)
・「火星15号」(KN-22)- 大陸間離弾道ミサイル(液体燃料ミサイルで重量40~50t、全長22.5m、直径2.4m、最大高度4,475~4,500km、飛行時間約53分間。炸薬量不明。
2017年11月29日に発射実験が行われ、平安南道の平城付近から、高度4,475km、水平距離950kmを飛行して日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)内に着水した。
ミサイルは通常の軌道より高い軌道をとるロフテッド軌道で飛行し、北朝鮮の弾道ミサイルとしては最高となる高度約4,500kmに到達したが、仮に通常軌道で発射された場合の射程は13,000kmで、北朝鮮のミサイルのうち初めてアメリカ合衆国東海岸を含む米国全土を射程に収めた弾道ミサイルであるとされ、
この発射後に北朝鮮は、火星15は超大型の核弾頭の搭載が可能であり「国家核戦力の完成」を宣言することとなった。)
・「白頭山1号/銀河1号」(テポドン1号)- 中距離弾道ミサイル(3段式液体燃料ロケットで全長27m、直径最大1.32m、重量21.7t、有効搭載重量/ペイロード/炸薬量約1.0t。射程約1,500km、飛行時間約10分~20分、慣性誘導式で命中精度CEP3,000m。
1998年8月31日の発射実験で日本上空を飛び越えて太平洋上に落下。「テポドン・ショック」)
・「白頭山2号/銀河2号」(テポドン2号)- 大陸間弾道ミサイル(2~3段式液体燃料ロケットで全長32.0m、直径最大2.4m、重量64,3kg、有効搭載重量/ペイロード/炸薬量約1.0t。射程約6,000km、飛行時間約20分~30分、慣性誘導式で命中精度CEP 3,000m。
2006年7月5日の発射実験で北朝鮮から発射されて日本海に着弾した7発の弾道ミサイルのうち3発目がテポドン2だったとみられている。)
・「銀河2号」(テポドン2号改)- 宇宙ロケット(北朝鮮が人工衛星「光明星2号」打ち上げのためと称してテポドン2に改良を加えて開発したロケット。3段式液体燃料ロケットで全長約30m。
2005年6月17日に、金正日総書記が「我が共和国(北朝鮮)は核兵器を持つべき理由がない」と初めて非核化の意思表明を行って以降、2009年4月5日に、北朝鮮側から事前に「人工衛星の『光明星2号』を衛星打ち上げロケット『銀河2号』を用いて打ち上げる」と発表され行われたロケット発射実験で、銀河2号は日本海で第一段目を切り離し、さらに太平洋上で第二段目の切り離しにも成功したが、第三段目で不具合が発生し衛星の軌道投入には失敗したと見られている。)
・「銀河3号」(テポドン2号改)- 宇宙ロケット(北朝鮮が人工衛星「光明星3号」打ち上げのためと称してテポドン2に改良を加えて開発したロケット。3段式液体燃料ロケットで全長約30m、直径2.4m、重量92t。
2012年4月13日、北朝鮮は「人工衛星打ち上げ」を名目に人工衛星である「光明星3号1号機」を搭載して発射実験を行ったが、打ち上げから1分20~30秒後、空中で爆発し、実験は失敗に終わった。日本では、このロケットが沖縄県先島諸島上空を通過するとみられたため、弾道ミサイルとしての対処方針を決定し、撃墜体制を準備して対応した。
2012年12月12日、北朝鮮は再び「銀河3号」を使って、今度は「光明星3号2号機」を搭載して人工衛星発射実験を行い、成功を収め、北朝鮮は世界で10番目の衛星打ち上げ成功国となった。)
・「北極星1号」(KN-11)- 潜水艦発射弾道ミサイル(北朝鮮初のSLBMで、2段式固体燃料ミサイル。
2015年5月に最初の発射実験が行われた後、2016年8月24日に7回目の発射実験が行われ、ミサイルは咸鏡南道の新浦沖から東北方向に約500km飛行して日本の防空識別圏内の海上へと落下した。当初、北極星1号の最大飛行距離は30km程度でしかなかったが飛距離を大きく向上させる結果となった。
北極星1号は潜水艦で水中から発射することができ、「コールド・ローチン方式」という筒の中から飛ばす方式によって赤外線の発生が少なく敵に発見されにくい。)
・「北極星2号」(KN-15)- 潜水艦発射弾道ミサイル(北朝鮮のSLBMで、2段式固体燃料ミサイル。
2017年5月21日の発射実験で、平安南道北倉から、高度500km、距離560kmを飛行して日本海へ落下。射程距離は2,000 km以上に及び、北朝鮮近海からでも日本全土を射程範囲に捉えるまでになった。)