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【完結】陰陽師は神様のお気に入り  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第3章 陰陽師、囚われる

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30.***役目***

 陰陽寮の面々が戻った。都の貴族達は”元通り”だと喜んだが、出仕した彼らにそんなつもりはない。都の鎮守に関する役目以外を一切放棄し、出仕した部屋で研究に明け暮れていた。


 先に戻った彼らは己の役目を良く心得ている。ここで過去のように貴族達の言いなりとなれば、後から戻る真桜や北斗を含む同僚を同じ状態に戻してしまう。それは彼らの望む道筋ではなかった。


「なぜ仕事をせぬ」


「仕事ならしておりましょう。我らの仕事は天地の機微を読み解き、都の鎮守を司ること。あなた方の雑用をこなすのは、仕事ではございませぬ」


 占いや物忌みの選定は、陰陽師達の収入の一助(いちじょ)だ。多少の小遣い稼ぎになっていたのも現実だが、今回の騒動で陰陽師の考えは切り替わっていた。


 気に入らぬ者を(ののし)(おとしい)冤罪(えんざい)()めようとする公家に従っても、自分達は天秤の上で揺れる(おもり)程度の価値もない。寝る時間を惜しんで用意した札を無造作に扱い、普段は「陰陽師は鬼妖と同じ」と公言して憚らない連中だ。


 それでいて、ひとたび騒動が起きれば泣いて縋る。金をちらつかせれば言うことを聞く野良犬として扱われることの不条理さを、ようやっと身に沁みて理解した。


「何を言うか! 物忌みも占術もそなたらの役目であろう!」


「出仕した我らは主上の(しもべ)であり、あなた方の奴隷ではない。ましてや陰陽師の力と地位を認めぬ方々へ、我らが従う謂れはありません」


 吉野の里に引き篭もるまで、彼らにこういった考えはなかった。公家という貴族階級には頭を垂れて従うもので、逆らってはならないと思って生きてきた。しかし真桜は本堂で淡々と陰陽師の役目と、その能力の高さに対する誇りを説いたのだ。


 新しい術の習得も、霊力を高める修行も、時間がなければ疎かになる。いざというときに現人神(あらひとがみ)であらせられる主上を御守りする力が足りぬとなれば……どれほど悔いても足りないだろう。端金(はしたがね)で、公家に利用される時間などない。


「お引取りください」


 丁重に、だが付け入る隙を残さず断る。専門職である陰陽師が、公家に頭を下げる所以はない。だから毅然と座ったまま、言葉のみで切り捨てた。


 呆然とする貴族を残して背を向けた陰陽師の口元は、満足げに弧を描いていた。





「なるほどな」


 戻ってきた途端に公家連中に泣きつかれた真桜や北斗は、先に戻った陰陽師から話を聞いていた。経緯を理解した同僚から拍手喝采なのだが、近いうちに帝から呼び出しがあるだろう。


「あいつらは恥知らずだから、主上に泣きつくだろうが……まあ、オレも譲らないから安心しろ」


 くすくす笑いながら告げる真桜に、陰陽寮の若い見習いが口を開く。


「あの……真桜殿に雨乞いの手ほどきをいただきたく」


「それなら、おれも!」


「星読みの技術ならぜひ」


 いままで遠巻きにするだけだった同僚の前向きな発言に、真桜は驚いて目を瞠る。向上心を忘れ雑事をこなしていた彼らの変化を知り、頬が緩んだ。


「順番にやるか。今日は雨乞い、明日は星読み……ほかに知りたいことがあれば教えてやるぞ」


 真桜の大盤振る舞いな発言に、陰陽師達は沸き立った。

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