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【完結】陰陽師は神様のお気に入り  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第3章 陰陽師、囚われる

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27.***鎮守***

「いつまで吉野に篭もるんだ?」


 釣り糸を垂れる真桜は、北斗の声に後ろを振り返った。華炎と華守流の表情は未だに硬いが、隣に座って興味深そうに浮きを見るアカリは気にしていない様子。許したのとは違うが、基本的に神族は過ぎたことに固執(こしゅう)して怨恨(えんこん)を残すような真似はしないのだ。


 もし神々がひとつの出来事に固執するようなら、こんなに世は平和でなかっただろう。


「そろそろかな。何かしら手に負えない事件でも起きて、騒ぎ出すんじゃないか?」


 くすくす笑いながら、真桜は意味深な物言いをする。言霊を操る陰陽師であるからこそ、実際に起きる未来の出来事を知っていて黙っているのだ。そこまで分かれば、北斗は無理やり聞き出す必要がない。少し離れた場所に座った。


 浮きがぴくりと揺れる。


「真桜っ!」


「まだまだ。ちゃんと食いついてからじゃないと、逃げちゃうぞ」


 嬉しそうに浮きを見つめるアカリと、淡々と釣りの話を始める真桜。間違っていないはずなのに、どうしてか違和感が拭えない。まるで、これから起きる『未来の事象』について話しているような……。


「よしっ!」


 一気に真桜が釣竿を起こして、魚を釣り上げる。竿のしなりから想像するより大きな獲物に、アカリは手を叩いて喜ぶ。無邪気な風景のはず……なぜ冷や汗が出るのか。


 額に滲んだ嫌な汗を拭う北斗の耳に、駆けてくる足音が聞こえた。同時に、華守流が「予定通りだ」と呟く。


「最上殿! 大変です。都で……」


「妖と鬼が溢れて、百鬼夜行が始まったんだろ」


 予言のように真桜は笑って、物騒な言葉を吐いた。手にした魚を針から外してやり、アカリがもつ籠に入れる。それから残念そうな顔をした。


「あと数匹釣りたかったのにな」


「……お前、知っていたのか!?」


 北斗の驚いた様子に、真桜は首をかしげて目を瞬いた。


「あれ、知らなかったっけ? オレの住居が都の中央に近い場所にある理由。単に今上帝のお気に入りだからじゃないぞ」


 北斗の脳裏に地図が浮かぶ。都は碁盤の目を地上へ描いたように、きっちりと方角を出した造りになっている。東西南北に門を配置し、守護の寺や神社が鬼門や裏鬼門を抑えていた。そして、鬼門と裏鬼門の真ん中に、真桜の屋敷がある。


「都に鎮守社(ちんじゅしゃ)となる鎮めの社がないなど、奇妙であろう? 真桜の屋敷が鎮守社であり、国津神の真桜こそが鎮守神(ちんじゅがみ)だ。貴族達の怨みつらみが淀んだ都で、鎮守社が空になれば……百鬼夜行の妖にとって、さぞや居心地のいい場所であろうな」


 当然のようにとんでもない事実を暴露したアカリは、神に相応しい冷酷で美しい微笑を浮かべた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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