11.***悪情***
武器を構えた姿は、明らかにこちらを敵対視している。誰の命令だか知らないが、都一の陰陽師に手を出せば陰陽寮が敵に回ると理解できないのか。
「最上殿、大人しく付いてきていただこう」
「構わないが、門の外から騒がれてもなぁ」
彼らが除外対象だと知りながら、わざと水を向ける。むっとした顔の若い男が剣先を向けながら喚いた。
「このような魑魅魍魎の館に踏み入る必要は無い!」
「ふむ……なるほど。勇気が無いか」
揶揄う真桜の態度は、明らかに苛立っていた。この地震の原因を探る陰陽師の動きを封じたい、誰かの思惑が透ける。踊らされる検非違使の単純さに舌打ちしたい気分だった。
「愚弄するか!!」
「入れないんだろ? 邪や妖を防ぐ結界だからな」
言外に邪な妖風情と同じ、そう言われて激昂しない彼らではない。見た目は開いている門の前で必死に足掻く。しかし只人が入れるほど甘い結界ではない。ましてや術師である真桜本人が目の前に立つことで、結界の強度は上がっていた。
「卑怯者がっ!」
「国を滅ぼす気か!」
「赤毛の鬼め」
同じ言葉を何度も聞いた。幼い頃に母と訪れた都は、真桜の目に美しく映っていたのだ。人々の醜さと相反する整然とした都の景色――思い出した過去に苦笑した。
あの頃、まだ傷つく心は柔らかかった。成長するにつれ心を閉ざして、不要な言葉を聞き逃す術を身につけた。それでも……幼い頃に受けた傷は未だにじくじくと疼いている。
『真桜様、彼らに従うのですか?』
「その予定だったが……どうしようか」
出頭して閉じ込められたとしても問題はない。情報は華守流が集めるし、華炎が実際に動いてくれる。藤姫にアカリを頼んだから、早く地震の原因を突き止めて解決すれば終わりだった。
彼らは真桜を閉じ込めた後で、呪力を封じる札を貼るだろう。だが真桜を封じようとするなら、北斗以上の術師が必要だ。彼なら命令に従うフリをして、書き損じをする。だからまったく心配は無かった。
それでも……帝の覚えめでたい陰陽師という肩書きが邪魔をする。
意外と政権争いなのではないか? 山吹は瑠璃姫を溺愛しており、他の姫に通っていなかった。他家の貴族にしてみれば、自慢の娘を献上したのにお手つきにならないなど、我慢ならない事態だ。
政敵が山吹の権力を貶めようとして起こした呪詛が原因だとしたら……。
「ためしに捕まってみるか」
肩を竦めた真桜は無造作に、隣の黒葉の髪を撫でる。笑みを浮かべて、門の外で苛立つ検非違の前へ足を向けた。




