36.***反魂***
「それで、オレの身体で問題ごとを解決したってのは何?」
ようやく本筋に戻った真桜の声に、アカリは意味深な笑みを作った。口角を上げて笑みを作り出した美人へ、真桜が淡々と詰め寄る。
「何、したの?」
「相談事の解決だ」
「へえ、どんな?」
アカリはひとつ大きく息を吐いた。顔を上げて真桜の瞳を覗き込み、淡々と相談事を並べていく。
「まず山吹の相談は藤之宮の屋敷の清めだ。次は婿が消えたことも忘れた大臣から娘の縁談に関する呪いの相談、さらに北斗から式紙の依頼、貴族たち数名から魔除けと物忌みの祓い、具合が悪くなった姫に対する札作りと……」
「まだあるのか?」
引きつった真桜へ、満面の笑みでアカリが文を取り出した。季節の花が添えてあったり、薫り高い香が焚き込められた文は、どう考えても事務的な文面とは考えにくい。嫌々ながら手にとって開くと、案の定、達筆な恋文が色とりどりの言葉で飾られていた。
次の文も、次の文も同じ。
「人たらしが」
ぽつりと詰られ、なんだか申し訳なくなる。
「ごめん」
謝って、文を畳んで文箱に放り込んだ。上からしっかり紐を結び、指先で呪を切って封印してしまう。赤茶の髪や青紫の瞳から「鬼よ、妖よ」と嫌われてきた真桜だから、こんな恋文をもらっても恐怖しか感じない。なんらかの呪詛がかけられている気がして、そっと箱を遠ざけた。
「女難だと言ったであろう」
叱りつける響きに「面目ない」とさらに謝罪する。真桜の殊勝な態度に満足したのか、アカリが表情を和らげた。女難の相はかなり薄れている。
そもそもがアカリが真桜の顔で無駄に愛想を振りまいた結果なのだが、そこは真桜が気付いていないので無視した。人たらしで妖や神まで誑かす真桜は、言われて反省しても同じことを繰り返すだろう。理解しているアカリも本気で怒っているわけではない。
「藤姫も、ごめん」
もっと早く気付いてたら助けられたんだけど……そう告げる真桜の前で、藤之宮家の姫はゆったりと一礼した。
『いえ、愛しい方の不実を認めずに狂うたのは私の不徳です。あの方は私より権力のある姫を選び、私を捨てた。そう認めていれば、世を呪うこともなかったでしょう。巻き込んでしまった方々にお詫びのしようもありません』
「それも解決しておいた」
藤姫の詫びに、アカリの声が被さる。華守流と華炎が顔を見合わせている様子から、どうやら彼らは知らされていなかったのだ。瞬いた真桜が尋ねるより早く、黒葉が目の前に舞い降りた。
『頼まれた方々は反し終わりました、アカリ様』
「手間をかけたな、黒葉」
そのやり取りで、状況はつかめた。藤姫の呪詛によって生気を奪われた公達は儚くなったが、その魂を選別して戻したというのだ。陰陽術で言う反魂術だろう。藤姫を闇の神族の眷属に迎えるなら、彼女の罪を購う必要があった。
父王への報告がてら、黒葉はその手配に動いていたらしい。知らない間にすべて片付いていた。
「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
片付いた呪詛騒動に安心する反面、真桜は浮かんだ疑問を口にする。アカリと黒葉は光と闇、特にアカリは彼を毛嫌いしていた筈だ。首を傾げる主人をよそに、眷属である2人は意味ありげに笑んだ。
――終――
一度これで終了です。伏線を残していますが、これは次回へ続く切欠になります。来年から第3章をスタートしますので、お待ちください(o´-ω-)o)ペコッ




