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【完結】陰陽師は神様のお気に入り  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第2章 陰陽師、狂女に翻弄される

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10.***呪返***

 鳩は導かれるように、大きな屋敷の屋根に吸い込まれて消える。呪詛を行う姫君と聞いて、真桜が勝手に想像したのは、打ち捨てられた(さび)れた屋敷だった。だが、実際に呪詛が返った先は栄えている一族の大きな屋敷だ。


「やべっ」


 見覚えがある紋に真桜の顔が引きつる。


『いかがした?』


 半透明のアカリが首を傾げた。彼は興味のないことを覚えないから、まったく気付いていないだろう。依頼の文を受け取った真桜は、この屋敷の紋をよく覚えていた。


 橘の花をあしらった、この国では有名な紋だ。


「……北斗と話した『探し物』の依頼者の屋敷だ」


 浮気した婿殿の恋文の回収を依頼した北の方(妻)とその父君の館だ。嫉妬に駆られての凶行なのか。女難の相だというなら、妖の正体は女性である北の方で間違いないだろう。


 なぜ相手の姫君ではなく、通いの公達へ向かったのか。おそらく恋文が回収出来なかったため、浮気相手の姫君が特定できなかった。だが婿殿を離縁する気はなさそうで、どうやら北の方は婿殿を愛しているらしい。


 浮気に通う公達を襲ったのは、相手の姫がわからぬため。その片棒を担いだ真桜としては頭の痛い事例だった。もちろん、恋文を渡せば浮気相手は呪い殺されただろうから、教えることは出来ない。


 対応に問題はなかったと思う。


 問題があるとすれば――。


「この一族の権力って、結構大きいんだよなぁ」


 そう、この一言に集約される。すなわち『後始末が大変』なのだ。権力者である父君の人脈や影響力は無視できない。宮廷での人間関係や今後の騒動を考えるなら、内々に片付けるのが正解だった。


 なのに……呪詛返し。


 呪詛を飛ばした方が悪い。呪詛は返されたら倍になって使役者に戻る。


 陰陽師ではなくとも知られている不文律だった。呪詛を返されるのは、力が足りぬから。強者に返された呪詛は元の数倍の威力で術者を食い殺す。呪詛を送らねば、返されることはない。


 そんな一般的な理屈に、あの父君が納得するだろうか。いいや、無理だ。娘に対する溺愛が過ぎるから、婿殿の浮気を突き止めようとしたくらいだ。彼にいくら説明しても、呪詛の原因である娘を庇う筈だった。


 彼が娘を庇うなら、悪者は呪詛返しした陰陽師となる。


「アカリ、返しを消せないか?」


 取り消して見なかったことにしよう! 安易な解決方法で誤魔化そうとした真桜の苦悩を知らず、天照大神に連なる神様は無邪気に笑った。


『もう届いてしまったから無理だ』

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