表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】陰陽師は神様のお気に入り  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第2章 陰陽師、狂女に翻弄される

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/131

07.***四辻***

「襲われた奴が名乗り出ないからなぁ」


 被害者がわからなければ、対策のとり様がない。襲われた事実や詳細も聞けないし、どこでどんな奴が出たのかもわからなかった。


 妖気を辿ろうにも、この都の辻はすべて四辻(よつじ)だ。四辻は世辻(よつじ)に通じ、闇の世界と光ある世界を繋いでしまう。どこの十字路に出てもおかしくないのだ。


 すべての辻に可能性がある以上、闇雲に式紙をバラまくことも考え物だった。ただ、不可能かと問われたなら「可能だ」と返答するのだが。


 多量の霊力を消耗するため、真桜もアカリもその手段を口にしなかった。



「困ったね」


 眉を顰めて扇をぱちんと鳴らす帝に肩を竦め、真桜は三つ編みの穂先を指先で弄る。考えるときの癖を見ながら、アカリが口を開いた。


「噂の主ならば、我が特定してやろう」


「……頼めますか?」


 天照大神の眷属たるアカリに対し、今上帝は丁寧な口調で尋ねた。出来るかと聞いたら、アカリは機嫌を損ねてしまっただろう。地上では最上の地位を持つ帝とは思えない腰の低さに、真桜は肩を竦め、瑠璃の姫はくすくす笑い出した。


「構わない。代わりに真桜を補佐につけろ」


 相変わらずの傲慢な口調は、神族として崇められた時間の長さ故なのか。アカリらしいと思うのは、真桜がそれだけ彼を理解している証拠でもあった。


「ではお願いします」


 決まりと扇を鳴らした山吹へ、真桜は丁寧に一礼した。扇の音に呼ばれた女房達が現れ、衣擦れの音と共に今上帝と妻である瑠璃が退室する。


 物音が消えてから、ようやく真桜は頭を上げた。背中に張り付いていたアカリの気配は消えている。どうやら本体がある北斗の傍に戻ったらしい。


「やれやれ、楽が出来るといいが……」


 苦笑いした真桜は赤茶の三つ編みを背に放り、ゆったりとその場を後にした。






 深夜の朱雀大通を牛車が通りかかる。最近は生気を吸い取る鬼が噂になったこともあり、姫君へ通う公達は朝日が覗くまで牛車を走らせることは減った。


 他の牛車とすれ違うことなく進む車の中で、薄絹を纏った青年がゆらゆら揺れていた。


 牛が歩みを止め、苛立ったように足を踏み鳴らす。前に現れた見えない壁に遮られた道は、四辻のほぼ中央だった。


「いかがした?」


「申し訳ございません。牛が……」


 牛飼童(うしかいわらわ)と呼ばれる少年が慌てて牛を落ち着かせる。脇に控える車副(くるまぞい)が開かれた簾の先、牛車の(とこ)に座る主へ声をかけた。


「見えぬ壁が……っ」


 言葉の途中で、目の前にゆらり黒い影が(こご)る。人形(ひとがた)になった闇が、牛車へ手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ