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【完結】陰陽師は神様のお気に入り  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第2章 陰陽師、狂女に翻弄される

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05.***濃影***

 口調がぞんざいになる。


 高天原(たかあまはら)の最高神であり、太陽を司る女神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)の眷属だったアカリが地上に降りたことで、彼女も暇を見つけては顔を見せるようになっていた。


 彼女ほど上位の神が地上に降りるなど稀で、おかげでこの国は豊穣と繁栄が約束されたも同然だ。拒む理由はないのだが……彼女があまりに頻繁に顔を見せるため、多少の問題も起きていた。


 ――光が強くなれば、影も濃くなる。


 天にあって光を放つ存在が地上に降りれば、当然影の位置がずれる。天と地底が乱れたため、最近はあまり光臨していなかった……筈なのに、どうして瑠璃の姫と話をしているのか。


「え、また降りちゃった?」


「いいえ、あの御方は思慮深いのよ。あなたとは違うわ」


 闇の神族、それも王族に連なる真桜への嫌味が滲む。一瞬目を見開くが、すぐに真桜は口元に笑みを浮かべた。ちゃんと本人へ嫌味を口に出来るくらい、今の彼女は幸せなのだ。満たされているからこそ、嫌味も正直に口に出来た。


 よい傾向だと判断した真桜へ、黙って見ていた山吹が声をかける。


「アカリ殿もだいぶ馴染んだし、陰陽寮も華やかになっただろう」


 華やかと表現するのとはちょっと違う。どこぞの姫君方からアカリ宛に届く文の山、最近は真桜にも届くのでアカリの悋気――と言うと怒られるので焼きもち――が激しくて大変だった。


「うーん、華やかっつうか……」


「騒がしくなった、が正しい?」


「そっちのが近い」


 頷いた真桜は、首筋に感じた冷たい指先に気付いて振り返った。


 主上がおられる御簾の前――当然厳重な警備の奥だ。そこにふらりと現れたアカリが唇を尖らせて背中から抱きつく。


「アカリ? 何かあったのか?」


 咎めるより先に心配して顔を覗き込めば、蒼い瞳が瞬いた。ふわりと笑みを浮かべる護り人に見惚れる真桜へ、瑠璃の姫が呟く。


「溺愛、ですわね」


「こういうのは言わないであげるのが、優しさだよ」


 今上帝とその奥方の会話に頬が赤くなる。


「ところで、アカリ殿は透けているけれど?」


 山吹の問いかけに、真桜も視線を彼の足元へ向けた。人外であり神族でもあるアカリの足元は……当然ながら透けている。正確には全身が透けているのだが、幽霊より密度は濃い。


「どうしたの?」


 やっぱり問題が起きたのか。


 眉を顰めた真桜へ、機嫌が良くなったアカリが微笑みかけた。


「お前が帰ってこないので霊体を飛ばした」


 その爆弾発言に、人間3人は揃って絶句するしかなかった。

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