03.***詐欺***
「結局、文は見つかったのか?」
お前、個別に依頼を受けていただろう。
都一番の陰陽師である真桜へは、陰陽寮とは別口で同様の依頼があった。それを知る北斗の呟きに、真桜はにやりと笑って扇で口元を隠す。
「ああ、見つけたぞ。奥方様の父君の思惑とは違うが」
見つけた文は、恋文ではなかった。『婿殿が失くした文を見つけてくれ』と頼まれた真桜は、その言葉通りの仕事をしたのだ。
陰陽師の仕事は、権力に左右されない。正確には『左右してはならない』という不文律が存在していた。そして、それ故に仕事は先着順で処理される。
最初に真桜が受けた依頼は、婿殿の『恋文を見つけられては困る』という懇願から始まった。離縁されでもしたら仕事上も立場上も困るという。その数刻後に、奥方の父君より『婿殿が失くした文を見つけてほしい』と頼まれた。
順番から言えば父君より婿殿が先だ。権力関係を考えるなら、父君に恩を売った方が賢い。悩むまでもなく、真桜は両方を叶える方法を選んだ。
すなわち――『婿殿が故意に失くした恋文以外の文を探し出す』という、詐欺まがいの手法。『いつ』失くした文を探せと依頼しなかった父君側の不手際をついた形だった。
婿殿に新たな文を書いてもらう。当たり障りのない季節の挨拶程度の文面を書いた紙を、故意に失くすのだ。それを見つけ出して奥方様と父君へ差し出した。
他の姫君への恋文は式紙に探させて、他者の目に触れぬよう回収すればいい。これで両方の依頼を一度に解決することが出来た。
「というわけで、両方解決した」
説明を終えて笑う真桜の笑みは黒い。婿殿の味方をしたように見えるが、裏を考えれば『彼の弱みを握った』のだから。
「なるほど、賢いな」
素直に感心している神様アカリをよそに、人間である北斗は複雑な表情で指摘した。
「回収した恋文の使い道は?」
「さあて」
捨てたとも持っているとも取れる返答をして、真桜はからりと晴れた空を見上げた。空は晴れているのに、気温は低く凍えるようだ。
冷たくなった指先を温めるアカリを抱き寄せて歩きながら、真桜は笑みを深めた。
「オレは権力を振り翳されるのが好きじゃない」
つまり、婿殿の懇願も、父君の偉そうな命令も気に入らなかった。だから双方にとって罰となる形で『結果を用意した』のだ。
恋文を渡さずに済んだが、これから弱みを握られて怯える婿殿。散々偉そうにわめき散らした挙句、得られた文は時候の挨拶だけで恥をかいた奥方様とその父君。
喧嘩両成敗とばかり、真桜は自分が望む形に現実を捻じ曲げただけだ。




