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【完結】陰陽師は神様のお気に入り  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第4章 陰陽師の弟子取り騒動

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10.***守袋***

 新たな勾玉は青みがかった乳白色をしていた。月と夜の女神月詠(つくよみ)が纏う衣と言われる美しい色を手の中で転がし、真桜は複雑な心境を誤魔化すように溜め息をつく。


 自分が引退するため弟子を取っただけなのに、どうして騒動に巻き込まれるのか。幸いにして2人も優秀過ぎるほど素質溢れる子達だが、この騒動が大きくなる予感に己の運命の複雑さを思う。人と神の間に生まれた時点で、あれこれ悩むのはやめたつもりだったが……。


「こちらも戻ってきた」


 天照大神につながる(だいだい)色の勾玉を指で摘まんだアカリは、無造作にそれに紐を通して首にかける。差し出された手に月の勾玉を渡せば、同様に紐を通してから返された。


「これらは守護になる。身につけておけ」


 これから災いが降ると予言が出た以上、身を護る術は必要だ。アカリの言い分に、真桜が眉をひそめた。状況的に災いが降る先は、自分達ではなく子供達ではないのか? だとしたら、これは子供達の首にかけるべきだろう。


「なあ、藍人と糺尾にかけた方がいいんじゃないか?」


「無理だ。彼らでは()()()


 神族の膨大な神力が宿る勾玉は、霊力の足りぬ人にとって害になる。強すぎる薬が時として毒になるように、彼らはまだ勾玉の持つ力を受け流す術を身につけていないのだ。


 制御できぬ者が身につければ、溢れ出た力に呼び寄せられた妖に襲われる可能性があった。じわじわと己を苛む強すぎる力は、きっと幼い彼らの心身を衰弱させてしまう。アカリの否定を理解した真桜が苦笑いして、考えを巡らせた。


 彼らがどこまで己の身を守れるか試す意味でも、手助け程度の術で構わない。守りすぎれば弱くなるのが人だ。あの子達が純粋な人でなくても、成長の芽を摘むような真似はしたくなかった。


「そっか……じゃあ、別の護りを与えるか」


 守護札を入れた守り袋を袂に入れるよう言い聞かせるつもりで、真桜は痺れた手足を動かす。霊体を強制的に抜き出された弊害で、多少の痺れが残っていた。こわばった身体を解し、机の札にさらさらと墨で書きこんでいく。


 複雑な文様と流れる文字を記した手元を覗き込んだアカリは、ゆっくりと瞬きした。守護の札ではあるが、これはかなり変則的だ。


「これでよいのか?」


「ああ、これでいい」


 互いに内容に触れずに会話を終わらせ、墨が乾いた札を複雑な形に織り込んでから小さな袋に入れた。美しい錦の袋は、陰陽寮に守護札を求めてくる公家用だ。彼らが身につける守り袋として、常に用意されているものを使用した。


 長い紐を用意して、子供が首からかけられるように調整する。


「疲れたし、今夜も神降ろしがあるから帰ろうぜ」


 軽い口調で仕事を切り上げる真桜が立ち上がり、ふらふらと歩き出す。身体の不自由さがまだ残る彼の不安定な様子に、くすくす笑いながらアカリが後ろから腕を取った。


()()()()()なら、我に掴まるがいい」


「これはこれは、恐縮の極み」


「星読みも手伝ってやろう」


 ふざけた物言いで帰宅する2人の姿に、他の陰陽師達は空を見上げる。ここ数日曇りの夜が続き、きちんと星読みしていなかった事実を思い出した。星読みに現れる神託は、国の未来を左右する。陰陽師にとってもっとも大切な仕事のひとつだった。


 庇の先から見えるどんよりした曇り空に、陰陽寮の職員は顔を見合わせた。


「そうだ、我らも夜の星読みがある!」


「星読みは徹夜だ」


「もう帰ろう」


「陰陽寮の一番大切な役目だからな」


 釣られた陰陽師が一斉に帰り支度をはじめ、さっさと職場を後にする。その一刻後、公家からの依頼を手に現れた青年が見たのは、誰もいないがらんと静まり返った陰陽寮だった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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