主人公のとある1日 4
「……」
その質問に俺は何も言うことができなかった。
元に戻れないだって、たった一人の子供を助けただけで。俺が何か悪いことしたか、いや、恐らく否だ。断じて否だ。俺は、俺は俺は俺は……
そんな思考が分かったのか先生は俺に声を掛けてくれた。
「別に私はあなたにそうしろっていているわけじゃないのよ。でも今のままでいたいならこの事は全部忘れて何も知らなかったことにしなさい。あなたはまだ選ぶことができるの……」
「俺はあの子と一緒にいたい」
どうしてだろう。俺は何かを覚悟して言ったわけじゃない。ただ心の底から言葉が出てきたって感じだ。
「そう、それでいいの? これからはとても辛いことが待っているかもしれない。だから本当にそれでいいの?」
「いいです。それでいいです。俺は……」
「分かったわ」
先生はそう言ったが実際のところ俺には俺自身のことがよく分かっていない。
「じゃあ説明をするね。いい? 心して聞くことね。ここまでなら戻れるけどどう、っていう質問は野暮だね」
「お願いします」
「オーケー。まずあの子、名前はミミって言ってたわ。今はあそこで眠ってる」
そう言って先生は奥にあるカーテンの掛ったベッドを指さした。
「たぶんこれが伏間君一番気になってることだと思うんだけど、ミミは何者なのかそして私と彼女いや、彼女たちとの関係性どちらから聞きたい」
「ええと、じゃあミミの方で」
とりあえず俺はあの小さな女の子話から聞くことにした。
「ふ~、はぁ」
先生は一息ついてから話し始めた。
「彼女たちみたいな人は亜人って言われていて、その中でも彼女は獣人という種族なの」
「獣人……」
なんかマンガやアニメで見たような言葉ばっかりだ。でも獣人と言われたらまあそうだなって思う。なぜならミミの頭には猫の耳にそっくりな耳が二つちょこんと生えていたからだ。
「そう獣人。たぶんミミは絡まれていた訳じゃなくて襲われていたのよ」
「襲われていた?」
「そう、亜人はヤミ市なんかで高額取引の対象なんだよ。だからミミもそれに連れて行かれるところだったんじゃないかな」
「取引ってどうして?」
「それは奴隷とか成金のコレクションとか本当に色々あるわ」
「コレクション……?」
「まあ、今はいいわ。重要なのはあの子のことでしょ」
「はい」
「まず一番は住むところだわね。で、お願いなんだけどミミをあなたの家に泊めてもらうことってできないかしら?」
「ちょっと考えさせて下さい」
そう言って俺は思う。唐突な質問だなと。
だってそうだろう。今朝見つけたばかりの少女と暮らすだなんて俺に出来るのか?
どうだろう俺には分からない。
だけど俺にはあの子を預かる責任があるのではないかと思う。そしてその責任を俺は果たすべき時なのかもしれない。きっと先生もそう感じて黙って答えを待ってくれているのだろう。
だから俺の答えはもう決まった、というよりはきっと最初から決まっていたことなのだろう。
「分かりました」
「そう、じゃあこれからのことについて少し話をするね……」