主人公のとある1日 2
「失礼します。二のC伏間悠介です」
保健室のドアをノックして入室する。あの男からは簡単に逃げきれた。逃げきれたというよりはあの男が俺たちを追って来なかったのでそのまま周りに警戒を払いつつもここまで来ることが出来た。
だけどもしかしたら校門を抜けてここまで来ることの方がヤバかったのかもしれない。だって同じように登校してくる人たちから何というか変な目で見られるという危険の方が何倍も高いからだ。
と、俺が今までのことを回想していると保健室の奥の方から声が返ってきた。
「は~い。どうしました」
「……あ」
ふと気がついたが俺は先ほど見つけた子供背負っているという状況をどうやって話すかを考えてなかった。
「あの、聞こえなかったからもう一回言ってくれる?」
そう言ってこちらに向かってくる足音が聞こえる。
どうしよう。ヤバい、ヤバいよ。
「どうしたの伏間君……?」
ついに俺は先生と対峙した。目の前に立つ先生は俺の状況を見て驚きと戸惑いの二つの感情を足して二で割ったような不思議な顔をしていた。ボロボロの布を纏った何かを抱えている俺を見たら当然のことだろう。
「……」
まだ言い訳を考えていない俺はうんともすんとも答えることができない。
「まあ、いいわ。とりあえず中に入りなさい」
先生はそう言って俺を中に入れつつ、後ろの扉をしめてくれた。結構気がきくな。
「あ、とりあえず。その子をベッドに寝かせておいて」
「あ、はい」
「あと、伏間君はその辺の椅子に座っててくれる」
奥にあるベッドの方へ行き子供寝かせて、先生が座っている反対側の椅子に腰掛ける。
「とりあえずおはよう」
「あ、おはようございます」
すっかり忘れていた挨拶を促されてする。
「手当をする前に聞いておきたいんだけど、あの子はどうしたの?」
え、もう分かってるの? 何の目的で俺がここに来たのか。
「ええとそれは、話せば長くなるんですけど……」
俺はあの子をここに連れてくるまでの経緯を話した。先生はそれを何も言わず聞いていていた。
「ありがとう。とりあえず手当をしましょう」
先生はそう言ってあの子が寝ているベッドの方へ向かって行った。俺もそれに倣った。
「じゃあまずこの外套を外すわよ。手伝って」
「はい」
俺はまずこの子を起こすどうやらまだ気を失っているようだが息はしている。そして先生はその子が被っているぼろ布とほとんど変わらない外套から頭を出させる。するとそこには……
「なんだこれ?」
「えっ……」
するとそこには頭のてっぺんの両サイドから猫のような耳の生えた小学生ぐらいの少女の顔があった。
「ネコ耳?」
「獣人? そんなありえない……」
俺はこのことに驚いているが、先生は違った。どちらかと言えば戸惑っているといった様子だ。
それよりも獣人って、確かにこの子には猫のような耳がついているがだからそうなのか? いや、それよりも先生はこの子のことを知っている? なんだろう訳が分からなくなってきた。
「……先生、一体これは?」
「ああ、伏間君あなたは教室に戻ってなさい」
「え、あの……」
「……そうね、とりあえず放課後またここに来なさい」
先生は少し考えるしぐさを見せた後そう言って、俺は保健室の外に追い出された。
いろんなことにモヤモヤしたままだったが、今の俺には何もできないので何か知ってそうな先生にすべてをお任せして俺は教室に向かった。