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爆死は呼吸

「うーん」


 掲示板では活発にジョブの詳細やスキルのシステムについての話し合いがなされていた。

 なんか俺らだけハブられてる感すごい。


「爆死報告してるやつとか居ないのかよ……」


 なんか周囲の戦える人間で集まって避難所の防衛やったりゴブリンキング討伐の作戦会議をしているスレだとかが立っている。


「……やっぱ、つれぇわ」


 そう言いながら俺は先程天の魔石から出てきたR魔物のグールにひしっと抱きつく。


 グールの見た目は、簡単に言ってしまえば激ヤセした美少女だ。色々と絵面がやばいが俺がこうして悲しい気分になっている理由の半分くらいはこの子が出てきたせいなので因果応報といえる……いえるよね?


 ギョロリとした眼でこちらを見つめるグールのお腹に頭を押し付ける。

 グールのお腹は餓鬼の如くぷっくりと突き出ており、そこに何が詰まっているかという問題から眼を逸らしさえすればとても良質なクッションになる。

 ちょっとホラーな見た目だけど美少女と言えなくもないし。というか実装直後は「R魔物の中で一番可愛い!」派と「フェアリー系列が一番可愛いに決まってるだろ」派に分断し盛大なPK合戦が行われた。なんで両陣営に過激派しかいねぇんだよ。

 ちなみに俺は「黙ってガチャでSSR引け」派で、合戦開始数秒で回避事故って死んだ。


「見た目は好きだけどなー。割と簡単に作れる魔物だったからなー」


 ただSSRへの進化がある魔物なので、あの外で震えながら見張りをしているおっさんよりは余程将来性がある。しかも更に可愛くなる。何だよ全然爆死じゃないじゃん。


 そんな風に自分を慰めつつお腹にぐにぐに顔を当てていると、グールがその枯れ木の枝のように細い手をぽんっと俺の頭に置いた。

 聖母かな?


「うー……あうー」


 喋れないのが玉に瑕と言ったところか。





 さて、俺は先程、悲しい気分になった理由の半分は爆死と言った。ならもう半分は何か。

 簡単である。他のプレイヤーとの温度差を感じて憂鬱になったのだ。


 そもそも過疎ゲーとして聖樹の国の魔物使いを楽しんでいた俺にとっては、プレイ人口=全人類の数になった現状自体、少々不愉快なのだ。

 例えるならば、一人旅で隠れた名湯に浸かっていたらツアーの団体客が来たみたいな。

 そっからテレビで紹介されて一気にポピュラーになっちゃったみたいな。


 何となく納得いかないがそれを声高に叫べば白い目で見られる事は明白だろう。

 

 それに加えて俺達――、十傑だけが魔物を使役出来ているこの現状。


 同じゲームをやってるのにモードが違う感が半端ない。掲示板を見る度に疎外感を感じる。


「あうあー、うー、ぐるる」


 それなー。マジわかるわ。超あうあうだよねー。


 俺とグールでそんな語彙力の欠片もない会話をしていると、倉庫の扉が突然開けられた。


「おい、毛布持ってきてやっ……た……ぞ……」


「あうあう」


「あうあうじゃねぇよ!?何やってんの!?」


「爆死を少々」


「……つらいよな。分かるぜ」


 途端に俺に生暖かい目を送ってきた紅羽。オイオイまさか君、まだ自分が爆死しないとか思ってるんじゃないだろうな?


「タカが爆死すると周囲に運を振りまくっていうジンクスがあるんだよ」


「振りまくのは余波による大ダメージなんだよなぁ」


「その話はやめろつってんだろ」


 まあいいか。いや決して良くは無いが一旦置いておこう。


「紅羽、魔物の育成はどのくらい進んでる?ってかザントマン持ってるって事はフェアリーがどっかに湧いてるんだよな。教えろ、根絶やしになるまで狩る」


「え?嫌だよ」


 はー、出た出た。そういう情報の出し惜しみはよくねぇぞ。分かってるのか?今は人類一丸となってこの災害に対処しなきゃいけないんだぞ?


「チッ。しょうがねえな」


 あー、でも待てよ。そこまで教えたくないなら条件を出してやろうか。


 ――お前、俺の目の前で爆死しろ。


「……一瞬何言ってんのって思ったけど要は天の魔石割れって事か?」


「その通り。さあ!私を楽しませてくれたまえ!」


「どういうキャラ付けだよそれ……まあいいか。おい、もしあたしが良いの引いても恨むなよ?」


 大丈夫。大丈夫。つうかそん時はその怒りを動力にしてフェアリー狩りすっから。


「ああ、そうか。爆死する事が条件だったな」


 おうよ。だからはやく引け。


「ああ。じゃ、先に言っとくぞ。ごめんな」


 そう言うと紅羽はポケットから石を取り出し、砕いた。


 そして、一瞬の輝きの後に、ソレは現れた。


「こ、れは……」







「ザントマン……」




 R魔物のザントマン。二体目だね。


 俺は紅羽にそっと近づき、肩を叩いて言った。


「ようこそ。暗黒面へ」


「うわあああああああん!!!!」


 紅羽は去り際に俺のどてっぱらにボディーブロウを撃ち込み家の中へ戻っていった。

 へへっ、良いパンチ持ってんじゃねぇか……


 俺はその場に崩れ落ちたまま暫く動けなかった。












「薫ちゃんに魔物使役出来るのがバレた」


 俺が倉庫の中でグールのお腹を枕にしつつゴロゴロしていると、紅羽がまた扉を開け入ってきた。

 爆死の傷は癒えましたか……?


「あたしはガチャなんて引いてない、天の魔石なんて無かった。いいな?」


 あっ、はい。


「つーか余裕だな。妹の身に危険が降り掛かりかねないとか思わねぇのか?」


「俺の妹も馬鹿じゃないし薄々勘付いてただろ。口止めはしたか?」


「ああ。勿論」


「つーか何で確信を持たれたんだ?……あのおっさんが原因か?」


「いやあたしがショックのあまりザントマン連れたまんま家に入っちまってな」


「お前機密管理ガバガバじゃねえか」


 動揺し過ぎだろ。


「まあ仕方ないか。遅かれ早かれバレてたってかバラす予定だったしな。つうか、そうなったんなら使役してる魔物紹介しといた方が良いぞ」


「そうだよな。あー、そうだ。話がつけやすいだろうしそこのおっさん借りてくぞ」


「おう。あ、グールは一般人にゃちとショッキングな見た目かもしれんから一旦黙っといてくんね?」


「了解。おーい、おっさん。話聞いたろ?行くぞ」


「あ、アタタカイシツナイ……」


「なんか寒さで言語野ぶっ壊れてるっぽいが大丈夫か?」


「大丈夫だ。さっさと連れてってやれ」










 さて、と。若干気分が萎えてはいるが今後の方針を決めておくべきか。

 と、なると……




タカ:十傑の方針決めとこうぜ


ガッテン:そうだな。あとそろそろブロック解除してくんない?


ほっぴー:ブロックとガッテンて三文字変えたら一緒じゃね?


ガッテン:理論が破綻通り越して一から創造しちゃってるじゃねぇか


ジーク:なあ、掲示板見てるとすげぇ疎外感ある。俺だけ?


タカ:俺も


ほっぴー:分かる。ちょっと鳴きそう。もおおおおおおおおおおお!!!!


ジーク:草


タカ:草


ガッテン:てめえらふざけんな


鳩貴族:魔物使役に関する情報はどうするかね?


タカ:使役できるのが俺らだけならなるべく秘匿したい、かなあ。なんか争いの種になりそう。


Mortal:魔物使いのジョブです、って言うのはどう?


ジーク:サイコ野郎は嘘がうまい


鳩貴族:なるほど。どうもゲームの時には無かったジョブもあるようだし、通じるかもしれない。


タカ:つうか魔物使いってジョブ普通にねぇの?


鳩貴族:掲示板で情報収集をしているけど、どうも無いらしい。まあ一先ずは誰かがレイドボスを倒すまで待とう。そしてレイドボス討伐の際に天の魔石が手に入るようだったら私達はそう特殊な存在では無い事が分かるはずだ。


ガッテン:なーんか、俺らと他とじゃシステム違う感半端ないんだよなぁ


ほっぴー:てか、結局どうすんの?


タカ:今は秘匿しとくのが正解な気がするな。誰かがゴブリンキング討伐するまで待とうぜ


鳩貴族:タカ氏と同意見だ。あとバレそうになったらMortal君の案を使おう


紅羽:今まさに使わせてもらったぜ


ジーク:はやすぎ


タカ:よう、ゆうちゃん


紅羽:てめえ殺す


ガッテン:はーい、内ゲバやめようね!


ほっぴー:挨拶なんだよなあ……


ガッテン:今のが挨拶とか殺伐とし過ぎだろお前等……






 一先ず、「静観」という方針を得た俺は再びぐにぐにと頭をグールの腹にうずめる。


「なんで掲示板の魔法陣使えるのにツイッターで喋ってるんだろうな……」


 なんででしょうね。









 



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