ヤンデレ狂想曲とフラグ
ガチャリとドアの開く音。
来たか。
俺は床を無理やり這いずり進み、訪問者を笑顔で歓迎した。
「燃やされるよりも先に自ら色んなとこ脱臼させて誠意を見せていくスタイル」
「ドア開けた瞬間スプラッタシーン見せるのやめてくんない?」
そう言って顔を引き攣らせる紅羽に、脱臼した両足を両手をより積極的に見せつける。
「……別にマジで燃やしたりしねぇよ。はやく元に戻せ」
ほんとぉ?俺がピンピンしてたらちょっと焦がしてただろ絶対。
……まあいいか。
「俺も戻りたいんだけど、これやったバンシーちゃんが勝手にどっか行っちゃってな」
「お前の性的趣向に文句言うつもりは無いけどよ、もうちょっと関係性見直したほうが良いぞ」
あうー?
「ああクソ、しょうがねぇな。貸せ」
「助かる」
「あたしが来なかったらどうするつもりだったんだか……」
そこでガチャリとドアの開く音。
「あ、あうう…………チッ」
部屋に入ってきたバンシーが紅羽を見て舌打ちをする。
「おいなんであたしに向けて舌打ちした」
「バンシーちゃんは可愛いなぁ。投げキッスかな?」
「大丈夫かお前。脳みそある?」
「失敬な。俺はちゃんとバンシーちゃんが何考えてるか分かってるぞ」
「じゃあ言ってみろ」
「あううああう、ぐるぅ、あうっ」
「日本語でオーケー」
そう言いながら紅羽がグッと俺の肩を入れ、チラリとバンシーの方を見た後に部屋から出て行こうとする。
「おい、脚がまだ脱臼したままだぞ。仕事はちゃんと最後までやれ」
「面の皮六法全書かよ」
良いじゃねぇか。
人生なんて多少図々しく生きる方が色々と得だし楽だぞ。
「あう!」
バンシーちゃんがとてとてと走りよって俺の脚を掴む。
あっ待ってちょっと処置荒っ……痛い!?痛い痛い痛い!
「紅羽!へるぷ!へるぷみーッ!」
「あ、後で薫んとこ行ってやれよ」
「え?あ、おう!分かった!分かったから!いででで!バンシーちゃん方向間違ってる!ガキが組み立てたフィギュアみたいになっちゃう!ああああああああ!」
バタンというドアを閉じる音は俺の悲鳴にかき消された。
タカ:なんか脚の調子が良い
紅羽:えぇ……
タカ:肩もバンシーちゃんにやらせりゃ良かった。何やってんだ紅羽
紅羽:患部ごと焼き払って何も感じなくさせてやろうか
タカ:すいませんでした
〔お代官さんが入室しました〕
お代官:おお!ついに使えたぞ!
タカ:!?
紅羽:お代官さんだ
紅羽:そっちに回した書類、ちゃんと処理し終えました?
お代官:ここでまで仕事の話をするのかね……?
ガッテン:常識人が増えた……助かる……
ほっぴー:あ、ガッテン。今暇だしちょっと遊ぼうぜ
ガッテン:え?いいけど
ガッテン:何やんの
ほっぴー:ドッヂボール
ガッテン:どこで?
ほっぴー:エントランス集合な。他誰か来る?
タカ:俺そろそろ異世界行きの準備しなきゃならん
ほっぴー:え?モータル来るつってたけど
タカ:何やってんの!?
お代官:あー、そうだった。タカ君。移動は明日だ、と言おうとしてたのだが既に知っていたのか
タカ:はい
砂漠の女王:わたくしが言っておきましたの
お代官:ああ、助かる
お代官:ん?
タカ:えっ
ほっぴー:!?
お代官様の嫁:いかがいたしました?
お代官:君は掲示板が使えないのではなかったのかね!?
お代官:というか何だねそのハンドルネームは!?変幻自在か!?
お代官様だけの女王:入れない、というのは正規のルートでは、という条件付きですわ♪
ほっぴー:入室ログもねぇ……居るのに居ない……
お代官様、挙式はいつにいたしますか?:意外にガードが固くて手間取りましたけど、これからは掲示板越しに気軽に指示がとばせますわ
ジーク:意外に(お代官さんの)ガードが固くて手間取りましたけど
ほっぴー:気軽に(お代官さんに)指示がとばせますわ
タカ:挙式マジ?お祝儀用意しなきゃ
お代官:きみたち
七色の悪魔:おや、お代官さん
七色の悪魔:楽しそうじゃないですか
お代官:全然楽しくないぞ!というか砂漠の女王!ハンドルネーム変えるのは禁止だ!
お代官様、挙式はいつにいたしますか?:はあい
お代官:そうじゃない!!!!!!!
Mortal:夫婦漫才終わった?そろそろドッヂボールしよ。もうエントランスで待ってるよ
お代官:モータル君はドッヂボール禁止!!!!今すぐ異世界行きの準備をしなさい!!!!!
ガッテン:ああ、肩が軽い……さすがお代官さんだ……
「タカー」
「お、モータル」
バンシーちゃんのお腹を枕代わりに掲示板を眺めてゲラゲラ笑っていると、ドアを開けてモータルが入ってきた。ちゃんとノックしような。
「異世界行きの準備ってなに」
「それな」
正直何をすればいいのか分からない。
「とりあえず妹んとこに報告行くわ」
「暇だし俺もついてく」
「おっけー」
俺が起き上がるのを察してバンシーちゃんがお腹をばいーんとする。
いやぁ、バンシーちゃんは可愛い上に有能だなぁ。
「えーと、友達?」
「おう」
モータルと一緒にドカリとソファーに座る。
「どうぞぉ」
「あ、すみません。いただきます」
いそいそと紅羽の母親が茶菓子を持ってくる。
モータルがペコリと頭を下げると、もぐもぐと茶菓子を頬張り始めた。
「おい、モータル。貴重品をわざわざ分けて貰ったんだからもっとゆっくり食え」
「美味しかった」
「遅かったか……」
呆れながら俺も茶菓子を手に取る。
そして扉の影からこちらを見ていたシャノンを手招きして一欠片分けてやる。
「お兄ちゃん、あんまりシャノンを甘やかしちゃダメ」
「は?別に甘やかしてねぇよ」
「タカは身内びいき激しすぎ……うわわっ」
モータルが口の端に食べかすを残していたせいか、ポチに顔をベロペロと舐められ始めた。
しっかし身内びいきね……そんなに露骨かぁ?
「うん、タカなんだかんだ甘いよね」
ガキが俺からお菓子を分けて貰った分際で生意気を言いやがったのでグリグリとアイアンクローをかます。
「いででで」
「で、お兄ちゃん、次は何やらかすつもりなの?」
……あー、うぅん。
「もっかい異世界行くことになってな」
「……他の人と代われないの?」
「俺とモータルじゃねぇと無理だ」
何とも言えない表情となった薫。
「……」
だがやがて踏ん切りがついたのか、多少迷いの消えた顔でこちらを真っ直ぐ見つめてきた。
「本当はね、嬉しさもあるんだ」
「……」
嬉しさ?
「お兄ちゃんが昔みたいに構ってくれることもそうだし、お兄ちゃんが凄い人だって皆から評価されてることも」
評価されてるやつは焦がされたり呼び出しくらって怒られたりしなくない?
「今心の中で必死に話はぐらかす算段立ててるでしょ」
「た、たたた立ててねぇし」
「……異世界行き、反対したりはしないよ。でも」
俺は薫の言葉を遮って口を開いた。
「死なねぇよ。醜く生き足掻いて、お前だけでも連れて逃げてやる」
まぁなるべく他のヤツも助けるけど。
「……分かった」
「まあ安心しろ。狂ったように強ぇ友達もいるしな」
そう言いつつモータルの肩に手を回しニッと笑ってみせる。
横を見れば、何やら羨ましげな目でこちらを見るモータル。
だが俺の訝しげな目に気付いたのか、スッといつもの表情に戻る。
「タカ、めっちゃ死亡フラグ立ててるけど大丈夫?」
あ、やっぱお前もそう思う?




