十傑、異世界に降り立つ
「おい、本当に道合ってるんだろうな?都会に出るって聞いたんだが?」
俺達は木々が生い茂る中、多少雑草が狩られ、所々石畳のような物が見受けられる道を進んでいた。
「地図通り進んでるぞ?ホラ」
前を歩くモータルがひらひらと地図を俺に向け振り、アピールをする。
まあ、モータルは別に方向音痴ではないし、その辺は信用してるが……
「うはー!見ろよ!蟻だ!」
「……本当だ。蟻だな」
黒い身体に、真っ白な一本の線が入った、蟻としか形容の出来ない生物が、隊列を成して木の上を歩いていた。
流石の俺も興味を引かれ立ち止まる。
「こういう所見ると地球と変わらないよなぁ」
そう呟きながらその辺の枝で蟻をつついてみる。
すると、その枝に反応し周囲の蟻がじたばたと暴れ始めた。
かと思えば次第に整然とした列を成し、自らの身体の線を合わせ、一つの模様を組み上げ始めた。
「自分の身体を大きくみせて威嚇ってか?」
「タカ!まずい!避けろ!」
は?何が……
俺が疑問の声をあげるよりも早く、モータルに地面に押さえつけられる。
「あ!?何だ!?」
「蟻だ!蟻だよ!」
地面に伏せた状態で蟻を見る。
見れば、蟻の身体の線により構成された複雑な模様は、若干であるが光を帯びており――
「魔法陣!?」
「逃げるぞ!タカ!」
だー、畜生ッ!身近な生物の姿をしてる分、油断しちまったッ!
ズボンについた土をはらいつつも立ち上がり、駆け出す。
「メテオ!」
「っとぉ!?俺に当たりかけてたんだが!?」
俺が紙一重で回避した火の玉が後方の、おそらく蟻共がいるであろう箇所へととんでいく。
「やったか!?」
「タカ、それフラグっていうんじゃなかったっけ?」
うるせぇ!分かってるよ、火を放ったのに木にまるで引火した様子がねぇって事は……
「あっぶねぇ!?」
背後からとんできた拳大の杭のような物をすんでのところで避ける。
「タカ!ちょっとの間しゃがみながら走ってくれるか!」
「おうよ!やっちまえ!」
「メテオ!」
必死に走りながらもきっちり蟻の居る場所へメテオをとばすエイム力に感嘆しつつ、しゃがみながら必死に走る。
「あはははは!楽しい!」
「どこがだぁ!?」
俺達の異世界探索は、最低な出だしとなった。
タカ:はい。報告
ほっぴー:待ってたぜ。どうだ?
タカ:蟻に殺されかけた
ジーク:草
ガッテン:えぇ……
タカ:てめぇら蟻さん舐めてっとマジ痛い目に遭うから
鳩貴族:そんな事ありえるんですか?……蟻だけに
ジーク:久々すぎてちょっと面白く感じてしまった
ほっぴー:鳩貴族さんが楽しそうでなによりです
タカ:防御と攻撃の魔法使いこなしてたぞ
ほっぴー:あー、もしかして人間並みにでかい蟻?
鳩貴族:ジャイアント、という訳ですか
ジーク:今日の鳩貴族さん絶好調じゃん
タカ:いや?俺らの世界と同じくらいのサイズ
ほっぴー:ちょっと待て砂漠の女王に聞いてくる
タカ:わざわざ聞くような事じゃないぞ
タカ:あ、ごめん。やっぱ聞いてきてくれ。主に対処法
ガッテン:蟻が魔法使ってくるとか魔境すぎるだろ……ぜってぇ行きたくねぇ
「タカ。見えてきたぞ」
「ん?ああ、分かった」
モータルから声をかけられ、開いていた掲示板魔法の陣を書き込んだ紙をくるくると丸め、バッグに入れなおす。
「……一気に景色が開けたな」
「すっげぇー!超でけぇ壁だ!」
モータルの言う通り、眼前には巨大な城壁が広がっていた。
関所のような場所や、周囲に広がる農村以外の都市部は、どうやら壁の中に納まっているらしい。
「……これ、通じるのか?本当に」
砂漠の女王に渡された、妙なカードを改めて眺めながら、指示の内容をもう一度思い出す。
まずは……関所では、なるべく太り気味の兵士に担当して貰う、だったか。
「こいつぁ丁度いいな」
「ん?何が」
何が、じゃねぇよ。指示覚えてないのか?
……まあいい。
「俺が何とかすっからモータルは黙っててくれ」
「分かった」
俺達は関所の近くに立っている兵士の中でも、少し顎に贅肉を蓄えた中年の兵士に声をかけた。
「やあ。通行手続きをお願い出来るかい?」
「旅人か?」
「まあ、そんな所だ。ただちょっと困った事があってね」
「……」
「ギルドカードの更新期限が切れちゃって」
「……で?」
こちらに探りを入れるような視線をとばしてくる中年兵士。
「正式な手続きを踏んでもいいが……時は金なり、とも言う」
「60」
突然、賄賂の値段交渉に入った目の前の中年兵士に、内心呆れつつも言葉を返す。
「いや、30で」
「……聞こえないな。もう一度言ってくれ」
チッ。しかたねぇな。
「50でどうかな」
「……付いて来い」
中年兵士に続き俺とモータルが関所の内部へと入る。
「意外と綺麗だな」
後方からこそこそと話しかけてくるモータルの口に人差し指を押し付けつつ中年兵士に付いて行っていると、書類の束が置かれた部屋に到着する。
「滞在期間は?」
「一週間だ」
ダン!ダン!という音と共に二枚の紙にスタンプが押される。
それを受け取り、去ろうとした俺達の背中に中年兵士が声をかけた。
「礼は無いのか?」
クソジジイ……!
俺は額に青筋を立てつつも10と書かれた硬貨をおっさんの方向に投げる。
それをキャッチした中年兵士が、口の端をニヤッと曲げ、俺達にお辞儀をした。
罵倒の言葉を必死に抑えつつ、俺達は今度こそ関所を出て、街の内部へと入った。
「「すげぇ」」
一面に広がった、どこか既視感のある不思議な光景――中世ヨーロッパ的な街並みに、俺とモータルの言葉が重なる。
「とりあえずギルドに行ってカードの再発行して貰うぞ。街の散策は俺としてもやりたいが……後回しだ」
「んー。先に飯食わね?」
「駄目だ。身分証明できる物持ってないと俺としても落ち着かん」
俺の言葉に、モータルが少し拗ねたような表情をみせる。
そういう表情、お前がやっても全然かわいくないからな。
「つーかギルドどこにあるのか分かるのか?」
「あ?あー……」
俺は周囲をくるりと見渡し、入り口のすぐ近くにある噴水の横に何やら看板が立っているのを見つけ、その看板の前に小走りで向かう。
「ほーら。やっぱり合った。街の簡易地図だ。えーっと、ギルドは……」
俺が必死に地図を見るなか、モータルがポツリと呟いた。
「なんで日本語で書いてるんだ?」
「……確かに」
ああいや、待てよ。日本語で書いてる訳ないし、砂漠の女王の魔法か何か、か?
そりゃ文字が読めなきゃ探索もクソもない訳だし……しっかし、どのタイミングで?
……まあ、今言える事は一つ、だな。
「知るかそんな事。そんな事は帰ってから砂漠の女王に聞けばいい」
「まあそうだな」
読めるって事が分かればいいんだよ。
原理の究明は俺らの役目じゃない。
俺はそんな事を心の中で呟きながら、必死に地図でギルドを探した。
普通に分かりづらくないか?この地図。もっと気合い入れて作れや。




