逃亡
周囲の建物が崩壊し、凄まじい轟音が辺りに響く。
「うーん、カーリアちゃんを殺すならどの手法が一番手っ取り早いかなー」
アルザの周囲に様々な形状の武器が浮かんでは崩れ、また作られる。
「肉弾戦はこっちも消耗するし……」
生み出した一本の短剣を手で弄んでいたアルザの正面に、角男達がずらりと並んだ。
「ん?……ああ、報告はいいよ。仕方ない事だとは思うし」
「……」
角男率いる魔人部隊が、黙ったまま武器を構えた。
「ああ。そういえばそうだったね。カーリアちゃんの動画に釣られて魔王軍に入ったんだもんねぇ。僕も配慮不足だったよ」
「……すみません」
「謝るぐらいならやらないで欲しいかなぁ」
その言葉を皮切りに角男達が一斉にアルザへと襲い掛かった。
「死ぬ気でいけぇ!そうでもないとカーリアちゃんは逃がせない!」
「……逃がす、ね」
アルザが顔を顰めつつも付近の魔人数人を浮遊させた剣で薙ぎ払う。
「君達は貴重な戦力だし、殺したくはないんだよねぇ」
「第二陣、進めッ!」
「「「おおおーーーッ!!!」」」
「うっわぁ。タフにし過ぎたかなぁコレ」
普通の人間であれば致命の一撃であったソレを耐え、後退及び第二陣の突撃を敢行した魔人達を眺めながらアルザが呟く。
「多少殺す気でいかなきゃまずいかな?」
「騙して勝手に身体改造した挙句、その言い様は無いのではないですか」
瓦礫の一部を吹き飛ばし、再びカーリアが姿を見せた。
「お。今回は復帰が遅かったね。この子達の謀反が無ければもう死んでたかもよ?」
「……命を無駄にするのも大概にしてください」
「ははは。何だい?その言い方。まさか、こんなチンケな助太刀程度で僕に勝てるとでも?」
アルザの嘲笑に、カーリアが悔しそうに唇をかむ。
「やれます。やってみせます。今の魔王軍は間違って――」
「いや、止めてくれよカーリアちゃん。俺らが無駄死ににならないためにも」
カーリアの言葉を遮ったのは、角男。
「カーリアちゃん。東京に逃げな。ここは俺達がほんの少しだけ、耐えてみせるからよ」
「……ですが」
「魔王軍を正したいのは分かるが……今じゃあねぇだろう。砂漠の女王とやらに協力を仰いでみりゃ、また状況が変わるかもしれん」
角男の言葉。
そしてその間にも突撃する魔人達とそれをあしらうアルザ。
カーリアは両者を暫く見つめていたが、やがて意を決したような表情で息を吐いた。
「頼み、ました!」
その直後、転移とも思える程の速度でカーリアがその場から離脱した。
「それは困るなぁ……!本気で逃げに徹されちゃあ僕は……ああクソ、退け!」
カーリアを追おうとしたアルザだったが、突如大量の魔法が飛来しそれを妨げる。
後方に控えていた魔人達による一斉射である。
「……ああ、本当に残念だ!」
魔人達による、勝敗の見えた、戦いという名の時間稼ぎが始まった。
一方、十傑達。
「おい、霧やべぇけど大丈夫かよ!?」
前回はまだ視界が晴れていたはずの区域にまで、霧が及んでいた。
「大丈夫だ!互いを見失わないように声かけつつ行くぞ!」
タカの叫びにほっぴーがそう叫んで返す。
「しりとり!」
「は?」
「は?じゃねぇ!続けろや!」
ほっぴーの怒号の後、乗り心地が良くないのか、震えるような声でスペルマンが続けた。
「りんご~」
「よし!次!タカ!」
「ゴール」
「次!紅羽!」
「ルール」
「てめぇら絶対ル責めする気だろ!?互いを認識するためつったろ!?勝ちに行くなや!無言になっちゃうだろうがッ!」
ほっぴーの再びの怒号。
「はっ。雑魚乙」
「んだとコラァ!?上等だ、やったらぁ!」
「ほっぴー氏~、術中に嵌ってるよソレ」
霧の中ぎゃーぎゃーと騒ぎながら走っていると、突如としてその霧が晴れる。
「!?」
そして眼前に広がったのは、砂漠であった。
「なっ!?もう着いたのか!?」
ほっぴーが驚きの声をあげつつ、周囲を確認する。
「地平線の先に神殿みたいなのがあるな」
「おお。さっさと行こうぜ」
「待て。タカ、紅羽」
ほっぴーの制止に、タカと紅羽の乗るミノタウロスが足を止める。
「何だよ」
「……あー、蝙蝠屋敷の主。ここ、領域内だよな?」
「え?ああ、そうなんじゃないですか?」
「使えねぇ!まあいい。とりあえず神殿目指して前進!」
唐突な罵倒にショックを受けた様子の蝙蝠屋敷の主。
だがそれにはお構いなく神殿の方向へ進んでいく一行に、蝙蝠屋敷の主も慌てて走り出した。
タカ:領域到着
ガッテン:あれ?撮影はどうした
タカ:延期だ
スペルマン:でも衣装は回収したし、カーリアちゃんが何とか生き残れば……
タカ:殺しはしねぇだろ。戦力不足らしいし
ほっぴー:いや普通にもう無理じゃね?
ガッテン:は?
鳩貴族:困りますねぇ
ジーク:誰かババ抜きやろ
Mortal:俺も行く
ジーク:むしろモータルの部屋に集まった方が楽説
タカ:んじゃモータルの部屋行くわ。何番の部屋だっけ
ほっぴー:修学旅行じゃねぇんだよ。ちょっと全員俺の部屋に集まってくれるか
Mortal:ババ抜き?
ほっぴー:違うわ!
ほっぴー:作戦会議!出来れば砂漠の女王も呼ぶ
ほっぴー:そういやお代官さん……は掲示板使えないのか。不便だな
Mortal:俺呼んでくるわ
ほっぴー:頼む
紅羽:着替えたら行くわ
タカ:何故か全然興奮しない
紅羽:薫に言いつけとくからな
タカ:土下座をご所望ですか?
ジーク:手の平の回転の切り替えと速度が熟練者のそれ
「よくぞ集まった」
あぐらをかき、壁にもたれかかっているほっぴーの周囲に、タカ、ジーク、モータル、七色の悪魔、スペルマンが並んで座る。
「じゃあ札配るわ」
「「「おい」」」
「……んだよ。やりながらでも話し合いは出来るな、って考え直したんだよ」
「まあ、確かに我々はリアルじゃ面識少ないですし、こうやって交友を深める事も大切ですよね」
「悪魔さん良い事言うなぁ。そうそう、そういう事だよ」
ほっぴーがそう言いながらトランプの札を自分含む六人に配っていく。
「……よし」
「ただやるんじゃつまらなくね?最下位は一発ギャグとかにしようぜ」
そんな悪魔染みた提案を行ったのはタカ。
その提案の悪意の深さと罰ゲームの恐ろしさに身を震わせる……モータルとタカを除く四人。
「タカ氏……地獄だよそれ。やる側もやられる側も」
「そうか?面白いと思うけど」
「ほら、モータルはこう言ってるぞ……それとも、何だ?自信がねぇのかよ?」
タカの煽りにほっぴーが頬を引きつらせる。
「ああ?……はー、上等だ。ただちょっと何人かとお話する時間をくれるか?」
「てめぇ仲間作ろうとしてるだろソレ!?」
「はっ、単なる運で決まるんじゃあ面白くねぇだろうがよ!」
ギャーギャーと騒がしくなり始めた部屋に、遅れてやってきたお代官と紅羽が顔を出す。
「まーた内ゲバやってんのか」
「十傑はリアルでも十傑なんだな……」
お代官の大きな溜め息が廊下に響いた。




