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過疎ゲーが現実化して萎えてます。  作者: ペリ一
本編

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321/338

要求

 凱旋を終えた翌日。

 俺は教皇の用意した治療師に会うべく、指定された建物へやってきていた。


「結構でけぇな」


 一等地にあるその建物は、質素な木造の平屋だった。

 教皇によれば診療所らしい。

 

 木造の扉をゆっくりと開けると、古い木造特有の匂いがふっと香ってくる。

 中は病院の待合室のようになっており、受付係らしき女性以外には人はいなかった。


「あのー」


「タカさんですね? お待ちしておりました。奥の第一診察室にどうぞ」


 診察室?

 そう言われ、奥にいつくかある扉を見ると、診察室①と書かれた札が掲げられている扉がある。

 アレか。

 複数用意してあるあたり、普段はもっと賑わっているんだろうか。

 爆弾が来るんだもんな。他の患者は一時的に別の場所で診るなりしてるんだろう。


「失礼します」


 診察室にいたのは、白衣を着たやや体格の良い女性。

 黒の長髪で、穏やかな笑みを浮かべている。


「やあ、英雄のタカくん。お会いできて光栄だ」


「!?」


 その姿から出た渋みのある声に面食らう。

 やけに肩幅があるとは思ったが……。


 俺の困惑を読み取ったのか、その男が穏やかな笑みを崩さぬまま語り始めた。


「僕は患者にはなるべく負担を強いたくなくてね。一番安心感を与えられるこの装いをとることにしているんだ」


 声とのアンバランスさで既に不安にさせられている。この世界の実力者にまともな奴はいないのだろうか。

 そこまで考えた上で、ふとその男が化粧で隠しているらしい傷痕に気付く。

 額から頬にかけた大きなものだ。よく見なければ分からないぐらいには隠れているが、じっくり顔を眺めていたせいで気付いてしまった。


「ああ、気付くか。隠すようにしてるんだ。子供を泣かせてしまうからね」


 どうしてそう変な方向に思い切りが良いのか理解できない。

 しかし、一連の言葉からこいつなりの善心と誠意は感じ取れた。

 変人ではあれど、悪人ではないのかもしれない。


 男が向き直り、手を差し出してくる。


「ゼニス・フィアセルだ。少し時間はかかるけれど、君の心臓に安寧を取り戻してみせよう」


 殺されそうな文言だ。

 だが、まぁ、一旦信用することにしよう。


 ゼニスの手を取る。


「俺は……青木孝文。タカでいい。よろしく頼む」


「ははあ、本名じゃなかったのか。アオキ、タカフミ……ふむ。だからタカか。他の異世界人も君と同じように他に名前が?」


「知らん」


 本名なわけないと思っているが、何やかんや本名を聞いたことがないメンバーが半数だ。

 ペンネームと本名がイコールな可能性はゼロではないだろう。

 ……ゼロじゃないだけでほぼ天文学的確率だが。


「君たちには、本当の名前はあまり教えない文化があるのかな?」


「いや、そういうわけじゃない。ちょっと特殊な仲ってだけだ。俺があんたに名を名乗ったのは……まぁ、なんだろうな。公平じゃないような気がしたからだ」


 不躾な視線で一方的に相手の事情を話させてしまった。

 これから命を助けてもらおうってのに、俺は何一つ喋らないままってのは居心地が悪い。


「話してくれてありがとう。他に、治療前に言っておきたいことはあるかな?」


「特にないな」


「じゃあ、まず検査から始めようか」


 その後、俺はよくわからない魔導機構の中に突っ込まれたりよく分からん液体を飲んだ後吐かされたりなど散々な目にあった。





「ハァ……ハァ……二度と来ねぇ……」


「あはは。それは困るね。君の心臓をどうにかするには継続的な治療がいる」


 継続的?

 それは……面倒だな。

 ちょくちょく聖樹の国に戻ってこなきゃならない。いや、下手すれば居座るはめになるか。


「継続ってのは、どのくらいだ?」


「一年くらいかな」


「はあ!? それは……何とか縮めらんないのか?」


 ゼニスの眉が下がる。


「そりゃ付きっ切りになれれば一ヶ月でどうにかしてみせるよ。ただいかんせん多忙で……そうして間が空けばどうしても追加の検診が必要になったりする。僕だって本当は治療以外のことで手を煩わされたくない。けど、そういうわけにもいかない立場なんだ」


 そうなのか。

 しかし一年か。流石に勘弁して欲しい。

 ……待てよ?

 

「まぁ、助かった。期間についてはその……仲間内で相談してみる」


「ふむ。そうか。良い方向に話が転がるといいね」


 無理やり転がしてやるさ。

 なんたって俺らは“教皇へのお願い権”を持ってる。

 天の石は惜しいが、時間には代えられん。


 数日後。

 俺は数人を連れ立って教皇へ会いに来ていた。


「待っていたよ。どうやら……お願いの内容が決まったとか」


 以前来た部屋。

 見事な意匠の木像や家具が並ぶ、色味は少なくとも、圧倒されるような部屋。

 そこで、教皇が椅子へ深く腰掛けている。


 来ているのはレオノラ、ドラグ、俺、ほっぴー。

 その内、レオノラが代表して口を開く。


「はい。治療師のゼニス・フィアセルをタカの治療に付きっ切りにして欲しいのです」


「ふむ。なかなか難題だね……だけど、私は解決策を用意できる」


 継ぐ言葉に淀みはない。

 教皇が続ける。


「実際、彼ほどの腕が必要な案件はほとんど無いと言っていいだろう。彼は教育者としても優秀でね……治療師なら優秀な者がまだまだ居る。問題は、彼のある種象徴的な立場としての仕事だ。それを一ヶ月ほど取り止めにするための……理由が要る」


 一ヶ月だなんて言ってない。

 この時点で、教皇は俺達がこのお願いを言いに来ることを確信していた事に気付いた。


「しかし、治療するのは当然と言いつつお願いをそれにしてしまうのは忍びない。ここはひとつ。こういう案はどうだろうか……」


 教皇が薄く笑いながら椅子から立ち上がる。


「ゼニス・フィアセルを異世界の砂漠国への使者・・とする……期間は一ヶ月……これならお願いではなく、当初の私の要求を飲んだだけだ」


 ああ、クソ。そういう事かよ。

 隣のほっぴーが口を挟む。


「お言葉ですが、砂漠の女王は安定するまで爆弾を領域に入れるつもりはない、と」


「本当に?」


 教皇がほっぴーの瞳を覗き込む。

 気圧されたほっぴーがのけぞった。


 実際、あの言葉は冗談半分のようなものだ。砂漠の女王は本人的に冷徹を気取っているが、お代官さんと接し続けてだいぶ態度が軟化している。

 おそらくだが……安定する目途さえつけば俺を領域に入れてはくれるだろう。

 そのために治療師を連れ立つ必要があると言えば……それもおそらく通す。


「ふふ。相談は必要だろう。持ち帰ってじっくり考えるといい。私は、ゼニスを使者とするための準備と……ふむ。天の石の用意でもしておこうか」


 教皇が軽く手を挙げる。

 気付けば俺達は部屋の外にいた。


「やられたな」


「元はと言えば拾い食いをしたお前が悪い」


 ほっぴーに小突かれ、へらへらと笑う。

 しゃーねーだろ。死にそうだったんだから。


「結局は手のひらの上という事じゃの。とはいえ、悪いようにはならんさ」


 ドラグさんからぽんぽんと背中を叩かれる。

 分かってるよ。

 

「問題は砂漠の女王が意趣返しをしないかという点だが……」


 レオノラがぼそりと物騒なことを口にする。

 やめろよ。

 流石に教皇相手に無茶はやらない……よな?


 

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