表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過疎ゲーが現実化して萎えてます。  作者: ペリ一
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

312/338

嘘つき

「やめておきなよ」


「嫌だね」


 本当に俺1人で戦うわけじゃない。

 ドラグの援護射撃がある。


 先ほどまでの立ち回りはそこを軽視していた。

 ドラグの行動を予測して立ち回りに組み込めれば、時間稼ぎ程度ならできるはず。


「速度は大したものだけど、やっぱり魔力が……薄いね」


「うるせぇな」


 分かってる。そんな事は。

 立ち止まって何かの準備をしているGMの方向へ、魔女が動こうとする。


 銃声。

 ドラグの射撃を避けるために魔女が僅かに身を逸らした。


「信頼してたぜ」


 その銃撃から数拍ズラして、魔女に斬りかかる。

 当然対応されるが、斬りかかる角度が合っていれば問題ない。


「おっと」


 魔女の竜骨との鍔迫り合いに負け、わざと姿勢を崩す。

 崩すことで、俺の後ろにいたドラグからの射線が通る。


「む……そういう立ち回りするんだ」


 銃声。

 魔女の頬から一瞬血が伝う。


「ああ。この方が嫌だろ?」


 ドラグの位置を常に意識する。

 魔女とインファイトをやりすぎない。

 この2点を徹底して、とにかく魔女の足を止める。


「じゃあ、こうされたら?」


 魔女の姿が一瞬にして眼前に迫る。

 それが一番キツい。が、時間稼ぎの策ならある。


「こうすんだよッ!」


 蝿を展開。風の鎧もないコイツらでは到達前に分解される。

 そこを織り込み済みで、俺は内部に氷を仕込んだ。


「おっと」


 内部の氷を伸ばし、炸裂させる。

 これで目くらまし程度にはなった。


「この一瞬で十分だ」


 風を切る音と共に魔女の腹部を銃弾が貫く。

 流石はドラグのおっさん。隙を見逃さないな。


「凄いよね。私に通じる弾丸をこの頻度で――」


 血が舞い、それでも表情を崩していない。

 そんな魔女に対し、氷を盾状に生成して突進した。


「おらァ!」


 当然、盾はあっさりと分解される。

 想定済みだ。


「そっちから詰めてどうする気?」


 そして俺は短剣ではなく、拳を魔女の腹に叩き込んだ。


「うっ!?」


 確かな感触。通った。

 弱体化の弾丸を食らい、別々の物を同時に分解するのが難しくなった……ってレベルじゃねぇだろ。


「難しいんじゃない、もうできないんだろ」


 集中する場があれば可能かもしれない。

 少なくとも、戦闘中は不可能に近い。

 そんなところか。


「違うね。君相手だから、温存しているんだ」


「へぇ」


 今、俺の呪いが確かにコイツの心に入り込んだ。

 埃が入った程度のささやかな効果。だが、呪いが効いたという事実だけで十分すぎる。


 お前、俺の前で強がりを吐いたな?


 浅く息を吐く。

 速さなら届いてる。

 短剣、氷、拳、蝿。

 四種類の攻撃をフェイント混じりに繰り出す。


 時折読みを合わされ身が削れるが、問題ない。


「君らの世界では……ハイエナみたい、とかそう表現するんだっけ」


「口数多くなっちゃってんぞクソ魔女!」


 嘘だ。コイツの口数なんざ元から多い。

 それでも魔女の心には埃が入り込む。微かなノイズを生み出す。


 とにかく相手の視野を狭くする。

 俺に注目を集めろ。


「そんなに焦らなくても。今は君だけを見ることにしてあげてるよ」


 強者の驕り。上等じゃないか。

 油断も虚言も運も利用できるもんは全部使ってやる。


「でも酷いよね」


 竜骨による斬撃。

 短剣で打ち合うと見せかけ、薄く這わせた氷で力を滑るようにして流す。


「君は私だけを見てくれないの?」


 何かが弾ける音がした。

 腹部に熱がこもるような感覚。

 視線を下に向ける。


 はみ出た赤い塊はどこかの臓器か。

 真っ二つにされたわけでは無い。ただ何かが筒状に俺の左腹部を抉っていった。


「ばん」


 悪戯成功、とばかりに魔女が微笑む。


 痛覚遮断を貫通して身体が危険信号を伝えてくる。

 まずい。死ぬ。


 瞬間的に駆け巡った思考は、抱え落ちだけは絶対にしてやるかという意地。

 俺には切り札がある。レッテル貼りだ。

 使用後に動けなくなるデメリットはこの後死ぬんだから無いも同然。


「――」


 お前は。

 言葉に魔力を伝え、魔女を指し、虚言を張り付ける。

 

「ゴボッ」


 しかし、溢れてきたのは血。

 肺に血が入り込んだ? そもそも肺が破れていたのか?

 どれだけ思考しても結果は変わらない。


 魔女の竜骨が迫る。

 この刃は心臓を突き、俺の生命活動を止めるだろう。

 だから俺は、最期に少しでもダメージを与えようと氷と蝿どもを最大限に展開しようとし――。


「雑魚の中じゃマシな雑魚になったじゃねぇか」


 寸前で、全て圧し折られた。

 魔女の竜骨も含めて。


「時間稼ぎご苦労」


 拳聖の拳が魔女の顔に叩きつけられる。

 魔女の身体が一度地面まで叩きつけられ、弾みながら吹き飛んだ。


「下がってろ」


 拳聖に首根っこを掴まれ後方へ投げられる。

 俺は受け身も取れないまま床に転がった。


「ゲホ、う、おぇ……」


 ドラグが近づいてくる。

 何かポーションらしき物を飲まされる。

 世界がぐらぐらと揺れるが、多少マシになった。


「傷口を凍らせちょけ。それで少しの間はもつ」


 氷を這わせて止血する。

 気分は最悪だが、レオノラが来れば命はギリギリ繋げそうな容体にはなってきた。


「拳聖は何をしてる」


 単に殴り合ってるだけなように見えるが、わざわざ準備を行ったんだ。

 何かある。


「身体が重くはないか?」


 そう言いドラグが口の端を吊り上げる。

 重い? そりゃ重いだろ。こんな致命傷負って……いや、違うな。

 この重さは、馴染みがある。

 

「修練のギフト……」


「カカ、その再現じゃろ。似せただけの酷い出来じゃ。本人への負担も激しい」


 ドラグが銃を弄っていた手を止めた。


「ん、調整はこんなもんか」


 銃を構え直す。この修練のギフトの負荷下に合わせたのだろう。

 つくづく優秀だ。


「お前さんの戦うところを見てたよ」


「……はは、無様だったろ」


 ドラグの顔から薄い笑みが消える。


「いんや。立派なもんさ。ただ、最後に命を捨てて攻撃しようとしたのはいただけんな」


 射撃。

 拳聖の攻撃を流すために姿勢を崩した魔女の眼球に命中する。


「そんな覚悟を前提に回す作戦などあってはならん」


 射撃。

 跳弾を経て魔女の脇腹を抉る。


 はは。なんだそれ。


「自分の身体を弾丸にしてるようなヤツが言うかよ」


「……材料調達が億劫なだけさね」


 ドラグの座る場所には血溜まりができている。


 魔女が回避を優先するほど効果的な弾薬を、この頻度で撃つためには。

 何を犠牲にしなきゃならない?


「ああ、クソ……」


 壁に寄りかかりながら、無理やり立ち上がる。


「やめておけ」


「別に、今すぐ突撃するわけじゃねぇ」


 GMの奥の手をやった上で、微かに息が残ったなら。

 即座に追撃しなきゃならない。


「俺はまだ動けるからな。出撃準備はしとくってわけだ」


「そのザマで動ける? はっ……嘘をつけ」


 嘘。確かに嘘だ。

 でも俺の虚言は真実よりも信用できるんだぜ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あまりにカッコ良すぎる
[良い点] 限界を越えて戦う展開はやっぱり熱い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ