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過疎ゲーが現実化して萎えてます。  作者: ペリ一
本編

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281/338

氷像

 増援を問題なく捌き、後方では紅羽がマザー個体に対し優勢を維持したまま殴り合っている。

 処分薬の花火を打ち上げられるようになるのは時間の問題だろう。


 そう思って安心していたところに、ソイツはやってきた。


「なぁタカ」


「あ? んだよ」


「地響きしねぇ?」


 そりゃずっとしてるだろうよ。紅羽が暴れ回ってるんだからな。


 だが、一応前方のダニ頭の首を刎ねつつ耳をすませてみる。


「……んん?」


「な?」


 すぐさま氷を這わせてチェックする。

 ふむ、ふむ。これは。


「なんか巨体のやつが来てるっぽいな。トロールとかオークとかその辺がダニに支配されてんのかね」


「うわぁ。マジ?」


 いずれにせよ厄介そうだ。

 俺が突撃してぶっ殺してきた方が良いか?

 しかし時間的には紅羽のマザー個体討伐が間に合う可能性も……。


「おーい、ほっぴー! あとどのくらいでマザー殺せそう!?」


「あと10分は要る!」


「了解!」


 具体的な数値で返せるのは流石だが、どういう概算をしたのやら。

 さて、あと10分とのことだが。


「どうだ、ジーク」


「デカ個体が来たら防衛網食い破られるねぇ」


「やっぱそうだよな」


 動くか。

 短剣を構え、地面に再び氷を這わせる。


「お、滑走してく感じ?」


「ルート取りよろ」


「あいよ」


 ジークが銃を構える。

 魔王戦で見た時より装飾が増えているが……どうせ魔族のパーツでも組み込んだんだろうな。


「じゃあ暗殺すっかな!」


 滑走を開始。

 景色があっという間に流れていく。


 ダニ頭の間を縫うようにして奥へ進む。

 まずは姿を捉えて、一撃で殺れそうか判断したいところだな。


「見、つけ……たッ」


 明らかに突出した人影。

 同時に地響きと……その歩みに蹴散らされている他のダニ頭を発見する。


「……チッ」


 その個体は、あまりにも多くのダニに絡みつかれ、同化し、元々の巨体を更に大きなものへと変えられていた。

 ……せっかくなら、その顔も覆ってくれていれば良かったのに。


 ああ、クソ。

 なんで。


 なんで見覚えのある顔なんだよ。


「グレイゼルさん」


「……」


 俺の言葉に返答はない。当然だろう。

 ああ、畜生。最悪の気分だ。


 ギルドハウスがめちゃくちゃになってたんだ。

 知り合いは助かった、なんて都合の良いことは期待すべきじゃない。

 頭では理解してた。


「治療法は、もしかしたらあるかもしれない」


 氷を短剣に纏う。

 いざ直面するとこれだ。紅羽の気遣いを笑えない。

 

「でも、殺す。ここの防衛網が食い破られたら……どうなるか分かったもんじゃねぇ」


 それに、この町にいる時点で自分の手で殺すか、処理薬の花火で死ぬかの二択だ。

 いずれにせよ死ぬなら、俺の手でやってやる。


「悪く思うなよ」


 一気に距離を詰める。

 幸い周囲はグレイゼルさんの巨体に弾かれて空いてる。立ち回りはしやすい。


「なぁ、俺を殺そうとすることに引け目はないか?」


 傲慢のデバフが微かに反応する。

 ハハ、最悪だな。


 この呪いも、思いついた瞬間に試せるぐらいにはもう切り替えてる俺も。


 デバフが通って生じた隙。

 それを逃さず短剣を体表に滑らせる。


「凍えてきたか?」


「……」


 霜が降りたグレイゼルに向け不敵に笑う。

 ああ、呪いが通じる。


 判断力が。理性が残ってる。

 好都合な敵だ。これで殺しやすくなった。


 異音と共に棍棒のような物が振るわれる。

 周囲のダニ頭が吹き飛ばされるが、寸でのところで氷柱を立てて跳躍した俺には届かない。


「いい薙ぎ払いだ。一つアドバイスするとすれば、次はもっと狙った方が……うおッ!?」


 棍棒を素早く持ち換えてからの突き。

 かなりの練度だ。

 生前の技量が伺える。


「おいおい、当たってたら死んでたぞ。俺を殺したいのかよ」


「……」


 反応はない。

 だがデバフの通り方で分かる。

 半端に残った理性と争ってる最中だってな。


「動けないのは凍えのせいだけじゃねぇな?」


 いや、凍えのせいだ。

 内心の葛藤はあれど、身体のコントロールは完全に乗っ取られてるはず。


 少しでも騙せればいい。

 その騙りが、現実に変わる。


「正直なところ……」


 周りの雑魚をいなしつつ、グレイゼルに対しヒット&アウェイで氷を蓄積させる。

 どんどん動きが鈍くなる。

 それにつれてこちらに殺到する雑魚の数が増えてきた。


 そろそろ決め時か。

 俺は温存していた言葉を口にする。


「あんたにはガッカリだ。あんたらギルドは街を守ることも仕事だったはずだし、魔女の子捨て場が近い関係上、魔女への警戒度も高かったはず」


「数人程度は生き残りがいたみてぇだが、ハハ。全滅みたいなもんだろ」


 唇を軽く舐め、湿らせてから続ける。


「お前の怠慢だろ。どうせ攻めてきやしないと思ってたんじゃないか? お前のせいで皆死んだ。いや、お前が殺したようなもんだ。お前は誰一人守れないどころか、俺達という救援の手すら、今跳ね除けつつある」


 恐ろしいほどに浸透していくデバフの感触。

 ああ、やはり心がある獲物は狩りやすい。

 

「半端に乗っ取られてるのもおかしいな。自分がそっち側にいけばどうなるか想像はついたはずだ。何故そうなる前に自殺しない?」


「命が惜しかったか? 大勢殺した分際で?」


 そこで、グレイゼルの動きが止まる。

 顔周辺のダニがもぞもぞと動き、より露出した顔が震える唇で声を出した。


「タカ、さん……」


「すげぇな」


 致命的な隙を晒したグレイゼルの頭部に短剣を突き刺す。

 急激に氷が侵食する。


 ……コレが喋る瞬間。

 デバフの通りが急に悪くなった。

 理性を残していることが弱点になっていることに気付いたのか、あの一瞬で成長しやがった。

 あの表情と言葉は、俺を油断させるためのブラフだったってわけだ。


「さっきの発言は嘘だ。別に俺はあんたが悪いとは思ってない」


 凍り付いた頭部を蹴り砕く。

 往生際悪く暴れる胴体の攻撃をかわしながら、氷を這わせる。

 抵抗するだけの力は残ってなさそうだ。


「あんたは最善を尽くしたんだろうな」


 グレイゼルの動きがどんどん鈍る。

 身体が凍っていく。


「お疲れ様ってことで」


 そろそろ雑魚がたかってくる頃だ。

 さっさと離脱しないと。


「ま、今度会ったら飯でも奢ってやるよ」


 そう言って、俺は氷像と化したグレイゼルさんを蹴り壊した。



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― 新着の感想 ―
[一言] これは、つらいな…
[良い点] 十傑と言うかタカさん煽りスキルパネェっす!!! しかし言動が完全に闇堕ち側のムーブなんだよなぁwww
[一言] おいおいおいおいてめぇこのダニィ!(泣) あ、お待ちしておりました!
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