狩人の親子
「おいおい、この民家、かなり溜め込んでやがったぞ」
空き家の台所を漁っていた、バンダナを付けた男が歓喜の声をあげる。
「見ろ!缶詰だ!ひゅう!」
「本当か!?ちょっと俺にも見せろよ!」
その声を聞きつけたもう一人の男がどたどたと慌しく台所へ駆け寄る。
「へっへっへ。五つもある。折角こんな田舎までやってきたんだ、ちょっとくらい役得があってもいいよなぁ?」
「はっはっは!そりゃ全くもってその通り……」
どたどたと駆け寄ってきた男が、台所に居るバンダナ男に勢いそのまま覆いかぶさる。
「うおっ!?てめぇ、まさかソッチの趣味が……あ?」
ぬるり。
男の手に触れたのは、生暖かい液体。
後頭部をざっくりと矢で射抜かれた男の、血だった。
「……は?」
そのバンダナ男が最後に見たのは、奥の部屋の影から姿を現した――――
「うわぁ……」
無事東京に侵入した俺達は、一時的な拠点を求めて、ある民家に侵入していた。
まず玄関にいきなり死体。
まぁ一個くらい死体があっても仕方ない世界だよな。と無理やり自分を納得させ通り抜けた廊下の先にあったのがダイニングキッチンでダイしている二人の男である。
特に驚きもしなかった辺り、この現象の元凶が施した思考誘導は想像以上に強烈なモノだったらしい。
「タカ。これ明らかに他殺だよ」
「まあこんだけ見事に後頭部から矢生やしてたらそうだろうな」
俺とモータルがそんな不毛なやり取りをしていると、じっと床の血を見つめていたおっさんがこちらに顔を向け神妙な面持ちでこう言った。
「主殿。血の鮮度から見るに……死んでまだ数分も経過していません」
ほーう。するってぇと何かい?これをやった犯人はまだ近く……いや、下手すりゃまだこの家の中に居る、と?
「よし。帰るか」
「そうさせる訳にはいかんな」
くるりと玄関の方向へ足を踏み出そうとした俺に、ジャキッ、という音と共に冷たい殺気を感じる何かが向けられた。
「……まぁ待て。俺を殺したって良い事ぁねぇぞ。それとも何か?俺の背負ってる物資が欲しいってか?」
「物資は勿論貰う」
そう言い、姿を現したのは、猟銃を構えたえらくガタイの良い壮年の男と、弓を構えた素朴な顔立ちの少女だった。
「物資を貰った後はどうする?殺すか?……こう見えても厄介なスキルを持っててな。タダじゃ死なねぇ自信がある」
「人なんて銃で頭を撃てば終わる」
「ひゅー。殺す気満々じゃねぇか」
途端に殺意を溢れさせ始めたおっさんと、人形態のライカンを必死に手で制止しつつ、説得を続ける。
ちなみにモータルは興味津々といった様子で銃と弓を眺めている。おい。変な事すんじゃねぇぞ。
「何故、殺す?俺ぁお前達に危害は加えない。お前ら……いや、特にそこの女の子の精神衛生上、無意味な殺生は控えた方が良いんじゃないか」
「死体を見られた。援軍を呼ぶつもりだろう」
クソ、一応理由はあるみたいだな。しっかし、援軍か。どういう意味だ?
「援軍なんて知らない」
「シラを切ろうったって無駄だ」
「いや、俺達は単なる宿無しの憐れな旅人だ。どうすれば信じてくれる?」
おそらく、コイツは殺さずに済むならそうしたい。そう、考えている。
それはアイツの隣に居る少女の事を思っての事なのだろう。
いや、本当に助かった。俺は人殺しになんてなりたくないし、モータルにもなって欲しくない。
「……タグは、無いのか」
「タグ?」
「電波塔を守護してる連中の身分証みたいなものだ。……どうも付けてないらしいな」
「タグなんて知らんな。なんだったら服を脱いでやってもいい」
「……江藤さん」
「分かってる。命拾いしたな。行け」
「物資はいいのか?」
「……要らん。さっさと行け」
じゃあお言葉に甘えさせて貰おうか。江藤さんとやら。
タカ:都会こっわ
ガッテン:どうした?
タカ:なんか人狩ってる親子に遭遇してな。銃口向けられた
ジーク:一般人と魔王軍の違いが分かる優秀なハンターじゃん
タカ:なんか電波塔守護してる連中殺してたぞ
Mortal:銃欲しい
ほっぴー:日本で銃とかあんのか
タカ:猟銃と弓のコンビだったぞ
ほっぴー:へぇ
ジーク:かっこいいな
タカ:多分俺直撃したら普通に死んでたわ。まぁ避けるけど
ほっぴー:まぁ避けるけど(眉間に一発)
ジーク:ありそう
タカ:否定できない
ガッテン:おいただでさえ推定だけどこの中から一人死者出てんだから止めろよ
ガッテン:正直俺はお前らに死んで欲しくない
タカ:俺だって爆死なんてしたくなかった
ガッテン:そういう話じゃないんだよなぁ……
ほっぴー:実際あの人反応無いよな。死んだのか?
ジーク:カーリアちゃんが普通に殺した説ある
鳩貴族:掲示板にもそれらしき人物は見当たらないですし、死んだか、それとも……
タカ:財力的にそれなりの社会的地位持ってた感じするしその辺の処理で忙しいのかもしれん
鳩貴族:ふーむ
ガッテン:お代官さん、無事だといいんだが
「___に_____通信断絶!____!!」
慌しく無線で会話をしながら10人程度の集団が俺達が来た方向へと駆けていく。
「タカ。どうする?」
「どうするって、何がだ?」
「明らかにあの親子狙いだろ。殺すか?」
「どれをだよ」
どれを殺すのか、なんて問いが軽く出来る辺り、やはりこの世界は歪んでしまったのだなと強く実感する。
だがそんな思いは表に出さないよう気をつけつつ、狭い路地の中身体を捻りモータルの方へ向き直る。
「助けたら銃くれるかも」
「くれねーよ」
「うーん」
コイツは何故あの親子に拘ってるんだ。
「あの親子の事は忘れろ。助けたって何の旨味もねぇ。百害あって一理なしってやつだ」
「___!若い女もいるのか!いいねぇ!」
その瞬間。だったのかは、分からない。
あの女の子と自分の妹を重ねただとか、江藤とやらの言動の端々に漏れ出ていた娘への愛情だとか。
いや、単なる思考誘導による人殺しへの忌避感の薄れのせいかもしれない。
或いは――感情の無い、虫みてぇな瞳をしてたモータルの奥に、僅かばかり垣間見えた感情。
結局のところ、何が自分を動かしたか分からない。
だが俺は気がつけば言葉が漏れていた。
「行くか?」
「よっしゃ。やろうぜ」
その瞬間。モータルの瞳にギラつきが宿った。
……あれ、おかしいな。もしかして大義名分の元にPKしたかっただけとか
いやいや。流石に、な。無いよな?最低限の良心くらいあるもんな?な?
妙に機嫌の良さそうな足取りで電波塔の守護隊とやらを追跡し始めたモータルの後姿を眺めながら、俺はただひたすらに冷や汗を流していた。




