フラグ
「あは、冗談ですよ。良いリアクションしますね〜」
メイドが軽く笑ったあと、屋敷に向け歩き始めた。
慌ててそれに追従する。
「……使えるのか?」
メイドは答えない。
戸を開けて屋敷に入ったあたりで、ようやくメイドが口を開いた。
「いやぁ、はは。実際そこまで便利なことはできませんよ? 密輸に使えるかなーってレベルの転移魔法です」
「言っていいのかそんなこと」
「屋敷内の防備は完璧ですよ?」
なるほど。
ここなら内密な話もできるわけだ。
「じゃあ俺、耳出してていいかな」
「あ、それ私もー」
モータルと、ウェアキャットであるティークが本来の姿になる。
一応隠すのに労力使うんだったか。
休まる場所ができて良かった。
「ひょえー、獣人! いいですねぇ! 尻尾こねくり回してもいいですか?」
「殺されたいなら好きにやれ」
俺の忠告を兼ねた言葉に、メイドが眉を寄せる。
「残念です」
「ワシで良ければこねくり回してみるか?」
スルーグがにょいーんとスライム状の腕を伸ばす。
メイドがそれを見てごくりと喉を鳴らした。
「すごく……悪用できそうですね」
「はい禁止、おい早く部屋に案内しろ」
メイドが不服そうに口を尖らせる。
しばらく歩いてから、一つの部屋を指した。
「そちら処分室……ではなく、何故かそこで宿泊された方が不慮の死を迎える宿泊室です。タカ?さんはそちらで」
「てめぇに先に入らすぞコラ」
「嫌です。一応それ以降が通常の来客者宿泊用スペースですので、どうぞご自由に」
どんな来客想定してんだ。
……危険な部屋を予め言ってくれるだけまともかも、とか思ってしまったのが本当に最悪だ。
「タカさん、同部屋にしましょう!」
嫌です。
「エリーさん。俺も色々と荷物あるし、部屋数足りてないわけでもないからさ」
「そうですかね?」
そうですかね、じゃないよ。
「タカー、荷物部屋に置いたら街の様子見てくるね」
「おう、ふざけんな。俺もついてくからその場から動くんじゃねぇぞ」
まともな人間が俺しかいない。
苦労させられるぜ。
「エリーさん見張っといてくれ!」
「え? はい、わかりました」
俺は大慌てで荷物を置くと、モータルと共に街の散策に出かけた。
何故かメイドも同伴で。
「で、何でついてきた?」
おそらくバレないようにムカデ女も尾行してきているんだろうが、このメイドに関してはさっぱり分からん。
「お嬢様の駒に勝手に死なれると私が怒られるので」
「護衛か。そこまで強いやつに喧嘩ふっかけられるとは思えないんだけどな」
拳聖のことは除く。
俺の言葉に、メイドがいたずらっぽく笑う。
そしてゆっくり人差し指を唇に添える。
「嫌ですねぇ。異端審問に見つかったらだるいからに決まってるじゃないですか」
周囲の音が唐突に鈍くなる。
なんだ、これは。
「元々は地方都市でこそこそ禁術で稼いでたんですけどぉ、お膝元でガッツリやっちゃってるお嬢様に引き取っていただけたのでぇ」
コイツは。
「私の隠蔽に関する技術体系に、レオノラお嬢様からの情報と教育……目をつけられることすら無いでしょう。安心して観光なさってくださいね?」
禁忌について口にする時の目が、レオノラそっくりだ。
そりゃあ拾うし、律儀に屋敷を守って待つはずだぜ。
「……感謝する」
「素直で大変よろしいと思いますよ」
余計な口は多いがな。
それから二時間ほどか。
俺たちが街を歩く間、拍子抜けするほどに何も起きなかった。
タカ:報告。聖樹の国に到着
タカ:この書き込みは防備万端のレオノラの屋敷からやってる
ほっぴー:っしゃ、ナイス
ガッテン:おおー良かったわ。流石に心配でさ
タカ:なんか街並みが中世ヨーロッパっぽいのと日本っぽいのが混ざってカオスだった
タカ:並び自体はえらく整ってて歩きやすいんだけどな
スペルマン:たのしそう
Mortal:楽しかったよ
タカ:見る分にはな
鳩貴族:ふむ、確かそちらの世界は世界衝突を何度も経験しているのですよね。元は我々の世界に似た世界だったのでしょうか
タカ:聖樹からもたらされた知識らしいぜ
お代官:聖樹が異世界の情報を組み上げているのか? いやしかしなぁ
ほっぴー:他はどんな感じだった
タカ:教皇がひどかったよ
ほっぴー:はいはい類友類友
タカ:ぶち殺すぞ
ジーク:そっちの権力者ってそうなのー?
ほっぴー:こっちの世界の権力者がめちゃくちゃ真っ当に思えてくるバグやめてくんね?
七色の悪魔:一つ残念な事実も申し上げますと、現在我が国の権力者となると我々になってしまいます
タカ:真っ当ではねぇな!
ほっぴー:は?
ほっぴー:当たり前だろ大学生にこんな仕事振ってんじゃねぇぞ馬鹿が!!!!! 死ねや!!!!!!
お代官:いやまぁ、うむ。それについては私も説得を頑張っているのだがね?
砂漠の女王:第一、私はお代官様以外の人間が砂漠に入ってきている時点で不快です
砂漠の女王:あまつさえお代官様や一応お代官様から大事に思われている貴方方以外に自分勝手に統治されるなど……辺り一帯を消し炭にしてやりたくなります
お代官:統治というよりはだね、互助に近い仕組みなのだがね?
砂漠の女王:任命されたがっている方々はそう考えてはいない様子でしたよ?
お代官:ご覧の通りだ、すまんねほっぴー君
ほっぴー:わかってまーーーーす黙って仕事しまーーーーす
タカ:大変っすね
ほっぴー:異世界から帰ってきたらお前を素晴らしい役職に任命してやるから、必ず生きて帰ってこいよな!
ジーク:嫌がらせに死亡フラグ風の味付けですか、大したものですね
七色の悪魔:本気で不快にさせたい思いが伝わってくる力作……!
ガッテン:悪口批評家どっから湧いた?
スペルマン:両者が悪意に敏感すぎてこわい
タカ:仕事マジで嫌、帰りたくねぇ
ほっぴー:うるせぇお前も社畜になるんだよ
紅羽:でもお前、帰らなかったら異世界でエリーさんと新婚生活コースじゃんか
ジーク:俺、故郷に帰れなかったら結婚するんだ……
ガッテン:笑うが
ほっぴー:死亡フラグにそんな変則カウンターが存在してたまるか
スペルマン:どうせ故郷に帰れてもなんやかんや結婚させられてそう




