即落ち英傑
「ここが俺達の拠点だ」
「ほう……」
場所は移り、紅羽ハウス前。
「ふむふむ。魔術的にも良い立地ですね。早速中に……」
「あー、ちょっと待ってくれ。軽く中を掃除に。な?」
タカの目配せに、ほっぴーと紅羽が反応した。
「……俺も手伝うぞ」「あたしも」
「へ?あ、じゃあ俺も……」
「スペルマンはカーリアさんと喋っといてくれ。ちょっと待たせる事になりそうだからな」
「え、あー、うん。わかった」
「頼んだぞ」
無事スペルマンにカーリアを押し付け一旦紅羽の家に入る。
「……」
何やらスマホの画面を弄りだしたタカを怪訝な目で見つめる二人。
〔 魔王軍広報部(3) 〕
タカ:声は出さずにこっちで喋るぞ。あと怪しまれないように一応家の中をぐるりと周る
ほっぴー:外まで聞こえるか?
タカ:知らん。ただ警戒する必要はある。俺の推測だけど、カーリアは風魔系列の上位種なんじゃないか?
タカ:風魔法つったら声を運ぶくらいの事はやりそうじゃねぇか
ほっぴー:そういや俺とスペルマンに声をかけてきた時も、名前呼び合ってるの聞こえたとか何とか言ってたな。ドラドラとやかましく戦ってる最中に俺らなんかの声が聞き取れたのはそういう事か
タカ:かもな
紅羽:なんであたしの家なんだよ
タカ:じゃあ他の空き家に案内すんのか?
タカ:多分だけどよ、カーリアは対人特化だぞ。機嫌損ねると俺らがやばい
ほっぴー:ああ、わかる。レイドというより何ていうかな、対人向けのスキルが充実してそう。出現の仕方だってさ、急に顕れるんだぜ?あれ使われたら普通に殺されるぞ俺ら
タカ:そんな奴を騙してえっちな動画を撮影した猛者がいるらしい
ほっぴー:人間はな、所詮性欲の奴隷なのさ
紅羽:くだらねぇ会話してねぇで本題に入れよ。どうすんだこっから
タカ:撮影会かな
紅羽:お前まともじゃねぇぞ
ほっぴー:一旦撮影やってから考えるか
紅羽:お前らまともじゃねぇぞ
ほっぴー:ツッコミ役やらされてる紅羽カワイソス
紅羽:おい、家周り終わるまでに本題入るんだろうな?
タカ:正直見通しがつかない。つーか魔王軍広報部ってなんだよ。他にも部署あんのか?
ほっぴー:あるっぽい雰囲気だよな
タカ:俺らどういう立ち位置になるんだよ
ほっぴー:そら売国奴よ
タカ:売国奴通り越して売星奴なんですが
ほっぴー:売る星やつらってかwwwwwwwww
タカ:wwwwwww
紅羽:何笑ってんだ
ほっぴー:ちょっと待て。スペルマンから個チャになんかとんできた
タカ:え?マジか。何も話し合えてないけど一旦カーリアさん室内に入れるか?
ほっぴー:【画像データ(カーリアとスペルマンの自撮りツーショット】
紅羽:馬鹿じゃねぇの!?
タカ:草
ほっぴー:はしゃいでるってさ
タカ:かわいい
紅羽:いやお前ら冷静になれよ。魔王軍だぞ?悪の代名詞だ。実際に死者も出てる
ほっぴー:でもカーリアちゃんって妙に人間に取り入ろうとしてるんだよな。穏健派ってやつなのかも
紅羽:情に絆されてんじゃねぇよ!
タカ:情っつーかなんつーか
ほっぴー:色気に絆されてるんだよなぁ
紅羽:ますます始末が悪いわ!
ほっぴー:【画像データ(スペルマンとカーリアが犬風に加工された自撮りツーショット】
紅羽:ばっかじゃねぇの!?
タカ:かわいい
紅羽:かわいくねぇわ!
紅羽:ああいや、まあ、かわいいけどさ
ほっぴー:スペルマンが寒がってるからそろそろ入れてやれってカーリアさんが言ってるらしい
タカ:良い人かよ
紅羽:落ちるのが早過ぎるぞお前ら……
「……なんというか、がらんどうですね」
「カーリアさんが荷物持ってこれるようにスペース確保しといたんだってさ」
息をするように嘘を吐くほっぴーに呆れたような三人の視線が刺さる。
「そうなの?紅羽氏」
訂正。呆れたような二人の視線が刺さる。
「お、おう。そうだぞ」
三人の中でスペルマンはあてにならないという共通認識が出来上がりつつあるなか、カーリアが唐突に素っ頓狂な声をあげる。
「なんですかこれは!」
「ん?ああ、それはギターだよ。あたしが一時期練習してた」
ギターをべたべた触るカーリアを微笑ましげに見つめる紅羽。
「お前も落とされてんじゃねぇか」
「はっ!?あ、あぶねぇ……」
タカの突っ込みで我に返った紅羽が何かを振り払うように頭をぶんぶんと振った後、ずかずかとカーリアとギターの間に割って入る。
「演奏してみるか?使い方はあたしが教えてやるぞ」
「「やっぱ落とされてんじゃねぇか!!」」
「音楽……これはいいかもしれませんね」
「あたしより上達が早い……」
既に基本的な演奏をこなし始めたカーリアを驚愕の目で見る紅羽。
「カーリア氏、いいってどういう事?」
「魔王軍のテーマソングをつくりましょう」
床に座りスマホを弄っていたタカから、んふっ、という押し殺したような笑い声が漏れる。
「テーマソングの概念あるんだな……」
「はい!それにこの世界特有の楽器で演奏をすれば人類と我々の溝が少しでも埋まるかもしれませんし……」
「溝を、埋める……?」
「はい!私は魔王軍の中では穏便派なので、少しでも平和的な侵略を、と常々考えているんです」
タカ:平和的な侵略とは
ほっぴー:根本的な価値観のズレがすごいわ。やっぱ魔物なんやなって
タカ:もうちょい深いとこまで訊いてみるか
「そもそも侵略は何の為に?」
「あー……すみません。軍の機密事項に触れるのでその辺はちょっと」
「そうですか。一応俺らももう魔王軍なはずなんですけどね」
「ここは譲れない部分ですので」
それを聞き、肩をすくめるタカ。
そして他の三人にどうする?といった意味合いの視線を投げかける。
「うーん。じゃあカーリア氏。とりあえず魔王軍のついったーアカウントでもつくろうよ」
「ちょっと待て。そういう意味のどうする?じゃない」
「そうなの?」
「……タカ。もういい。一旦アレだ。広報部としての業務をこなそう」
「紅羽……諦めんなよ……」
口ではそう言いつつももぞもぞと集まり企画会議を始めるタカ達。
その様子を興味深げに眺めていたカーリアがぼそりと呟いた。
「給料、どうしましょうか」
「え?あるの?」
タカの言葉に、心外だ、といった表情を浮かべるカーリア。
「勿論です。しかし、こちらの通貨を渡したところで使う機会もないでしょうし……」
「あ、なら魔物の素材とかでいいんでね?」
「天の魔石くれ」
タカとほっぴーのド直球過ぎる要求に慌てて紅羽がフォローを入れようと口を開きかけた。
「いいですよ。そうですね、天の魔石に関しては軍の方でも使いますから……月に一つ程度であれば支給が可能です。魔物の素材に関しては一日に一つは何かしらお譲りします」
紅羽の開きかけた口は、カーリアのその言葉により、更にあんぐりと開く事になった。
「……それって……」
ログインボーナスじゃん。
タカの呟きにも、カーリアの提案にも、異を唱える者はいなかった。




