距離感
「ァ……」
ズタ袋くんの喉を絞められたような声を背に、店を出る。
かなりの数を買ってしまった。
「どうしましょうか。一旦帰って荷物を置いてきますか?」
「そうですね……」
流石に武器やら何やらをパンパンに詰めた状態でデートは厳しい。
エリーさんの言う通り、一度レオノラの研究棟に帰った方が良いだろう。
数分後。レオノラの研究棟に着く少し前で、モータルに出くわした。
「おおっ、久しぶり。今何やってんの」
「クエスト終わったから、帰って寝ようかなって」
「……へ、へぇー」
昼帰りってどんだけハードな依頼だったんだ。
そこまでやるくらいだから報酬は良いんだろうが……。
「報酬金でこれ買ってきた」
「ん? あー……天の石か」
こっちの世界じゃ燃料代わりなんだっけか。
「高かったんじゃないか?」
「うん」
その金で食料なり装備なりを買った方が有用だからなぁ。
ガチャに貢ぐ気にはなれんかったが……モータルが自分で稼いだ金だ。文句は言うまい。
「俺だけさ、居ないじゃんか」
「何が?」
「使役してる魔物」
「あー……」
ライカンは、まぁ、な……。
「タカはまた新しいの育て始めたじゃん。俺もなんか育てたくなっちゃって」
「そんなペット感覚で育てられるもんじゃねぇぞアレ。育てるってか憑りつかれてるみたいなもんだからな」
「スタンド?」
「そういう事じゃねぇよ」
ちょっと待てよ。そういう事か?
いや流石に違うわ。普通に悪霊だわあのムカデ女。
「てか単発で育成するに値する魔物引くのは厳しくないか?」
「まぁ何きても育てるよ」
またまた~。どうする? ゴブリンリーダーとか引いてみ?
育成マジで虚無だぞ。
「あの、タカさん。先ほどから何を……?」
「あっ」
ガバった。
待て待て。まだ誤魔化せる。
「レオノラの能力の一端です。あまり詳しい事は俺達も把握していませんが」
「はあ」
「救世の兵の能力はご存じですよね? アレの応用らしいですよ」
「なるほど」
よし。それっぽい。
忘れない内に、この嘘をさっさとレオノラ側にも仕込んでおかないとな。
モータルが足早に研究棟へと入っていく。さっさと召喚をしたいのだろう。
それに続くようにして、俺達も研究棟へと入った。
「おかえりなさいませ。部屋はしっかり鍵付きに改造させていただきました」
「おおー。何故今言った」
「なので、エリーさんが朝起こしにくる、というイベントは金輪際発生しません」
「あのさぁ」
「激昂する可能性を考慮して発言しています」
その言葉添えてりゃいいって問題じゃねぇ!
「あーうん。エリーさん。朝起こしにこれないのはそこのムカデ女も一緒だから」
「……そうですか」
「そうでしょうか?」
「甲殻全部剥ぐぞてめぇ」
頼むから刺激しないでくれ。
何がしたいんだ。
恐る恐る、エリーさんの方を向く。
「あの……えーっとですね」
にこりと微笑み返された。
いやぁ、ははは。すいませんねホント。
「急用を思い出したので帰ります」
「えっ!? いやいやいや、エリーさん! 流石にそれは!」
「帰ります」
有無を言わさぬ勢いでエリーさんが研究棟を出て行く。
おいおい。
ムカデ女を睨みつける。
「どういうつもりだ?」
「あの方と距離を詰めすぎてはいけません」
「んな事は分かってるよ。でもな、出自が出自だろうが。少しぐらい楽しい思い出をだな」
ムカデ女がぐいと俺に迫る。
な、何だよ。
「いえ。貴方の内面と、魔女側からの知識の断片からの推測ですが。そのような甘い考えでは破滅しますよ。彼女もろとも」
「……俺の意志に従うために作られたんじゃないのか、お前は」
「ええ。貴方の本当の意志の完遂。その邪魔になるのが彼女です。距離感は適切にお願いします」
本当の意志、ね。
「天秤にかけろってか?」
「はい。経験がありますよね。モータルさんと、他の領域民で」
「……結局全部拾っただろうが」
「はい。それはモータルさんを選んだ結果の付属品ですよね」
「……」
「意志を完遂した、その先での事。端から領域民を優先していれば、両方拾うというのは無理だったでしょう」
「それは……」
反射で否定しようとしたが、ムカデ女の言う事の正しさは理解できる。
今やる事か? という話なのだろう。
「納得しましたか」
「……まぁ、な」
「意志を完遂した後、それでもなお彼女を愛したいのであればサポートしますよ」
「いや、それは無いかなぁ」
「無いのですか」
うん。
だって怖いし……。
「お似合いだと思いますよ」
「え? 何? エリーさんも狂気に陥ってんの?」
「まぁ、はい」
最悪すぎる。
まともな人間は居ないんですか?
「まともではありますよ。タカさんも含めて、致命的なかけ違いが発生しているだけですから」
「……お前も?」
「私は狂うほどの自我を持っていません」
言うほど自我無いか?
あくまで俺を軸にした判断しか見せてないとは言え、段々感情がこもってきてるように思うぞ。
「それは気のせいでしょう」
「ふーん」
まぁいいや。
距離を保て、とは言ったが不仲になるのも良くないはず。
エリーさんへのフォローも考えないとな。
「なんか良い方法ない?」
「ふむ。私の分析では、モータルさんとの会話による疎外感と、私との会話から感じた置いてけぼりの感覚が作用して、あのように機嫌を悪くしたのだと思います。なので、そうですね。少し、パーソナルな話をするのが良いかと」
「距離感詰まりすぎないかそれ」
「そこは私のアフターケアで何とかします」
アフター……ケアか?
いや、リスクのケアと思えばその言葉も正しいか。
「ふむ。時間はどのくらいあけた方が良い?」
「今日すぐ、というのは……いや、夕食に誘うぐらいのタイミングが良いと思いますよ」
「そうか」
それまでは、どうするかな。
買ってきた装備のチェックでもするか。
「あと、もう一点」
「何だよ」
「そうやって素材を集めただけでは呪術は完成しません。前提条件を満たせただけです」
「はぁ?」
マジかよ。
「私では信用できないでしょうから、聖女レオノラに助力を頼んだ方が良いでしょう」
「レオノラに、ね。了解」
どちらにせよ、買った装備の具合は試さなきゃならん。
俺はムカデ女に背を向け、自室へと向かった。




