器用貧乏の防衛戦線
皆さん!!!!! 書籍の発売日!!!! 明日らしいっすよ!!!!!!!!
アニメイト、とらのあな、ゲーマーズ、メロンブックス、一部一般書店(書泉ブックタワー、書泉グランデ)
上記のチェーンにて購入すればおまけの書き下ろしSSも貰えるんですって!!!!!!!
「頭だ、頭! 頭を狙えっ!」
「んな事分かってるよアホ!」
「キュ、ルロロロロ」
百足の頭部付近が大きく反る。
まずいな、俺の見立てだと――。
「各自、散開だぁッ!」
ブーザーに言われるまでもなく、その場を飛び退き、可能な限り距離を取る。
「ロロロロロッ!」
しゅーっとデンジャラスな音を立てながら、俺達の居た場所に煙が溜まる。
触れて気持ちの良い物ではないのは、確認するまでもなさそうだ。
「ロロ……」
煙が晴れる。
出来ていたのは、大きなクレーター。
「採掘用ってわけか」
「ロロロロロ」
巨大百足は、あっさりかわされたのが不愉快だったのか、今度は直接的手段に出てきた。
バリバリと小石が轢き飛ばされる音と共に、百足がこちらに向け直進してくる。
「また俺かよッ!」
肉迫する頭部。
牙だけはすんでのところで回避し、そのまま頭部にぶら下がる。
「ロロロロロッ」
俺を頭部に乗せ直進しつつ、百足が煙を垂れ流す。
「盾が無きゃ即死だったな」
遮断し切れなかった煙に身体を焼かれつつ、ポツリと呟く。
『癒えよ』
止血だけは済ませ、これからの作戦を考える。
「とりあえず乗ったら攻撃は常識ってな!」
手持ちの短剣を百足の頭部に思い切り突き刺す。
浅い。だが何度も突き刺し、確実に百足の頭部を掘っていく。
「ロロロ」
瞬間、ふわりと身体が宙に浮いた。
思い切り頭を振られ、吹き飛ばされたと気付く。
「ま、ずいな……ッ!?」
空中で身動きを取る手段は持っていない。
回避手段は。
魔女から植えられた何かの知識が、頭の中を駆け抜ける。
おそらく、あるには有るはず。
だが、検索が。俺の脳の処理が追いつかない。
「クソ、ぉおおおおおああああ『盾よ』ッ!」
百足の牙が近付く。
盾を使ってうまくいなすしかねぇッ!
俺が覚悟を決めたその時。
俺と百足の間に、一つの影が差した。
モータルだ。
「ロ……ロロロロロ」
牙をその剣で防ぎ、そのまま錐揉みの如く回転。
頭部にて、百足の触覚の一本を斬り落とした。
「ロロオロ、キュ、アァアア……ッ!」
触覚を失った事でバランスが保てなかったのか、百足の噛み付きは、俺のはるか下の軌道を通っていった。
「っと、あぶねぇッ!」
棘だらけの身体の上に落ちかけたのを、盾で弾き回避する。
盾が破れる音を聞きながら、地上へ落下。
「ブーザーぁあああああ! 俺を何とかしろぉおおおおお!」
「はぁああああああ!?」
ブーザーが怒号を発しつつも、俺の落下地点へボールを投げる。
そのボールは地面に触れると、瞬時に膨らんだ。
「うぶッ!?」
そのエアクッションに沈み込むようにして着地する。
「着地したはいいが抜け出すのがそこそこしんどいぞ!?」
「短剣で割れッ!」
言われるままに、短剣でクッションを裂く。
小さく破裂音が響き、あっという間に俺を包んでいたクッションがちぢれたゴム切れになった。
「それ高ぇんだからなッ!」
「なら割らせんなッ!」
「そういう道具なんだよチキショウ!」
そんな会話をしている間に、何か飛んできたので、反射で斬り伏せる。
……小ムカデ?
小さいといいつつも、人間大くらいはあるわけだが。
「んだよコイツら」
「真ん中見てみろよぉ」
「……はいはい、なるほど」
真ん中にあったはずのてらてらと光る球状の物は消え、代わりに、夥しい数の百足がそこから這い出ていた。
どうやら、表面に見えている物が全てではなかったらしい。
「ちょっと掘って、その中にギッシリって感じだろぉなぁ」
「おえ」
キッツいなマジで。
「ちなみに、俺が知ってたのはそのチビ魔物の方だ。そのサイズで、まだガキだとは思えなくてなぁ」
「そうかよ」
「数は多いが、大した強さじゃねぇ。あのデカブツはてめぇのツレに任せて俺らは雑魚処理と行こうやぁ」
「あいよ!」
さっそく飛びかかってきた一匹の頭部を短剣で掻っ捌きつつ、じりじりと下がる。
「接近戦したら負けじゃないかこれ」
「囲まれて終わるなぁ」
『杭よ』
杭が打ち出され、一匹、子ムカデを仕留める。
「いいねぇ、んじゃあ俺も遠距離攻撃にすっかなぁ……!」
ブーザーがバッグからまたもや容量を無視したようなサイズの物を取り出す。
見た目は……ピッチングマシン?
何でも入ってんな、そのバッグ。ドラえもんかよ。
「らァッ!」
手持ちのレンチで地面を破壊。
出来た小石をそのピッチングマシンに詰めていく。
「てめぇも見てねぇで戦えッ!」
「あ、悪い……『杭よ』」
杭をせっせと撃つ。次から次に百足が吹っ飛ぶ。
これちょっと楽しいな。
やがて、準備が整ったのかブーザーが上機嫌に叫んだ。
「待たせたな多脚の怪物どもォ! ショータイムだッ!」
ポン、ポン。
この場には滑稽なその音が鳴る度、地を這う百足が一匹。時に数匹。
とんでもない速度の石が当たり、ちぎれ飛ぶ。
「ひゃははははははははは! ははははははははッ!」
「初撃の時の爆弾使った方が良くないか?」
「アレは高ぇから使わねぇ!」
ケチな野郎だ。
勝てる算段がついたとも言うが。
『杭よ――杭、よ――』
景気よく魔法をぶっ放していると、脳裏にノイズのような物が走った。
ひょっとしなくても、魔力切れかこれ。
「ブーザー! 魔力が切れそうだ!」
「はぁ!? 魔法学校初等生だってあと三十分はもつぞぉ!?」
知るか。
「俺は元々、前衛なんだっつーの! 魔法は専門外だッ!」
「クソ、器用貧乏め」
お前も大概そうだろ。
「魔力回復薬はねぇのか!?」
「それは高いから使いたくねぇ!」
クソ。ケチすぎる。
「これでも使ってろッ!」
そう言って投げ渡されたのは……ラッパ?
「俺が今撃ってるやつのちいせぇ版だ! 威力は低いから一撃じゃ殺せねぇが、足止めにはなるッ!」
モータルがいくつかの石ころをこっちに蹴飛ばしてくる。
まぁ無いよりマシ、か。
「っしゃ撃つぞッ!」
巨大百足と戦うモータルを横目で確認する。
モータルの立ち回りもあるが、巨大百足の方もこちらへ来るのを避けているように見える。
やはり、わざわざ守っていた子を自ら潰すのは抵抗があるらしい。
石の弾丸をぶっ放すが、やはり威力が低い。
クソ、ブーザーの野郎。金にうるさい野郎だ。勝つギリギリのラインを分かってやがるのも腹立たしい。
……ちょっと待てよ。金、か。
「ブーザーッ!」
「んだよッ!」
「昔、こいつを狩った時は、素材にどのくらいの値がついた!?」
「……っとぉ。俺とした事が、すっかり忘れちまってたぜぇ」
ブーザーにいつものニヤケ面が戻る。
「あんな上質な鎧の素材がぁ……数え切れねぇよぉ……ひゃははははは! 喜べッ! やっぱこの依頼は最高だぜぇッ!」
やっぱりか。
「魔力の回復薬は!?」
「チッ、しょうがねぇなぁ!」
ブーザーが小瓶を投げ渡してきた。
それをキャッチし、一気に飲み干す。
まッッッず……。
「なるべく頭だけ潰して殺せよッ! ひゃははははは!」
「了解ッ! 『杭よ』ッ!」
杭をぶっ放しながら、ブーザーと共に笑う。
勝ったなガハハ!