出国前の小銭稼ぎ
タカ:こんばんは
ほっぴー:あっ、怪物だ
タカ:心は人間ですが
ほっぴー:心こそ人間じゃないでしょ
ガッテン:中身と外身がやっと合致した感じ
ジーク:山月記じゃん
ほっぴー:その声は我が友、タカではないか?
タカ:食い殺すぞ
ジーク:名作即終了シリーズじゃん
Mortal:聖樹の国に行くことになった
タカ:あ、そうそう。そうなんですよ。なので暫く帰れません
ほっぴー:何エンジョイしてんだ殺すぞ
ガッテン:殺伐としてんなぁ
紅羽:へー
タカ:あっ
タカ:いや違うんですよ、魔女を倒すまで行方不明になるわけにはいかなくてですね
紅羽:一回も帰れねぇの?
タカ:一回ちょっと顔出すくらいなら不可能ではないけど
タカ:いや、ちょっと待てよ?
タカ:天才的発想が降りてきたかもしれん
ほっぴー:はあ
ジーク:ろくでもなさそう
紅羽:今の内にグルから蹴っとく?
タカ:なんでだよ
タカ:砂漠の女王居るか?
砂漠の女王:わたくしも暇ではないのですが
タカ:転移って、聖樹の国周辺いけたりする?
砂漠の女王:転移先に異端審問官が待ち構えていて、火あぶりにされるでしょうが、可能ですよ
タカ:あっ……そうですか……
ほっぴー:仮に転移が安全にできたら何する気だったんだ
タカ:馬車で移動した場合にかかる時間分、領域内でごろごろして、移動自体は転移でやろうかなって
紅羽:あー……
ほっぴー:さすが生粋のサボり魔は発想が違うぜ!
ジーク:こういう発想の積み重ねが人外化に繋がっていくんだなぁ
好き放題言いやがる。
お前達も人外に足を半分突っ込んでいることを懇切丁寧に説明してやろう。
そう俺が意気込んだ時、部屋の戸がコンコンと音を鳴らした。
んだよ。
「タカー。なんかお客さん来てるけど」
「またかよ」
まぁレオノラの出国準備が整うまで暇だし、構わないけどよ。
「誰だ?」
「なんか酒臭い人」
ブーザーか。
一気に行きたくなくなった。
「んー、ちょっと待ってくれ」
「分かった」
モータルの声が遠ざかる。
「どうすっかなぁ」
俺がそのまま部屋でぐずっていると、瓶が割れるような音が聞こえた。
嫌な予感がし、慌てて部屋を飛び出す。
「んだテメェッ!」
「……」
剣を構えたモータルと、割れた酒瓶を握ったブーザー。
何となく察しがついた俺が、慌てて二人を止める。
「止めろッ! 室内だぞッ!」
「問題そこかよ!?」
珍しく酔いが浅いらしいブーザーに突っ込まれた。
数分後、双方を落ち着かせ、とりあえず会議で使っていた席に座らせることに成功した。
「だはははッ! 流石にちょっとビビっちまったぜぇ!」
ブーザーが機嫌良く笑う。
「……んで、何の用だったんだよ」
「あぁ、そうそう」
懐から取り出したのは……依頼書?
「おいしい依頼があったんでなぁ。どうだ、一緒に」
とりあえずその依頼書をひったくり、内容を確認する。
なになに。
多脚の異形の魔物討伐ねぇ。
報酬は……おぉ、すげぇ。こっから聖樹の国を10回近く馬車で往復できる金額だ。
「ただ、名称がついてねぇって事は、未知の魔物なんだろ? 危険じゃないか?」
「ひゃは、俺を誰だと思ってんだぁ……んん?」
「酔いどれダル絡みクソ野郎」
「言い過ぎだろ」
いや全然言い過ぎてませんが。
「……俺ぁな、別の街で同じ魔物をぶっ殺した事があんだよ」
ふむ?
「まだ名前がついてないだけで、未知の魔物ではない?」
「ご名答っ! だが冒険者ギルドはそれを把握してねぇときた! こいつぁ、こんな高ぇ報酬がつくような大層な魔物じゃねぇってのによぉ!」
ブーザーはご満悦だ。
だが確かに、それが事実ならおいしい依頼だ。
「どうだぁ? やるか?」
横のモータルと目を合わせる。
ふむ……。
「どうする?」
「タカが行くんならついてくよ」
「そうだなぁ」
出国準備、一週間ぐらいはかかるつってたしな。
一回ぐらい小銭稼ぎをやるのも悪くない。
「その話、乗った」
「だははははッ! いいねぇ!」
ブーザーが膝をぱん、と叩き立ち上がる。
酒臭い。
「奴が好みそうな穴倉の目星ぁ付いてんだ。早速向かっちまおうぜぇ」
「……なるほど、今日中に狩る予定だったからいつもよりは酔ってないのか」
「その分、夜はいつもより吞むんだけどなぁ! ひゃははははッ!」
そうですか。
自分の装備を確認する。
ふむ。まぁ短剣がありゃ何とかなりそうだが……。
「何か必要な物は?」
「んあ? あー……武器がありゃあ大丈夫だ。他に必要なもんがあっても俺がカバーできるしなぁ」
雑だなぁ。
そんなに強い魔物ではないようだからこその余裕かもしれないが。
「ヤバそうだったら即時撤退すっからな」
「たりめぇよ。俺だって伊達に長いこと駆除区分の依頼こなしてねぇぜぇ」
そんな会話をしながら、研究棟を出た。
数分も歩けば、冒険者ギルドが見えてきた。
「よぉし」
ブーザーが意気込んだ様子で、受付カウンターまで歩いて行く。
「ほらよぉ、この依頼、俺達が受けるぜぇ」
吐き出した息が酒臭かったのか、ギルド員が顔を背ける。
「……分かりました」
手早く受理を行う。
臭いからさっさと離れて欲しかったのだろう。
「ひゃはは、お仕事ご苦労っ!」
ギルド員におちゃらけた様子で礼をした後、ブーザーが俺達の方にずかずかと戻ってくる。
「出発だぁ。サクッと殺して呑みに行くぞ」
「俺は呑まん」
「じゃあ横で飯でも食ってろ」
ギルドを出ながら、会話を続ける。
「んじゃあよぉ、そこの横のお前はどうなんだぁ? 呑もうぜぇ、せっかくだしよぉ」
「いや、モータルは……」
あれ、モータルって成人してたっけな。
「モータル。お前……いくつだ?」
モータルは一度首を傾げた後、答えた。
「そういやこの前、二十歳になった」
えっ。
……え?
「あぁ? 酒に年齢なんか関係ねぇだろぉがよぉ。飲め飲め! パーっと騒ごうぜぇ!」
「とりあえず俺の介護が間に合わないからモータルは飲酒禁止な」
「分かった」
「んだよチキショウッ!」
よし。
それにしても……誕生日、か。
言ってくれりゃ祝ったものを。