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魔女の鍵

カウントダウン、三日前ぐらいからやれば良くね?



 気を取り直し、魔女の森に足を踏み入れる。


「斥候は……モータル、頼んだ」


「了解」


 ゲームの頃じゃ俺は斥候寄りの役回りだったんだがなぁ。

 そんな事を考えながら、俺はいつでも戦闘に入れるよう、短剣を抜刀した。


 不気味な静けさに満ちた森を、ゆっくりと、しかし確実に進んでいく。

 張り詰めた空気の影響もあってか、時の流れが遅いように感じる。


「前方から尻尾が棘まみれの猫が来るよ」


 短剣を握り直す。

 歩みは止めない。


 じりじりと前に進んでいると、草むらをかきわけ、一匹の猫が出てきた。


「にゃぁ~お」


 若干でかい以外は、普通のミケ猫だ。

 直後、その体長の十倍はあろうかという棘付きの尻尾が草むらから飛び出してこなければ。


「まずいッ!」


 ブワッと、視界が黒点で埋め尽くされる。

 瞬時に、その黒点は、猫の尻尾から射出された物であると理解する。


 避けられる距離じゃない。短剣で弾ける密度でもない。


 詰み、はやくねぇか?


 そんな思考に辿り着いた刹那、正面に青い半透明のシートが展開した。


 何本か貫通してくるが、半数ほどが勢いを失い地面に落ちる。

 ここで退くのは……悪手だな。


「スルーグさんッ! 通るぞ!」


「――――」


 シートに俺が通れるぐらいの穴が開く。

 そこに滑り込むようにして、通り抜け、あっという間に猫を射程内にとらえた。


「死ね」


「にゃ~ん」


 猫が、俺の斬撃を爪で受けようとする。

 

「甘いんだよッ!」


 爪を出してきた前脚を斬り飛ばす。


「フュルァッ!」


 次は口をかっぴらき、牙を射出してきた。

 スライディングしながらそれを避ける。


 喉元はもっとしっかり守るんだったな。


「ギ、グゲェアアアア!」


 回避ついでに懐に潜りこみ、喉を斬り、心臓があるであろう場所も突き刺す。

 トドメとばかりに心臓に刺した短剣をぐい、とねじる。


「ガ、ア」


 猫っぽい化け物が沈黙した。

 

「重っ」


 その死骸の下からずりずりと這い出し、他の奴等の無事を確認する。


「大丈夫でしたかね?」


「それはこっちのセリフなんじゃが」


 そう言われ自分を見る。

 血塗れだ。


「まぁ、全部返り血なんで」


「うぅむ……」


 なんか納得いってない顔だが、これでもスムーズに勝った方だ。

 そんな様子じゃ後が思いやられるぞ。


「タカ。その調子だと着く前に三回くらい死ぬよ」


「マジ? じゃあ控えるわ」


 先が思いやられるのは俺の方だった。


「タカさん、おそらくスルーグさんが耐えて私が地中から突撃、というのが一番勝てると思うので……」


 俺ここでも介護されなきゃいけないの???

 いや、別にいいけど……ほんとに別にいいけどさぁ!


「タカは多分、対人戦向けな性能だと思う」


「あぁ、うん。フォローしてくれなくていいよ。しゃーないな。俺は黙って見てるわ」


 俺がそう言うと、スルーグさんとエリーさんが満足げに頷く。

 その後、二回ほど戦闘があったが、スルーグさん達捨て子の連携で難なく撃破した。


 本日三回目の戦闘を終え、しばらく歩いていると、見覚えのある洋館が姿を現した。


「魔女の館だな」


 俺の呟きを聞いたスルーグさんが、急ぎ足で館の扉に向かう。


「む? 扉が開かぬぞ」


「マジかよ」


 俺達も慌てて、扉の前まで移動する。


 俺の手の甲の痣が、疼いた。


「ちょっと俺開けてみます」


 扉からは、何の抵抗も感じない。

 俺は、一息に、扉を開け切った。


「……いらっしゃいませ、お客サマ。魔女はただいま研究に没頭しておりますので、対応ができません。客間で茶でもお楽しみくださいませ……はぁ」


 見覚えのある男――異世界管理局の末端組員だったらしいシュウトが、棒読みで出迎えの言葉を口にした。

 シュウトは俺を見るなり、口の端を歪めた。


「なぁ、魔女に俺を解放するように言ってやってくんねぇか」


「うるせぇ、知らん。あー、スルーグさん達も入って大丈夫ですよ」


 全員が入った時点で、扉が勝手に閉まった。

 便利だな。


「じゃあ今すぐ俺を殺してくれよ。肉体があるのってやっぱ不便だわ。ふわふわ漂って監視やってたのが懐かしい」


「その霊体ごと殺せる手段を見つけるまで待ってくれ」


「はははは! 魔女に聞けばいいんじゃねぇの、多分知ってるぜ」


 どうでもいい。


 俺は、茶色い革製っぽいソファーに腰掛けた。

 背負っていたバッグも足元におろす。


「あとどのくらい待てば魔女と会える?」


「あぁ? 一日待つかもしんねぇなー。ま、気長に待てや」


「気長に待てる状況じゃねぇ。呼んでこい」


「そんな事したら俺が殺される」


「殺されてぇんだろ? 本望じゃねぇか」


「んー、ちょっと違うんだよな」


 そう言いながら、シュウトがテーブルに茶碗を並べる。


「とにかく、早めるのは無理だ。茶でも飲んで待ってろ。飯も出してやるし、布団も貸せる」


「……」


 魔女は理屈が通じる相手じゃない。

 誰に何をされようと、自分のやりたい事をやりたいだけやるだろう。シュウトを送り出したところで、情け容赦なく殺して終わりだ。


「スルーグさん。待つしかない」


「な、なんじゃと? そんな――」


「わめいたって、今の俺達に魔女を動かすほどの力は無い。そもそも、徒歩で行く予定だったんですよね? ならまだ早く事が進んでる方じゃないですか」


「……そう、じゃが、しかし」


 スルーグさんの顔が苦渋に歪む。

 申し訳ないが、俺はこれ以上言えることはない。


「おい。俺の煎れた茶、飲まねぇのかよ」


 そう言われ、正面のお茶を手に取る。


「変なもん入ってねぇだろうな」


「あぁ? そんな権限が俺にあるわけねぇだろ。もし穴をついて毒殺したとして、後でキッチリ俺も殺されて終わりだ」


 そうか。


「じゃあ飲むわ」


 ゴク、と一口。

 ……後味が独特だ。俺個人の感想としては、美味い。


「ははは、どうだ。伊達に虚空に向かって三日三晩やらされてねぇだろ?」


「そんな事やらされてたのか……」


「魔女のやつ、俺に雑に命令与えて部屋に篭りやがった事があってな。いやー、流石にちょっと精神が削れたぜ、アレは」


 コイツ、よほど話し相手に飢えているんだろうな。

 

 止まらないシュウトの愚痴を聞き流しながら、俺は今後の計画について再度考えていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 虚空に向かって三日三晩同じ作業はキツイ! 心なしかいつもの煽りにもキレがない。 『異能×屍』から読んでいる身としては「ざまぁ」ですけど。
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