ドキッ! 地雷まみれのお泊まり会
もう他のやつに意見を募るのは無理だ。
難易度が高すぎてすぐネタに走り出してしまう。
俺は溜め息をつき、掲示板魔法を閉じた。
情報も整理し、自分の持ってる札も確認した。
これ以上どうすればいい?
「……魔女のことをもっと知るべきか」
魔女の視点。魔女の見る世界について考えるしかない。
俺を気に入ったのは何でだ?
理想に、賛同したからか。
「その方向で考えるか」
ダニの散布が理想に反するものであると、説き伏せられれば良い。
思い出せ、魔女の発言の一つ一つを。
……。
「…………よし」
思いついた。
下手をすれば今以上の地獄になるが、時間は稼げる。
「その後が問題だな」
それも考えておきたい。
だが、魔女の返答次第で対応方法がコロコロ変わるから厳しいかもしれないな。
そんな事を考えていると、俺の部屋の戸がノックされた。
「誰だ?」
「タカ、スルーグ達が着いた。今玄関でレオノラと喋ってる」
「そうか」
そういやレオノラに伝え忘れてたな。
俺は思考を一旦中断し、スルーグ達を出迎えるべく玄関へ向かった。
「貴様のような者が――」
薄っすらと怒鳴り声のようなものが聞こえ、自然と駆け足になる。
玄関では、スルーグがレオノラに詰め寄っており、他四人が必死にそれを宥めていた。
横に荷物を持ったまま突っ立っているのは……救世の兵か。
「おお、タカ。私に無断でお泊まり会を計画するとは。つれないじゃないか」
「悪かったよ。でも何も喧嘩を始める事ぁねぇだろ」
「私は歓迎するつもりだったのだが、そこのスライムが生意気にも私の研究にケチをつけてきてな」
レオノラが鼻を鳴らす。
それを見たスルーグが怒りを隠そうともせず怒鳴った。
「ふざけるなッ! ワシには分かる、そこの白い人型がどれだけ冒涜的な物かがなッ! 命を舐めるなたわけめッ!」
ああ、そういえばあの兵は……人の魂が原料なんだっけか。
「酷い言い様だ。そう思わないか? タカ」
レオノラが半笑いで俺に視線をよこす。
お前なぁ。
「俺の煽りの真似か?」
「とてつもなく心外な発言だな。言っていい事と悪い事があるぞ」
「その言葉そっくりそのまま返すわ」
はあ。
俺は溜め息をこぼすと、レオノラを脇へ押しやり、強引に話を進めた。
「材質が材質なだけに、そうやって憤る気持ちも分かるけどよ。今は抑えてくれないか」
「……分かっておるとも」
「命が貴重な物という見解は私も同じだ、そこのスライム」
「ワシをスライム呼ばわりするな。フン、何が命は貴重じゃ。金銭に抱く感情と同様のものでしかないじゃろう、貴様のは」
レオノラが口の端を歪める。
「何を言う、金銭なんぞに価値はありはしない。命は最も重く、利便性が高――」
「はーいはいはい。そこまでー」
レオノラの言葉を遮る。
クソが、いつまで口論する気だ。
「どの部屋が空いてるか教えろ」
「む? 地下の実験体保管室なら少し空きがあるが」
「今すぐ心中すっか? コラ」
レオノラが、肩をすくめ、通路の先を指す。
「そこの先ならいくらでも空いた部屋がある。勝手に使え」
「あいよ。よし、行くぞスルーグさん」
スルーグさんの背中を掴み、無理やり進ませる。
これ以上あの場に居たらどうなるか分かったもんじゃねぇ。
「……すまんな、普段なら無視できたのやもしれぬが、魔女の一件で気がたっておった」
「誰にでもそういう日はありますよ」
「すまん」
情緒不安定なやつが多すぎる。
砂漠の女王を見習って欲しい。あれだけクソでかい感情を抱えて平静を装えてんだぞ。もっとしっかりしてくれ。
「スルーグ。我と同部屋にしておくか。あまり一人で考え込むのは今は悪手に思う」
ネイクの発言に続くようにして、エリーさんが声をあげた。
「あ、じゃあティークさんとレトゥーさんの二人組みは同部屋で、私はタカさんと同部屋というのはどうでしょう」
「却下で」
あぶねぇ。
疲れてたから脳死でオッケー出すとこだった。
「えー、別にいんじゃなーい? 私もレトゥーちゃんと久々にゆっくり話したいし」
「一人一部屋ずつあると思うんで、基本はそれでお願いします」
ティークさんがつまらなそうな顔をする。
なんかアレだな。スルーグさんとは打って変わって享楽的というか何というか。
「了解ー。じゃあこの部屋でいいや」
ティークさんが適当に部屋を選んで入っていく。
それに続くようにして、他四人も部屋に入っていった。
よし。一先ずは安心だな。
「……あっ」
俺はそこまでやって、重大なミスに気付いた。
「抜け道、あるかどうか聞いてねぇ」
どうしよう。
何故かある前提で話を進めてた。
交渉用の本が届き次第出発するための泊まりだったが……抜け道が無いんじゃ意味がない。
慌ててスルーグさんの部屋に行こうとし……動きが止まる。
「スルーグさんってどの部屋に入った……?」
ティークさんがどの部屋に入ったかは覚えているが、その後好き勝手に入っていった四人についてはどの部屋だったか自信がない。
「まぁ別に誰でもいいか」
俺は多分誰かが入っているであろう部屋の戸をノックした。
「はい」
くぐもった声が聞こえる。
「すいません、入っても大丈夫ですかね?」
そう言ってから、俺は自分の迂闊さを後悔した。
誰かどうか確認を取ってからにすれば良かったのに。何故わざわざギャンブルにした!?
「今開けます」
「あっ、いや、違……」
慌ててやめさせようとするも、無慈悲に戸が開く。
そこに立っていたのは――。
「……そろそろ祈りの時間だったのですが」
祈り虫こと、レトゥーさんだった。
ふー、あっぶねぇー。
エリーさんだったら即死だったぜ。
てかスルーグさんじゃなくても知ってる可能性あるしな、一応この人にも聞いとこう。
「街の外に出るための抜け道ってありますかね?」
「はあ、抜け道ですか。昔、エリーが作った物はありますが……下手をするともう崩れているかもしれませんよ」
なるほど。
「場所は……少し記憶に自信がありません。私はその作業にあまり参加していなかったので」
「そうですか」
じゃあスルーグさんに聞いて確かめるか。
「エリー本人に聞くのが確実だと思いますよ」
えっ。
「スルーグさんで良いんじゃないですかね」
「彼は今、少し心が荒れていますから。仮に落ち着けるにしても私達のような関わりの深い者でないと難しいでしょう。可能ならばタカさんには今あまり接触して欲しくない」
えぇ……。
「じゃあティークさんは……」
「彼女がそういう事を覚えていると思いますか?」
うっ。
「ネ、ネイクさんは」
「スルーグと最も付き合いが長いのは彼です。私の口から言うのはなんとなく腹が立つので嫌ですが、彼が現状スルーグのメンタルケアという面において一番効果を出せる人物です」
「えーと、つまり?」
「もう少しすれば彼はスルーグの部屋に行くでしょう。そして、私達はそれを邪魔すべきではない」
あー、うん。
なるほどね。
「詰み、か……」
「そういう事です。観念なさい」
言うことを全て言い終えたのか、レトゥーさんが部屋の戸を閉める。
俺は、その場でただ、頭を抱えた。