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飯屋跡地にて

「タカ、血の臭いがする。あと、一応さっき嗅いだ香辛料の匂いも」


「はぁ~? マジかよ」


 厄介事じゃないのそれ。

 帰りてぇ。


「どうする?」


「どうするって言ってもなぁ……」


 あいにく日和ってる場合じゃないんだよな。

 少しの逡巡の後に、俺は結論を出した。


「行くぞ」


「了解」


 俺は全力で走……ろうとして、慌てて止まる。


「おいモータル。そっちが先導してくれないと無理だ」


「タカが勝手に走り出しただけじゃん」


「すまん」


 モータルが先行し、それに続いた。






 数分も経たぬ内に、瓦礫の山が見えてきた。


「なんでだよ」


「さぁ?」


 確かにここはあの飯屋があった場所のはずだ。

 おかしい。


「おい、何かあったのか」


 瓦礫を運んでいる、見覚えのある巨漢に話しかける。


「ミセ、トジテルヨ」


「んな事ぁ分かってんだよアホ。なんで店がぶっ壊れてるのかきいてんだ」


「ミセ、トジテルヨ」


「ははーん、さては喧嘩売ってんな?」


 そう言って短剣をチラつかせた。


 次の瞬間。


「ガアッ!?」


 そのゴーレムの右腕がすっ飛んだ。


「テキセイハンノ――」


「おい待て待て待てッ!」


 モータルがそのままそいつを斬り伏せかねなかったので、慌てて止める。

 巨漢の腕と剣が交差し、拮抗した状態のままモータルがこちらに振り返る。


「タカ、顔面に直撃するとこだったよ」


「いや悪ぃ、油断した。でもコイツ勝手に殺すのはもっとやべぇだろ。なぁオイ、店主呼んできてくんねぇか。さっきのはちょっとしたジョークでな」


「テキセイハンノウ」


「ッ!?」


 反射的に横に飛び退く。

 先ほどまで俺が立っていた地点に小規模なクレーターが出現した。


「テキセイ、ハンノウ……」


 見れば、正面の巨漢と全く同じ見た目と体格の奴らが、ぞろぞろと集まってきていた。


「チッ、上等だ。やんのかコラ」


「いやいや、やんないで欲しいかなぁ!?」


 俺が完全に意識を戦闘にスイッチした直後、どことなく間延びした声が響いた。


「客を随分と待たせたな」


「あっはっは! 閉店つっても出て行かねぇ、金も払わねぇ、なんて奴ぁ客じゃねぇ!」


 腰のポーチからいくらかの金を握り、現れた店主に投げつける。


「……えぇと?」


「エリーさん達はどこに行った。教えろ」


「あぁ、そういう用事で……あー、まぁ、そうだな。まだ壊れてねぇ部屋の方に居るが」


「話さなきゃいけないことがある。会わせろ」


「えー? また暴走して、地下農園まで破壊されたりなんかしちゃったら、流石の俺もマジギレしちゃうよ? めちゃくちゃ悪質なテロ行為とかしちゃうよ? 大丈夫なの?」


「大丈夫だ」


「おっ、これ、もしそうなってもテロ行為する間もなく殺すって感じかな!?」


 なんとなく、影を思い出すノリのウザさだ。

 

「なんでもいいからさっさと会わせろ」


「えぇー……うわっ、横の子の殺気やば。その瓦礫の向こう行ったらだいたい分かるからもうはやく行ってよ」


 急に早口になって俺らをシッシッと手で払う。


 影っぽいと思ったがちょっと違うな。

 アイツのウザさはオンリーワンだったわけだ。是非そのまま二度と出て来ないでくれ。


「行くぞ、モータル」


「了解」


 へらへらとした様子の店主を置いて、エリーさん達がいるらしい場所へと急いだ。







「あそこか?」


 微妙に建物の形をした場所があったので、そこを目指し走る。

 地面が穴だらけなのしんどすぎる。

 

「いったい何があったんだ」


「客が暴れたんじゃないの」


 まぁそんなとこだろうなぁ……。


 そんな会話をする内に、建物に到着する。

 一つだけ閉まっているドアがあったので、さっそくノックをしてみた。


「誰じゃ」


「えーと、タカです。ちょっと話しておかなきゃならないことが出来まして」


「……入れ」


 スルーグの声にそう言われ、入室する。


 居たのは、スルーグと、ベッドに横たわったエリーさん。


「え」


「なんじゃ」


「いや、え? エリーさん、ひょっとして怪我を?」


「そんなもんとっくに治って、さっきまでは普通に椅子に座っておったわい。自己嫌悪か知らんが、慌ててベッドに戻り怪我人の振りを――」


「わーっ! わーわー!」


 エリーさんが叫び声をあげながら起き上がった。


「いや違うんです、タカさん」


「起きてるならいいや。スルーグさん、予定よりも早く魔女に会いに行くことになった」


「えっ」


 エリーさんの話に付き合っている暇はない。

 手短にいこう。


「ほう? それは何故じゃ」


「この街の結界が破られそうになっててな」


「なんだと。それほどの強力な攻撃が……」


 攻撃?

 あぁ、少し勘違いしてるな。


「鍵開けだ。鍵開けの術で破られる」


 すると、スルーグが固まった。


「……はあ?」


 ようやく動き出し、こちらを睨み付けた。

 まぁそうなるだろうよ。


「ありえないと思うだろうが」


「ありえないどころの話ではない」


 スルーグが、珍しく顔を歪める。


「確かに結界に鍵として定義されている物は存在するとも。じゃがな、鍵開けを根源とする結界シリーズは、欠点を作ることによるリソース確保を狙っているだけじゃ。鍵を開ける、または用意することは一切考慮されておらん。可能性として存在するだけで、それは理論上の話の域を出ん。そうじゃな、国から褒章を貰うレベルの鍵開け術士がその一生を棒に振る覚悟でやれば作ることができるかもしれん……そのレベルの物じゃ」


「その一生を棒に振るのをとんでもねぇ速度で繰り返していつしか破っちまうんだよ」


 俺の言葉に、スルーグが口を開けたまま、再び固まった。

 しばらくして、絞り出すような声音で、言った。


「……魔女の、新作、か」


「そうだ」


 スルーグの頭部がどろりと融けた。

 そしてそのまま頭を押さえて倒れ込む。


「あのッ……忌々しい冒涜者ッ……何を考えているッ!」


 魔女に会いに行くと話してからの、この話題だ。

 薄々予感はしていたのだろう。

 先ほど早口で否定の言葉をまくしたてたのは……現実逃避か。


「今すぐッ! 今すぐ殺すことは出来んのかッ!?」


「そりゃ無理だ。聖樹の国も巻き込んで、戦力を増やして、かつ不意でも打たねぇと。今突撃したって、塵でもはらうみてぇに殺されて終わるぞ」


 スルーグがよろけ、壁にもたれかかる。

 だいぶ精神にきたらしい。


「……少し、時間をくれるか。あぁ、エリーは三人を呼んでこい」


 スルーグが顔を元に戻しながら、そう指示する。


「一人にした方が良いか」


「ああ、頼む。少し、心を鎮めたい」


 エリーさんが心配そうな表情をしながら部屋を出る。

 それに続いて俺達も、外へ出た。



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