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タカクエウォーク

「ループゲーは嫌いなんだよ……」


 掲示板魔法を閉じ、いつまで経っても変化の無い道を睨みつける。

 モータルさえ来ればなんか色々破壊して力技で解決してくれそうではあるのだが、そうならなかった時の為に多少の糸口は見つけたい。


 考えろ。何か変化した点はあるか?


 歩を進め、角を曲がる。

 また正面に同じ道が広がる。


 同じか?

 何か違わないか?


「……クソが」


 なんだ。頭にモヤがかかってるみたいだ。

 何か思考を縛られているような感覚がある。


 それに、段々と息が苦しくなってきた。


 畜生、こうなったら飽きるまでループしてやる。

 俺の速さをとくと見やがれ。


 クラウチングスタートをかまし、直線をあっという間に駆け抜け、壁を蹴り、無理やり曲がる。

 これでワンセット。これをひたすらに繰り返す。

 はっはっは! あいにくソシャゲーマーは虚無感を伴う周回作業が得意なんでな! とことんやらせてもらうぞ!


 50周はしただろうか。

 初めはパリパリッという些細な音だった。

 だがその音は、もう10周ほどしたあたりで大きさが増し、更に10周した頃にはうるさいほどの音に変わった。


「……ッ!」


 そして起こったのが……表示バグのような、空間の隙間。

 その隙間からは、別の道のような物が見えた。


「そこだ……ッ!」


 滑り込むようにして隙間を通る。

 頭の奥で何かが弾けるような感覚。その直後――。





「止まれ」


 足を止め、その場でぐるりと周囲を見る。

 フード付きの外套を被り、人相を隠した、あからさまに怪しい集団。5人。

 それらが一様に、俺に杖を向けていた。


「回廊の術の許容量を上回り破壊するとはな。だがそれもここまでだ」


「ちょっと速く走った程度で突破されるの、明らかな設計ミスでは?」


「黙れ。貴様の気が狂っているだけだ。普通、人間はあんな状況で全力疾走しない」


 反論をしようとしたところ、頬を魔術の刃らしき物が掠めていったので黙った。

 ちゃんと強いなら先に言っとけよな。


「やめてください。タカさんに怪我はさせないって言ったじゃないですか」


 背後で見知った声がする。

 エリーさんだ。


「お前も黙っていろ。まだ方針も定まらない内に術を突破しおって。忌々しい……ッ!」


「忌々しいのはうちらだと思うけどぉ?」


「黙れ黙れ黙れ! そもそもワシらに今更変化なぞ必要無いッ! 所詮日陰者。一生影に生きるが定めだと何度も言っているだろうに……!」


 なんか仲はあまり良くないみたいだな。

 

「話を聞く価値ぐらいはあると思うが」


「私はそうは思いません。さっさとこの粗暴な男を切り刻んで埋めて、日常に戻りましょう。このような非日常は祈りに不要です」


「聞きたい奴だけ聞けばいい。興味がないのなら、疾く失せろ祈り虫」


「はあ?」


 背後で何やら口論が始まったあたりで、俺はたまらず口を開いた。


「もう何もなかった事にして帰っていいか?」


「良いわけがなかろう」


 正面の老いた口調の男が呆れたように声を出す。


「……はあ、もういい。エリー、貴様が始めた事だ。決めろ」


「えっ」


 えっ?


「……あの、タカさん」


「何でしょうか」


「ごめん、なさい。こんな事になるとは思ってなくて」


「奇遇ですね。俺もです」


「えへへ」


 えへへじゃねぇよ。ぶっとばすぞ。


「タカさんは、アレなんですか? 魔女の眷属なんですか?」


 …………。


 あー……はいはい。

 こりゃ回答次第でぶっ殺されるか?

 一旦すっとぼけとこう。


「あはは。何を言うんですか」


「正直に答えてください。お願いします。私は……」


 そこで言葉を詰まらせるエリーさん。

 何だよ。


「私を、見てください」


 誰かの息を呑む声が聞こえた。

 同時に、パサリとおそらく外套を脱いだ音も。


「やめろ、エリー」


「いいんです。タカさん、振り返ってください」


 何を見せられるのかは分からない。

 分からないが……見るしかないんだろうな。


 俺が覚悟を決めようとしたその時。

 先ほどの老いた口調の男の後ろ。

 そこから恐ろしい速度でこちらに突っ込んでくる一つの影。


「む……」


 気が付いた老いた口調の男が突っ込んできたモータルに手をかざした。

 そして、モータルの突進を滑らせるようにして避けた。


「ガウァッ!?」


 獣のような雄叫びをあげながら、若干モフっとしたモータルが俺の方に突っ込んでくる。


 それをキャッチ。体勢を整えてやりつつ自分も戦闘態勢に入る。


「間が悪いのか良いのか分からんが、助けにきてくれてありがとよ」


「こいつら何?」


「さあな。あっ待って。殺さないで」


 危ない危ない。流石にこの状況でぶっ殺したら次の日までもやもやして眠れない。


「クソッ、貴様もかッ! 回廊の術を力技で破壊するなッ! ちゃんと迷えッ!」


 知らんがな。

 てか俺が破壊したのにもう展開されてたの? その回廊の術っての。良いなぁ欲しいなぁ。


 ……んな事考えてる場合じゃねぇな。

 正面を見る。エリーさんはもう外套を着なおしている。


「エリーさんは何を見せたかったんだ」


「……もう見せる必要はなくなりました。モータルさん、魔女による改造種だったんですね」


「はぁ? モータルはモータルだ。妙な言い掛かりつけるんだったら黙ってねぇぞ。やっちまえモータル……待て、まだやるな、やめろ」


 一瞬飛び出しかけたモータルに待ったをかける。

 はっはっはこやつめ。マジで油断も隙もねぇな。


「タカさんは、魔女の眷属なんですね」


「違うが?」


「……じゃあ、なんなんですか」


 それは俺が一番知りたい。なんて言えるはずもなく、さて何を言うかと悩む。


「めっちゃ言い淀んでねー? とりま拘束で尋問っしょこれは」


「是。我としてもそれは良い提案に思う」


「はぁ? こんな男、さっさと殺処分でしょう」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めたフード外套ども。

 賑やかな奴らだ。あとちょっとアホそう。

 ……良し。


「俺が何者か知りたいか」


 俺がそういうと、言い争いがピタリと止まった。


「教えてくださるのですか?」


「エリーさん。俺の足を見てください。手の甲じゃないですよ」


 例の痣をチラつかせたせいか、空気が真剣なものに変わる。


 そんな中、俺はその場で軽く足踏みをした。


「どうですか」


「えぇと?」


「やっぱりダメですか。俺が回廊の術を破った時にちゃんと見てた人は?」


「す、すみません。多分いない……いない、ですね、はい」


「はあ……じゃあそこちょっとどいてください」


 俺に言われ、正面の二人が退く。

 

「よーく足を見ててくださいね」


 皆の視線が足元に移る。

 その隙に、俺はモータルに口パクである指示をした。


 さて。


「いきますよッ!」


 全力全開。あっという間にモータルと共に5人から距離をつける。



「……あッ!? 貴様ら!?」


 遅ぇ遅ぇ! 麺が伸びちまうぜ爺さんよ!


「ではでは皆さんさようならァ!」


 俺はとびきりのウィンクをかますと、あっという間にトップスピードにのった。



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